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掲載:2006年10月06日〜2006年11月15日
社会の中の携帯電話をとらえる 上田昌文
携帯電話をいつから子どもに持たせるべきか。
適切な使い方をどう教えていけばよいのか。
この問題が日本中の多くの家庭や学校で大人たちを悩ませています。

いまや9割以上の大人が携帯電話を所持していて、人々が街のそこここで電波を送受信するのはごくありふれた光景になりました。圧倒的な便利さゆえにここ10年であまねく普及したこの技術は、しかしながら、私たちのこれまでの電波の利用の仕方からみれば、かなり変則的な存在なのです。電波は本来「公共のため」だけに限って事業者にその利用を許可し、アマチュア無線など個人目的で利用する場合にも厳格な免許制をとっています。ところが携帯電話は違います。通信事業者がいわば代行して一括して免許を得て、個々人は自由に電波を送り出せる形になっています。確かに持ち運びのできる“電話”ではあるのですが、電波がいついかなる場所からでも私的利用のために発信される状態を作ってしまったという、ことの本質に目を向けなければなりません。

まずは、大人たちから社会のルールづくりを

「公共のための利用」から「私的利用」に道を広げるには、それなりに社会のルールができあがっていなくてはならないと思われますが、そこが固まらないうちに次から次へと新しい機能が付加されてきた、というのが現実ではないでしょうか。携帯はすでに“電話”から“外部化されたデジタル脳”への進化を歩んでいるかのごとくで、カメラ、テレビ、キャッシュカード、インターネット……などおよそ情報と名のつく機能ならなんでも取り込んでしまいそうな勢いです。しかし目には見えないので実感がわきにくいのですが、電波がますますさかんに飛び交うことに対して、適正なルールを皆で考えることもなく、なし崩し的にそれを受け入れていっていいものでしょうか。

単純なことから考えてみましょう。自分の周りで、携帯電話で大きな声で話す人がいれば、特にそれが公共の場所なら、たいていの人は不快感を覚えます。それは、私たちが暗黙のルールとしてきたこと、つまり「電話は本来的に個人使用のためのものである以上、話し声が周りの不特定な人々の耳に露骨に入らないようにするのが、公共空間の使い方としてまっとうだ」と受けとめてきた感覚と衝突するからです。携帯電話は公共空間にいきなり私的空間を持ち込み、“繋がること”の私的都合あるいは欲望を優先させるその行為が、傍若無人のデリカシーのなさを露呈させていて、いかにも不快なのです。携帯使用のルールらしきものの一例に、「優先席付近では電源オフ、それ以外ではマナーモード」という電車内での告知がありますが、これは携帯電話使用者とそれを不快に思う者(そしてむろん実害を被る可能性のある、ペースメーカを装着している人たち)の両方を立てようとした妥協の産物ですが、ご存知のように実際は優先席の前でメールを打っている人はいくらでもいるわけです。

大人たちの“ルール”一つとってみてもこの状態です。便利な機能になだれ込むようにして多数の人が飛びつけば、大きなお金が動きます。大きな利益をもたらす“技術革新”が、およそ技術では解決し難い問題を新たに生み出しているのです。その積み残しをどこかで整理しなければならないはずです。


子どもに持たせる前に知っておきたいリスクについて

子どもに持たせる前に知っておきたいリスクについて

携帯電話が関係したリスクには個人情報がらみのことがらや電磁波の人体影響に関することがらもあります。前者は「いつでもどこでもだれとでも繋がれる」の特性が犯罪に利用されるわけです。キャッシュカードや定期券、住宅家電の遠隔操作などの機能をケータイに集中すればするほど、起きるだろう犯罪の深刻さは増すものと想像できます。電磁波が脳腫瘍を引き起こすかどうかなどについては科学的に明確な結論が出ているわけではありませんが、少なくとも子どもの脳へのダメージについては「大丈夫だ」と言い切れるものではなさそうだ、と多くの研究者が危惧の声をあげはじめています。

英国の「16歳以下の子どもは携帯電話の使用は控えるべき」という政府勧告をはじめ、いくつかの国でそれに類した規制や勧告がなされているのは、大人に比べて感受性が高く健康被害を受けやすい子どもへの電磁波リスクを意識してのことです。日本ではこの点に対する配慮はまったくないといっていいでしょう。さらに、微弱な電磁波ながら、携帯電話基地局アンテナの周辺に住む人々は四六時中被曝することは避けられません。今日本中のたくさんの地域で基地局設置をめぐって住民と事業者の間にトラブルが生じていますが、それが新聞に取り上げられることはほとんどありません。

携帯電話を持つ子どもが増えれば増えるほど、こうした問題はますますやっかいになると思われます。使っている大人にしても、たとえ様々な問題を突きつけられたとしても、携帯電話を手放すことはできないでしょう。携帯電話の問題は、端末を握る個々人に任される問題のように見えて、じつは思いっきり「社会」の問題なのだ、ということを改めて個々人が認識する、ということがポイントになりそうです。社会を意識して自分の立ち位置をとらえなおす--それが「子どもと携帯電話に関するアンケート」のねらいです。適正なルールを作るには、まず現状の正確な把握から始めなければなりません。子どもを通して見えてくる「社会の中の携帯電話」の姿、それを皆さんの力をお借りして探ってみたいと思っています。


親に安心感を与える携帯電話

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