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1.携帯電話は子どもを守れるか!?

親は子どもの安全を願って携帯電話を持たせる一方、電磁波が子どもに悪影響を与えはしないか心配しているのも事実です。

 ・親に安心感を与える携帯電話
 ・ほんとうに子どもを危険から守れるか?
 ・子ども向け携帯電話「テディフォン」
 ・懸念される電磁波の影響
 ・アンビヴァレントな感情をもつ親たち

2006年11月 文/永瀬ライマー桂


親に安心感を与える携帯電話

 引き続き起きる子どもたちの事件に、移動体通信を利用した監視システムが注目を集めています。子どもの居場所が常にわかり、いつでも連絡がとれるというのは、親に安心感を与えるものです。そう感じるのは、日本の親だけではありません。ヨーロッパの親も同じです。

 それを示す統計があります。ドイツの連邦統計局は2002年、携帯電話の所持率に関する調査を実施しました。その結果子どものいる世帯のほうが、子どものいない世帯よりも携帯電話を持つ割合が高いことがわかりました。
子どもが1人いる世帯の83%、子どもが2人いる世帯の75%、母子・父子家庭の65%が携帯電話を所持していました。

いずれも、世帯あたりの平均普及率56%と比べると高い割合を占めます。親子で携帯電話を持っている家庭に、どのように携帯電話を利用しているのかをたずねたところ、まず挙げられたのが「子どもの安全のため」でした。多くの親は、子どもが外出中に携帯電話を持っていれば、ちょっと安心と感じています。特に夕方から夜にかけて長時間子どもが外出するときの心配度は、大きく違うようです。また、親が仕事の都合で出張に出なければならないときにも、いつでも子どもと連絡がとれ、子どもの状況を確認できます。多くの親は、携帯電話によって安心感を与えられています。


 でも果たして、携帯電話はほんとうに子どもを守れるでしょうか。—10歳の女の子ジェシカとハリーはその日、お気に入りのサッカーチーム、マンチェスター・ユナイテッドの真っ赤なシャツをおそろいで着ていました。仲良しの二人は、ハリーの家で昼ごはんを食べた後、近所のスポーツセンターまでお菓子を買いに出かけ、それきり行方はわからなくなりました。その晩捜索願が出され、真夜中から警察が捜索を開始しました。ジェシカは携帯電話を持ってハリーの家を出たのに、親や警察が何度電話しても、全く連絡がつきませんでした。

 これは2002年にイギリス中を震撼させた事件です。警察や家族はあらゆる手を尽くして、二人を探しました。二人の着ていたシャツに名前がプリントされていたスター選手ベッカムまでがテレビに登場し、二人の無事の帰還を訴えました。しかし悲しいことに、二人は約2週間後に遺体で発見されました。ジェシカの持っていた携帯電話は、彼女たちを助ける役には立ちませんでした。ジェシカの携帯電話のスイッチは切られ、原っぱに捨てられていたのです。


学子ども向け携帯電話「テディフォン」
この事件に震え上がったイギリスで、子どもの安全のためにと10歳以下の子ども向けの「テディフォン」が考案されました。これはくまのぬいぐるみテディベアに似たデザインで、スクリーンはありません。4つのスピードダイアルは、親があらかじめプログラムするようにできています。親は子どもの周囲の音を聞くことができ、子どもがSOSボタンを押すと、プログラムされたメッセージが3つの連絡先に届くようになっています。

 しかし、このテディフォンの販売に対して、イギリスの市民団体パワーウォッチは「移動体通信によって子どもたちの安全を守れるという証拠は、どこにもない」と批判しています。もし誰かが子どもを誘拐したら、その人は真っ先に子どもの携帯電話を始末するだろうから、子どもがSOSを送れたとしても、その場所を確認できるころには子どもも誘拐犯人もその場からとっくに消え去っているだろう、というのです。市民団体パワーウォッチの言い分はこうです。

「もちろん子どもの安全が最重要に違いはないけれど、携帯電話を持たせることで子どもの安全が約束されるわけではないのに、安全が約束されることを前提に子ども向けの携帯電話を売り出すことは問題ではないか。親は、子どもが携帯電話さえ持っていれば安全だと錯覚して、携帯電話を持っていなければ行かせないような場所にまで、子どもを行かせてしまい、かえって子どもを危険にさらすことにならないか」


 さらにこのイギリスの市民団体が懸念するのは、携帯電話から出される電磁波が子どもの頭部に与える影響です。イギリスでは2000年に「スチュワート報告」と呼ばれる報告書が公開され、16歳以下の子どもは携帯電話の使用を控えるように勧告されました。10歳以下の子どもをターゲットにしたテディフォンは、この勧告を無視したことになります。

懸念される電磁波の影響

オム・ガンジー博士の研究より
出典:「IH調理器と電磁波被害」
懸樋哲夫/著 三五館

現在のところ、放射される電磁波が基準値を下回る携帯電話機の使用が、健康に悪影響を与えるという科学的証明はありません。それと同時に、健康に悪影響を与えないとも証明されていないのです。どれくらいのリスクがあるかを判定することは、現在の段階では困難です。しかし、成長期にある子どもたちは、携帯電話から放射される電磁波に対して成人よりも敏感に反応する可能性があるので、起こり得るリスクを考慮して特に慎重に、とイギリスではこの勧告が出されたのです。フランスでも16歳以下の子どもは携帯電話の使用を控えるように勧告されています。ドイツでは、子供は携帯電話の使用をできるだけ短くするように、プロバイダは中継基地局を幼稚園や公園、学校、病院に建てないように推奨されています。


アンビヴァレントな感情をもつ親たち
 親は子どもの安全を願って携帯電話を持たせる一方、電磁波が子どもに悪影響を与えはしないか心配しているのも事実です。これに関するドイツの統計を紹介しましょう。ドイツの放射線防護局は2001年秋、14歳以上のドイツ住人を対象に、どれくらいの人々が携帯電話から放射される電磁波が健康に与えるかもしれないリスクについて心配をしているか、電話アンケートを実施しました。
その結果、35%の人々が、携帯電話やワイヤレスフォンからの電磁波が気になると答えました。電磁波が気になると答えたのは、16歳以下の子どもがいる人(44%)のほうが、子どもがいない人(33%)より多かったのです。同じ子どもを持つ人でも、毎日携帯電話を利用している人は健康への影響にさほど関心がなく、携帯電話を持たない人や、携帯電話を持ってはいるがほとんど使わない人ほど関心が高いという結果がでました。

 こう見ると、携帯電話に対してアンビヴァレントな感情を抱いている親の像が浮かび上がってきます。子どもが携帯電話を持っていてくれれば、いつでも連絡がつくので安心できる。たとえ凶悪な誘拐事件を防げなくても、子どもが病気や怪我をしたとき、すぐにその知らせを受け、病院に連絡できるという利点があるのは事実です。その反面、携帯電話の電磁波が子どもに悪い影響を与えはしないか気になる。──どんな物にも、長所と短所があります。携帯電話もそうです。子どもの年齢や家庭の事情に合わせて、子どもを何からどう守ることが大切なのか、どうすればリスクを少なくできるのか、各自が正確な情報に基づいて対応することが肝心なのではないでしょうか。

第1回 携帯電話は子どもを守れるか!? 2006年11月 文/永瀬ライマー桂子



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