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掲載:2006年11月16日〜2006年12月15日
河合蘭

河合 蘭(かわい・らん)
妊娠・出産・育児専門のジャーナリストとして女性の自主性を支援している。著書に『未妊?「産む」と決められない』(NHK出版)『お産選びマニュアル?いま、赤ちゃんを産むなら』(農文協)。優しいお産のネットワーク「REBORN」代表。
http://www.kawairan.com


未妊?「産む」と決められない

「産まない」ではない、まだ産んでいないだけ

 今年は『未妊?「産む」と決められない』という本を書きました。「子どもは要らない」と決めたわけではないけれど「まだ、今じゃない」と出産を先延ばしにしてしまう女性たちの心の内を描いたのです。
「未妊」は、本のためのインタビュー中にふと浮かんだ言葉でした。その時お話しをうかがっていた方は、本では冒頭に登場する、ちょっと心配性の女性です。この方は仕事をしてするだけで精一杯の自分に育児ができるとは思えなくて、子どものことを考えるとピンチの光景が頭の中にいくらでも広がるのでした。それなのに、もうひとりの彼女は本当に子どもが欲しくて、育児休暇中の貯金もし、女の子の名前もつけていました。
私は「未妊と言う言葉があるのをご存じですか?」と聞いてみました。「ネットなどで、一部の不妊治療中の人が使っている言葉です。”自分は妊娠しない(不妊)のではなくて、まだ妊娠していない(未妊)というだけ”という意味です」するとこの方は、「そう!私はまさしく未妊なのだと思います」と言ってくれました。
彼女のような、仕事をしていてなかなか出産しない女性を世間は「産まない女」とみなしてきました。でも実は、彼女たちの大半は「まだ産んでいない女」にすぎないのです。不妊症は、頭は妊娠しようとしているのに身体が妊娠しない状態ですが、出産を先送りし続ける人は、言うなれば「心の不妊症」なのかもしれません。


産み時の自由は夢のようだけれど‥‥

 昔の女性には「産む・産まない」の自由はなく、自分の夢があっても、身体が大変でも、次々とたくさんの子どもを産まなければなりませんでした。それを思えば、゜まだ仕事に専念したい」「自由な時間が欲しい」と言って出産を引き延ばせる今の女性は夢のような自由に恵まれています。
 でもそんな自由の中で、出産を決心するのはたやすくないのです。引き延ばしている人はその気になればいつでも産めると思いがち。でも、いつでも産めるということは、いつも産まなくていいということです。  「いっそ、できてしまえば産めるのに」と思い始める人もいます。「仕事で積み上げてきた物が消えるのでは「夫が非協力的」などのためらう理由がいつも頭の中に一杯な状態が続くと、だんだん自分で決められなくなってきます。しかもそんな風に悩んでいる女性は本当に忙しくしていることが多く、夫ともすれ違いがちな生活。加齢による妊娠のしにくさに加えてセックスの回数も少なくなり、頼みの「偶然妊娠」にもあまり期待できなくなります。

「ふたりめ未妊」の人もいる

 自由とは、人に幸せをくれるはずのもの。その反面、自分で決めなければならないという大仕事を、女性とそのパートナーに強います。今、その大仕事を重苦しく感じるカップルが増えています。
 また「ふたりめ未妊」と呼ぶべきカップルも意外と多いことがわかってきました。一人目は衝動的に産んだ、あるいは偶然に妊娠したという人が、次の子を産み切れないのです。この未妊は「わが子にきょうだいを産んであげられない自分」という自責の思いが加わると、夫婦2人の時より深刻な悩みになりかねません。
 未妊のおふたりにおすすめしたいのは、おたがいの気持ちを話し続けることです。話すと気まずくなるという方が多いのですが、それを乗り越えなければ次の段階はないような気がします。これは、ふたりの命を新しい身体に託すかどうかを決める大事な話です。
 また、子どもの決断には「決めないと決める」という道もアリだと思います。そもそも子どもは授からなければ得られません。確実に産まないことはできても、産む方は完璧にはコントロールできないのですから、本当は決めるものではないのです。人為的なコントロールが当たり前になった現代の妊娠ですが、一度、肩の力を抜いて考え直す時間も必要ではないでしょうか。


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未妊 「産む」と決められない
河合蘭/著 NHK出版 生活人新書 ¥735-
子供が欲しいのに一歩を踏み出せないままとどまる、この長い疑似妊娠にも似た状態を、本書では「未妊」と呼びました。「できちゃったら、産めるのに」「誰か、決めて!」そんな思いでいる女性たちを、出産専門ジャーナリスト河合 蘭が精力取材!

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