幼児期は五感と身体を育てる時代
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子どもの発達と脳の不思議1
幼児期は五感と身体を育てる時代 Part.3

談・広木克行(神戸大学発達科学部教授)

協力/NPO法人市民科学研究室 写真/Kikuchi Sakae
2006年10月掲載(専門家の肩書きは取材当時)



「交わりの力」と「ギャングエイジ」 幼児期は五感と身体を育てる時代

Part.3

 3歳ぐらいの子どもは遊んでいるときに、わけのわからないことを一人で言ったりします。他人との交流は並行状態が普通で、それぞれが自己中心で遊んでいるのです。ところが、4歳を過ぎると、仲間といっしょにもっと面白い遊びを見つけたいという気持ちが育ってきます。友だちと交流する力、すなわち「交わりの力」が育ってくるのです。ヴィオーの示した「実用的知能」の中の、人間関係の育ちにあたります。そうした意味でも、大人は、子どもたちが友だちと思う存分に遊ぶ時間と空間をつくってやることが求められるのです。
 この「交わりの力」は、乳幼児期の育ちを経て、6〜7歳ごろになると、さらに飛躍的に伸びます。友だちと集まって野球やサッカーをやったり、いたずらをしたりする、いわゆる「ギャングエイジ」と呼ばれる時期です。大人の目から離れて、子どもたちは自分たちで考え、相談してルールをつくり、群れて遊ぶようになるのです。いろいろな人とかかわる力を身につけるうえで、この時期に友だちとたくさん遊び込む経験は大切です。

 ギャングで遊ぶ場としては、学童保育のようなところが大事な役割を果たすでしょう。学童保育は、同年齢だけでなく、お兄さんやお姉さん、あるいは年下の子どもと群れて遊べる場です。そういう体験もできるだけたくさん子どもたちにさせて、コミュニケーション能力を養ってほしいと思います。


 指の動きが人間らしい器用さを獲得したとき、その子どもに言葉が生まれる、といわれています。ヒトの子が人間になる過程で、手の動きと大脳の発達は密接不可分な関係にあるといっていいでしょう。つまり、子どもたちが文字や言葉を獲得する以前の時期=乳幼児期にこそ、運動や感覚の諸器官を発達させることが大切なのです。

 そのためには、子どもが全身を使って遊びたくなる環境を、大人が用意することです。ただし、親や保育者が「こうやって遊びなさい」と指示するのでは、あまり意味がありません。子どもが自発的に「する活動」と、まわりに促されて「させられる活動」では決定的に違います。知的発達とは、子ども自身が「〜したい」と思う意欲・好奇心が出てきたときに、もっとも伸びるものなのです。

よく遊び、よく食べ、よく眠る
 たとえば、障害児の手や指の発達についても、子どもの手や指を、大人が持って動かしてやるだけでは発達しません。子ども自身が「動かしたい」と感じ、欲することで、発達が促されていくのです。大人は、子どもたちの好奇心を引き出す環境をつくってやることです。
 乳幼児期から学童期の子どもは、仲間とともに遊びに熱中し、たくさん食べて、ぐっすり眠ることが大事です。
「よく遊び、よく食べ、よく眠る」という、いわば、子どもらしい生活を日々繰り返す中で、運動と感覚の諸機能を伸ばし、交わりの力をはじめ、多くの力を身につけていくのです。それがこの時期ならではの知的発達なのです。
 子どもの発達を再び植物の成長にたとえるならば、「早く花を咲かせ、実をつけさせたい」と親は決して焦ってはいけません。じっくり腰を据えて「根っこ」を育ててほしいと思います。

「人間には発達の順番がある」という広木教授のお話は、子どもの脳の発達を考えるうえでも、とても重要な視点を示していると思います。脳の発達だけを切り離して考えるのではなく、子どものからだや心の発達と結びつけてとらえること。そして、その発達の道筋(順番)に沿って子育てすることが、子どもたちの健やかな育ちを支えることになるのではないでしょうか。

 (談/広木克行(神戸大学教授)構成・文/川口和正)



子どもの発達と脳の不思議ビジュアル

子どもの発達と脳の不思議INDEX

1.幼児期は五感と身体を育てる時代

2.眠りが育てる子どもの脳と体と心

3.赤ちゃんの心のめばえと発達

4.0歳から育てる「社会力」


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