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Maternity moon
『マタニティ・ムーン』第五回
マタニティ・コーディネーター  きくちさかえ


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『からだと向きあう』


●からだの中の自然

最近は、クラスのある週末に東京に出かけ、平日は河口湖のアトリエで過ごしている。田舎での生活が長くなったので、山々に囲まれた自然の変化がこれまで以上に感じられ、癒されている自分に気づく。移りゆく木々の色、咲き乱れる庭の花々、美しい鳥たちの声や、春に裏の納屋で生まれた野良猫の子どもたち。天気によってその悠然とした姿を見え隠れさせる富士の山。そんな自然の有り様に囲まれていると、実に幸せな気分になる。
都会で生活していると、季節はおろかその日の天気に左右されることもない。雨が降ろうが槍が降ろうが、会社も学校も相当のことがなければ休みにはならない。それがあたりまえとして生きている。晴耕雨読的生活は、昔むかしの神話か、現代にあっては夢のような贅沢なお話になってしまった。
天候、すなわち自然に左右されないというのが、現代人の現代人たる由縁でもある。文明という曙は、自然を克服することによって興ってきた。いかに自然を克服し、いかに人間が自然を越えたと勝ち誇ることが、現代文明や科学思想の第一義なのだ。
東京生まれで、東京育ちの私は、自然に囲まれた環境で長いこと暮らしてこなかった。でも、3年ほど前に富士山にほど近い、河口湖のほとりの村に家を借りることにした。理由は、すべてをコンクリートやアスファルトで囲まれた東京という空間に息苦しさを感じ始めたからだった。東京で生活していたときには、それが自然が枯渇しているせいだとはっきり自覚していたわけではないのだけれど、今思えば、当時の私は金魚が水面に顔を出して口をパクパクさせるような、そんな感覚に陥っていたのだろう。
自然とかけ離れた生活をするようになってから人間は、自らのからだとも遠くかけ離れてしまったように思う。からだもまた自然で不可解なことに満ち満ちている。だいたい皮膚の内側は自分でありながら目には見えないし、ひとつひとつ取り出すこともできない。見えないものは理解し難いから、専門分野で研究し、科学的に理解しようというのが今の社会の考え方だ。でも私はいつも思うのだけれど、自分の人生が学問的かつ科学的でないように、からだもまた学問や科学だけで語れることではない。自分そのものなのだ。
自分のことは自分が一番よく知っている、はずなのだけれど、多くの人は体調がすぐれないとすぐに医師のところへ行く。「私は風邪のように思うのですが、風邪でしょうかね、先生」と医師にお伺いをたてる。「そうですね、風邪のようです」と医師が言うことによって、患者は安心するのだ。自分のからだのことであっても、専門家に聞いたほうが正しい見解が得られるということを教えられているからだ。
反面、大人であれば、いくつかの持病というものをもっていて当然という考えもはびこっている。胃炎や頭痛、腰痛などは日常茶飯事だし、女性の場合は月経不順や月経痛など、だれにでもある不快な症状と思っている人が多い。だからあまり気にもしないし、その原因を探ろうともしなければ、たまのことなら我慢して治そうともしない。でもそれは「ちょっとここが、弱っていますよ。気にして下さいね」という、からだから送られてくる信号なのだ。
ここにも自然に左右されない現代人の顔が見える。もちろん病的になってしまったら、最終的に医学的な治療が必要だ。でも、自分のからだのことなのだ、病気になる前までの段階で予防的な自己管理はもっと積極的になされてもいい。お産が自分のことであると自覚する以前の問題として、まずからだが自分のものであるということを知ってほしいと感じる。



●妊婦の不摂生

マタニティ・クラス以外にも、私はある病院でマタニティ・ヨーガクラスを定期的に担当させていただいている。その病院は、医療設備の整った立派な病院だ。でも、残念なことにそのクラスに通ってくる妊婦たちは、マタニティ・クラスの参加者と比べると優位に体重が増加傾向にある。ヨーガをやろうと志があるのだから、向上心はお持ちなのだろうけれど、やはり太っていらっしゃる方が多い。そのクラスで「妊娠中は、甘いものは避けたほうがいいですよ」などと言おうものなら「え〜!」という反応が必ずというほど返ってくる。まったく食べないほうがいいと言っているわけではないのだけれど、それでも私が想像する以上に彼女たちは甘いものが大好きなようなのだ。
病院側は体重管理をしっかり言っているのだけれど、それでも妊婦たちは太るということにあまり危機感をもっていない。それは、その病院が立派であるが由縁ではないかと、私は考えてしまう。彼女たちは、設備の整った先端的な病院で出産することを選んだ。極端な言い方をすれば、彼女たちがどんなに太って病的になろうとも、その病院は立派であるがゆえに彼女たちを救ってくれるのだ。最終的には、帝王切開という武器もある。
妊婦はだれでも、健康に出産したいという思いはある。でも、自己管理をするにはいろんなことを我慢しなければならないし、「そんな面倒くさいこといやだわ」という現代の妊婦たちがいる。そうした妊婦に、出産準備指導をなさっているスタッフの方々のご苦労は大変なことだとお察し申し上げる。

一方、助産院や自宅での出産を希望する方が半数をしめるマタニティ・クラスの参加者の場合には、自分のからだが病的になってしまったら希望の出産ができなくなってしまうので、妊婦たちは必死だ。 
マタニティ・クラスの参加者も、ピチピチに健康な妊婦ばかりではない。都会の女性たちだから、生活そのものが自然ではないし、食べ物や食べ方も自然とはいえなくなってしまっている。でも、自然に産みたいと望むのであれば、生活の見直し、食の見直しを徹底してもらうように言っている。これは修行だと、私は思っている。人生そのものが修行であるように。そんなに難しく考えなくてもと、思われるむきもあるかもしれない。でも、妊婦は親になるのだ。親になるということは、甘いことではない。それは妊娠、出産で終わることではなくて一生続くことなのだ。親がしっかりしていなければ、子どもはしっかり育たない。妊娠の時期、出産準備のクラスの中でどれだけ伝わるかはわからないけれど、親になる準備もまた、クラスでの目的だと思っている。



●からだを知る

クラスの中で私が伝えたいことは、自分の意見をもつということ。人が言うからとか、みんながやっているからとか、まわりに流されてしまうことがないように、自分で感じ、考えるということをしていってほしい。自分の意見をもつためには、自分がどのように感じているのかをまず知る必要がある。それを知るためには、ヨーガなどのボディワークが役にたつ。からだを動かすことは、自分を知るいいきっかけになるのだ。ボディワークは、現代人が忘れてしまった自分の動物的な本能をよみがえらせてくれる。
出産がからだでするものである以上、からだの準備をしない限り、講義形式の準備クラスでは限界は見えている。からだを動かす、からだで感じる。そして感じたことを、軽視せずにちょっと立ち止まって考えてみる。そして、その思いを言葉にしてみる。こうした自分の内なる声に耳をすますということは必ず、お産や子育てへもつながっていくと私は信じている。
ヨーガクラスでは、からだを知ってもらうために、自分の骨盤に触ってもらうということをしている。これには、多くの人が初めはびっくりするようだ。膝を開いたしゃがんだ姿勢で「まず恥骨を触ってみましょう」と言う。すると「恥骨ってどこですか?」と言う人もいる。私が自分の恥骨を触って見せて説明する。次に左右の座骨、最後に尾底骨を触る。そして、わかりにくいけれど、それらを結ぶ骨盤の弧を探ってみる。すると意外ことがわかるのだ。

恥骨は思った以上に厚みがあり、そのすぐ下に赤ちゃんの出口である膣がある。一方、肛門の回りにはけっこう空間があって、赤ちゃんはその空間を通り抜けてくる。だから、出口は前にあっても、まず赤ちゃんが肛門に向かって出てくる(押してくる)ことを骨盤を触りながら説明する。
そのあとに、骨盤底筋肉の運動をする。
「恥骨と座骨と尾底骨を結ぶ線の内側は空洞になっています(私は両手を使って骨盤にみたてて説明している)。その部分を覆っているのが骨盤底筋肉です。この筋肉を押しわけて赤ちゃんは出てくる。この筋肉が硬いと赤ちゃんは出にくいし、会陰の筋肉も伸びにくいので、ここを柔軟にする体操をしておきましょう」と講釈をたれて、「骨盤底筋肉には、女性の場合、尿道口と膣と肛門の3つの穴が開いています。膣と肛門のあいだが会陰と呼ばれる筋肉です。この3つの穴を囲むように8の字に筋肉がかかっています。穴はそれぞれに活躍筋を動かすことができるのですが、少々わかりにくいので、膣と肛門だけを練習してみましょう。まず、便を止める要領で肛門を閉めてみます。おなかには力が入らないように気をつけて」と言って、肛門を5回ほど閉める練習をする。
「次に膣を閉めていきます。膣を子宮のほうへ向かって上に引き上げるようなつもりで閉めます」。これはいわゆるキーゲル体操というもので、5〜10回ほど行う。
会陰は一般には伸びにくいと言われ、初産の場合には多くの施設で切開をしているが、助産院の場合には会陰保護をして切れないように勤めている。会陰もまたからだの一部の筋肉だから、ほかの筋肉同様、訓練しだいで伸びやすくなる。この運動は会陰だけでなく、産道そのものを柔軟にするので、赤ちゃんが下降する際に開きやすくなる。
会陰の伸びは、もちろん個人差があるのでなんとも言えないのだが、練習によって柔軟にはなる。さらにマタニティ・クラスでは、会陰が切れないように、できるだけいきまないことや、会陰だけに赤ちゃんの頭の重みがかからないように、出産時の姿勢を仰向けではない方法をとるようにすすめている。分娩室がリラックスできる雰囲気かどうかということも、会陰の伸びに影響すると思う。
要は、なんでもそうなのだけれど、ひとつの方法だけではなく、いろいろな角度からオルタネイティブな方法をとり入れて、自分でできる範囲でやれることをやることが大切なのだ。



●東洋的な治療

ヨーガクラスの中で、妊婦たちを観察してみると、意外にからだの動かし方を知らない人が多いことに気づく。背筋をうまく伸ばせなかったり、肩の力が抜けなかったり。座って両足の裏を合わせて膝を開くポーズのときに左右対象に開いていない人もけっこういる。どちらかの膝が高い人は、整体で言うところの骨盤の開きが左右対象でないことになる。いわゆる「骨盤がゆがんでいる」状態だ。
 腰を動かすポーズをすると、腰痛のある人は顔をゆがめる。自分で気にはなっているのだけれど、そんなにひどい腰痛ではないから、不快な症状のひとつくらいに考えているのだろう。しゃがむ姿勢のとれない人もいる。やりにくい姿勢がある人には、私は声をかけて聞いてみることにしている。するとたいていは何か問題を抱えている。そうした人には、マタニティ・クラスの場合には、整体での治療をすすめている。東京には、妊婦をよく診ている整体治療院がいくつかあるので、そこへ行くことをすすめる。
 妊娠中に不快な症状をもつ人や、極端にからだが硬い人は、お産のときにもなんらかのトラブルが出るのではないかと思う。腰が痛い人は、分娩台の上で長時間同じ姿勢をしていたら、陣痛の痛みに加え、腰痛の痛みにも耐えなければならないだろうし、脚が開きにくい人は、分娩台の上でも同じように大変だろうと想像できる。

ヨーガの中で、辛い姿勢があるときは、どのような姿勢をとったら楽になるのか探ってみてもらう。自分が楽な姿勢ややり方をみつけるということも、からだに聞くということにつながり、これがひいてはお産のときに、いかに楽な姿勢をとるかという練習につながっていくのだ。
姿勢はとても大切だ。人間は痛みを感じたとき姿勢を変えることによって、ある程度痛みを軽減することができる。姿勢は、心のもちようにも影響する。背筋がきちっと伸びていれば、気持ちも前向きにスキッとしてくる。反対に背中が丸まっていたり、からだを硬くしていると、心持ちもぐじゃぐじゃとして閉ざされた気分になっていくような気がする。
ヨーガを毎日やることによって、こうした症状は次第に緩和されていくのだが、なにせ妊娠期間は限られている。気がついたときには、タイムリミットまであと2〜3ケ月ということも多い。ヨーガはじわじわと時間をかけてからだ全体を整えていくものだから、お産までには間に合わない人もいる。そうした場合は、人に触ってもらって整える整体やマッサージなどが効果的だ。

とはいえ妊婦を診たことがない治療院はすすめられないので、地域によってはおススメの治療院を見つけるのは難しいことがある。河口湖のクラスでは、そばにアロママッサージをしているところがあったので、私がまずそこへマッサージを受けに行き、雰囲気を見てみることにした。女性のマッサージ師の方で何人か妊婦さんも診た経験があるというので、クラスの方を紹介したいのですがと相談してみた。アロママッサージは、整体のように骨盤を調整することはしないけれど、アロマの香りがリラックス気分にしてくれるし、人にからだを触ってもらうという気持ちよさがある。筋肉の力が抜けない人には、マッサージは効果がある。
私が整体やマッサージに行くことをすすめる人は、腰痛がある人、骨盤の左右差が極端な人、からだが極端に硬い人、緊張症の人(こういう人はだいたい精神的な悩みを抱えていることが多い)など。こうした症状は話だけをしているときにはなかなか発見できない。ヨーガでからだを動かしながら、相手のからだの動きを見て判断している。
逆子が治らない人には、33週くらいからお灸での治療をすすめている。お灸も、妊婦は扱わないという治療院が多いので選ぶ必要があるのだが、幸い横浜など東京近郊にはいいお灸の治療院がある。お灸の場合も、たんに逆子を治すだけでなく、からだ全体の血行をよくし、全体を整えることによって、逆子を治すほうへもっていくようだ。だから、逆子だけでなく、腰痛やむくみなどの不快な症状にも効果がある。
クラスの人が通う治療院の方々とは、連絡をできるだけ密にとるようにしている。妊婦の症状や心の持ちよう、またその変化などの情報を交換しあって、その方をどのように導いていくかを相談している。出産をケアする医療者、準備クラスのアドバイザー、治療師、産後のおっぱいケアの助産婦など、さまざまな人がひとりの妊婦に関わることによって、その人に合った出産法やからだとの向き合い方、精神面をケアすることができるのではないだろうか。


参考/マタニティ治療を行っている治療院
・整体治療院
「癒しの森」整体治療、アロママッサージ、マタニティ・セラピー 世田谷区奥沢6-16-4  03-5707-6767
「松が丘治療室」整体治療、アロマテラピー 中野区松が丘1-10-13 03-3228-4943
・鍼灸治療院
「せりえ鍼灸室」鍼灸治療 横浜市中区花咲町1-1大竹ビル201 045-262-5550

*この原稿は、メディカ出版「ペリネイタルケア」5月号(1999)に掲載されたものです。


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