子ども環境問題
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子ども環境問題

未来の子ども達へ(1)

2005年3月掲載

未来の子ども達へ、今、何ができるか?何をなすべきか

「妊娠してから食べ物や環境に気をつけるようになった」。
今回、座談会に参加してくれたお母さん達は全員、そうお話ししていました。自分の身体に対して、最も関心を向け、敏感に変化を察知する機会が「妊娠」「出産」なのではないでしょうか。何よりも身体のなかで育ちはじめた新たな命が健やかに育ってゆくことを願い、よりよい環境を整える気持ちへ変化するのだと思います。
環境リスクを見つめると、一番感受性が高く、影響を受けやすいのはおなかのなかの赤ちゃんです。その時期こそ、化学物質や電磁波から守らなければならないことを、妊娠したお母さん達は何となく感じ取っているのではないでしょうか。そして、忘れないで頂きたいと思うのは、すべての女性は妊娠前から赤ちゃんの卵を身体の内に備えているということ。妊娠前からぜひ、環境リスクに対する知識を備えておいてもらいたいと願います。

さて、化学物質やアレルギーの発症、携帯やテレビゲームの依存症を予防するために、生活者のレベルでできることがあると座談会でお話ししました。しかし、もっと根本的な解決を考えれば、化学物質を使わない食べ物や環境があたりまえの社会に整えることはできないのかと思わずにはいられません。政府がもっと化学物質を規制したり、携帯タワーの設置を抑制したりする措置をとることはできないのでしょうか? 私たち市民がそれを願ったとき、どうすればいいのでしょうか? そのあたりを、具体的に市民科学研究室の上田さんに教えて頂きました。

CONTENTS



教えて!上田さん6
未来の子ども達へ、
今、何ができるか?何をなすべきか


水・大気・食べ物などを汚染している化学物質の影響、依存性の高いテレビゲームや携帯電話といった人工物に囲まれて成り立っているライフスタイルの変化……そうしたもののリスクを、妊娠・出産から子ども達の成長のプロセスに合わせて判断していけるように、必要な情報を総合的に提供すること。そんな大切な仕事が、いまとても求められているのに、それができるところは、政府や行政の中にも、あるいは病院や保健所にも、そして健康を守るために活動している医学・医療関係の学会などの組織にも、残念ながら見当たりません。
 NPOなど民間のグループが独自に個別的なテーマで情報を集めたりネットワークを作ったりして動き始めています。たとえば、「化学物質問題市民研究会」が「子どもの健康を化学物質から守るための施策調査および提言」プロジェクトを実施し、「子ども環境健康法制定の提言」「子どもの環境化学物質による健康影響に関する施策−自治体への提言」をまとめたことはもっと注目すべき成果でしょう。しかし全体としては、取り組みは今始まったばかり、といった段階です。

 連載を行ってみて痛感したのは、子どもを取り巻く環境の改善は遅々として進まず、アレルギーをはじめとする深刻な健康被害や気がかりな行動の異変が目立ってきているにもかかわらず、総じて言うと、こうした現状をみすえた基礎的な調査研究が日本では弱いことです。
 海外では、環境リスクと子どもの感受性を扱った『小児科学』の特集補遺号(2004年113巻4号)やウェッブサイトで日本語でも要約が読める『環境健康展望』のミニ・モノグラフ(「子どもにおけるリスクアセスメント」「健康な子どもはどこから」など)、米国環境保護庁(EPA)の「子ども健康保護オフィスOCHP」がウェッブサイトで公開しているデータや総説論文集、あるいは世界保健機構(WHO)のChildren's Environmental Health(CEH)のサイトに掲げられたさまざまな報告書や資料などが、いずれも子どもの健康に関る最新の情報を収集分析してリスクのとらえ方を論じています。
 また、いくつものNPOがこの問題で盛んに活動したり、NPOと研究者たちが連携して「BE SAFE キャンペーン」が立ち上げられたりしています。

電磁波子ども感受性

 私たちはまず、日本の子どもの健康の現状を多角的に調べ、欧米で熱く論じられはじめている「子どもに特異的な感受性・脆弱性をふまえた新しいリスクのとらえ方をどう確立していくか」という問題を、日本の専門家たちがそれぞれの知見を持ち寄って本格的に考察するよう、仕向けていかねばならないと思います。

 子ども達の置かれた場において、子ども達の状況を具体的に把握し、子ども達に代わって問題を投げかけていけるのは、やはり家庭のお父さんやお母さん、そして学校の先生たちでしょう。そしてもちろん自分のお腹にこれから生まれ来る子どもを抱える妊婦さんでしょう。そうした人々の声を上手に伝えていけるよう、市民グループもこの「こども環境問題」への認識を深めていかねばなりません。身の回りの様々な環境リスクのチェックから始めて、それが“自分を守る/わが子を守る”ことだけに留まるのではなく、環境改善をすすめていく輪として社会全体に広がっていくように、行動していかねばなりません。
 私たちは一人一人が一市民として次世代の健康を守る責任を担っているのですから。

 どちらかというと医学や医療の主流ではなく傍流に位置づけられがちな予防医学や公衆衛生学が、子どもの健康を守るための的確な規制政策を裏打できる、総合科学としての力量を発揮するように、私たち自身が真摯な問いかけとリクエストを社会にしていくことが大切だと、私は考えています。
(文・上田昌文)


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子どもの発達の基礎知識とともに、最新の脳科学や発達科学の研究成果なども紹介し、環境や発達の視点から、健やかな脳に育てるために親が知っておきたいこと、親ができることを考える。



子ども環境問題

子ども環境問題 インデックス

1.子どもの健康と環境の新しいとらえ方

2.子宮内環境は今・・・

3.ライフスタイルという環境

4.子どもの脳が危ない/脳の発達と環境リスク

5.胎児・子どもの電磁波感受性

6.未来の子ども達へ


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