電磁波
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2.学校で「携帯電話」を学ぶ

ヨーロッパではじまった携帯電話リテラシーの現状をレポート。学校教育の中に携帯電話の授業を取り入れたドイツの現状。

 ・携帯で変わる子ども達の生活
 ・携帯電話を巡るトラブルと健康への影響
 ・はじまった携帯電話リテラシー
 ・携帯電話免許書!
 ・安全な携帯電話の使い方を知る

2006年12月 文/永瀬ライマー桂


携帯で変わる子ども達の生活

 「名前なんていうの?レオニー?ちょっと待って、今ケータイに入力するから。レオニーっと。で、ケータイの番号は?」

晴れた日の午後、公園にたまっている中学生くらいの子ども達の間で、しばしばこんな会話がされています。携帯電話が好きなのは、日本の子ども達ばかりではありません。ヨーロッパの子ども達も携帯電話が大好きです。

 ある研究団体が2002年に行った統計調査によると、ドイツに住む12歳から19歳まで子ども達の82%が、自分専用の携帯電話を持っているそうです。携帯電話を持っていない子ども達も、その多くが自分の携帯電話を欲しがっていました。2006年の現在は、おそらく子ども達の携帯電話所持率はもっと高くなって、携帯電話を持っていない子どものほうが珍しくなっているでしょう。
今やヨーロッパでも、携帯電話は子ども達の生活の中にすっかり根付いています。 携帯電話の登場で、子どもたちの行動やコミュニケーションのありかたはずいぶん変わってきました。


 携帯電話を利用するこの年頃の子どもたちの大きな問題は、何と言っても電話代です。ついつい友達と長電話してしまって、通話料数万円の請求書にびっくりということも。子どものお小遣いやアルバイト料ではとても払いきれません。請求書をもらった親も真っ青、これには頭を抱えます。子どもの通話料を巡るトラブルは、後を絶ちません。それもそうでしょう。移動体通信業界の売上の60%以上は、青少年の携帯電話代によって支えられているのだそうですから。
 問題はそれだけではありません。移動体通信に使われている電磁波が、健康に何らかの悪影響を与えはしないかが心配されています。現在のところ、携帯電話機が出す電磁波が基準値を超えなければ、健康を害するリスクはないと言われています。だからといって安心できるわけではありません。基準値以下の電磁波でも生物学的な変化をひき起こすことが、観察されているからです。現在までの研究結果によれば、このような生物学的な変化は健康障害には結びつきませんが、これからの研究でどういう結果が出るかわかりません。


 こんな通話料を巡るトラブルや将来起こりかねない健康障害を未然に防ぐには、子どもや親、学校の先生が、まず携帯電話についての最新情報を十分に得ることが大切です。でも、たくさんの情報があふれる今、どれが適切な情報かを判断するのは容易なことではありません。そこで、国の機関やいくつかの団体が、情報をまとめてわかりやすく提供する活動を始めています。
 例えば、子どもを保護する立場にある大人に情報を提供する活動としては、オーストリアのグラーツ市にある子どものための団体「キンダービューロー」(日本語にすると“子供オフィス”)のものが挙げられます。キンダービューローは学校の先生や親を対象に「電磁波スモッグ」というチラシを作り、携帯電話は子どもにどんな影響を与え得るか、それに関するどんな研究があるのか、各国の省庁は子どもに何を奨励しているのかを紹介しています。また、日常生活において実際に何に気をつければよいのかも、短くわかりやすくまとめています。


 また、子どもに情報を提供する機会として、学校の授業が活用されはじめました。ドイツのいくつかの州はその指導要綱の中で、授業やプロジェクトで取り上げるべきテーマの一つとして携帯電話を挙げています。携帯電話についての授業やプロジェクトをサポートする教材も数年前から登場しはじめました。例えば今年の春から、ドイツの国家機関である連邦放射線防護局は「携帯電話免許書」という全163ページにも及ぶ教材を希望者に無料で配布しはじめました。これらの教材は、たいてい日本でいう小学校高学年以上の子どもを対象につくられています。この年頃から、子どもたちは自分専用の携帯電話を持ちはじめ、携帯電話に慣れ親しんでくるという理由からです。以下短く、放射線防護局の教材「携帯電話免許書」の内容を紹介しましょう。
 この教材は、複数の教科で、違ったものの見方から携帯電話について考えたり学んだりできるように、工夫されています。例えば、社会科(経済)では「消費者としての青少年」をテーマに、消費者の行動について考えます。自分はどうして携帯電話を欲しいと思うのか、どんなデザインのものが欲しいのか、その動機は何か、仲良しグループのみんなが持っているからか、などを子どもたちが話し合います。また、携帯電話を持つことによって、放課後の過ごし方や友達とのコミュニケーションがどう変わったかを考えます。物理では、電磁波にはどんな種類があり、移動体通信にはどの周波数帯が使われているか、そして移動体通信はどのように機能するのか学びます。生物では、電磁波が健康に与えるリスクについて考えます。算数では、実際の通話料金表を使って、通話料を計算します。また国語では、子どもたちは携帯電話についての情報を集め、それを自分なりに分析・評価し、その結果をみんなの前でプレゼンテーションします。

携帯電話免許書 抜粋





懸念される電磁波の影響
 子ども達はこのような授業やプロジェクトを通じて、それぞれの教科を学習すると同時に、携帯電話に関する知識を得ます。さらにどうすれば携帯電話の通話料を節約できるか、そして携帯電話を使うときにどうすれば電磁波による曝露を減らすことができるか、簡単で具体的な方法を学びます。例えば、「長電話をしないで、SMS(※)を使おう」。SMSを使えば通話料はかなり節約できます。さらにSMSを送るときには通信は短時間で済む上、電話機を耳もとに当てないので、頭部への電磁波曝露もずっと少なくなります。一石二鳥ですね。
また、「電波をうまく受信できる場所で電話しよう」。電波が届きにくく受信状況がよくない場所で通話するとき、携帯電話機は強い電磁波を出し、頭部は強い電磁波を受けるので、できるだけ避けるようにと習います。電波の受信状況がよいのはどんな場所かは、子どもたちが実際に自分の携帯電話を使って調べます。教室、校庭、地下室、自宅、自動車や地下鉄などの乗り物の中で、受信状況を示すバーが何本立っているかを調べ、プリントに記入します。こうすれば、各個人がどこで電話を使えばよいかがわかりますね。この教材の終わりには、運転免許書ならぬ「携帯電話免許書」がついていて、携帯電話の「運転」のしかたを十分に学んだ子ども達に配布されます。

 さて幼稚園に通う我が家の子ども達は、まだ携帯電話を欲しがる年齢ではありませんが、電話ごっこは大好き。電話ごっこに使う電話はブロックや紙でつくっていますが、どれも携帯電話やワイヤレスフォンのような小型機をまねたものばかり。くるくる巻きのコードの先に受話器がついている大きな電話を作ったことはありません。彼らはまさに「携帯予備軍」。携帯電話をどう使うか、まず大人がきちんと見本をみせていかなければいけませんね。

※【SMS】SMS(Short Message Service)

携帯電話同士で短い文字メッセージを送受信できるサービス。文字化けを起こさずに他の国の端末とやりとりができるものもある。NTTドコモの「ショートメール」、Jフォンの「SkyWalker」、auの「Cメール」などがある。

第2回 学校で「携帯電話」を学ぶ 2006年12月 文/永瀬ライマー桂子



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