アメリカ不妊事情レポート-4
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ニューヨーク、ボストン、ロスアンジェルスで不妊治療を取材。 2002.12月

不妊医療レポート「不妊と高齢出産」(1)

「卵ドナーという選択」

卵ドナーという選択

高齢出産での出生前診断

出生前診断検査の研究所



不妊と高齢出産

仕事でキャリアを積むことを優先すると、どうしても出産する時期が遅くなってしまうという人が増えているのは、日本もアメリカも同じ。けれど、出産年齢が上がるにつれて、思ったようにすぐには妊娠できないこともある。

ボストンIVFクリニックの医師によると、35才以下の女性は1年以内に90%の人が自然妊娠するが、35才以上ではその数は80%以下になるとしている。10人に2人以上の女性は自然に妊娠するのが難しいというのだ。
同センターのアリス・ドマール教授は「高齢になるにしたがって、妊娠しづらい人の割合も増えていきます。キャリアを優先する気持ちもわかりますが、あまり先伸ばしにせずに、妊娠、出産をライフプランに組みこんでおいたほうがいいのではないでしょうか」と語る。

実際に、高齢による不妊のケースは多く見られる。アメリカの場合、女性の年齢によっては体外受精などの治療を早めにはじめたり、40才以上では卵のドナーをすすめられることもある。



ロスアンゼルスで、卵のドナーによる妊娠を選択した女性に会った。Zさん、43才。年齢よりとても若い印象を与える彼女は、42才で出産した。
「40才になってはじめて、赤ちゃんが欲しいと思うようになりました。医師に相談すると、この年齢ではかなり難しいだろうと言われました」

Zさんは、受付などの業務を続けてきたオフィスワーカー。40才で自然妊娠し、流産を経験した。そのあと、クロミッドによる人工授精をはじめる。3サイクル試して、その間にも妊娠はしたが着床はしなかった。次にリプロネックスという薬に替え、2サイクル試した。その後、自然妊娠したがまた流産。
「妊娠と流産をくり返し、精神的にとても苦しかったですね。私の卵が古いのだと思いました。自分の卵では妊娠できないという結論に達して、その後、IVF を受けることはあきらめました」
医師に相談し、卵ドナーという選択を決意。医師がエージェントを紹介してくれた。Zさんのエージェントは、ほとんどの場合、卵ドナーの提供者に会うことはない。
「自分たちでドナーを探すこともできますが、エージェントに任せたほうが安心できると思いました。私が提供者に希望したことは、その人が以前にも卵を提供し、その卵が妊娠、出産したという実績のある人でした」 費用は、22000ドル。その中から、卵の提供者には5000ドルが支払われ、そのほかはエージェント、弁護士、医師などに支払われる。
提供者の卵をZ さんに移植するために、ふたりはホルモン剤の注射を続け、たがいのサイクルを合わせた。提供者はリプロネックスを、Zさんは最初の5週間、ルプロンという注射を打った。ルプロンを止めた後、ふたりのサイクルが合ってくる。

「100回くらい打ったように思います。夫が自宅で打ってくれるのですが、私たちはクリスチャンなので『健康な赤ちゃんが授かりますように』と、彼は神に祈りながら続けてくれました。注射をするときには痛いので、アイスで冷やしたり、逆にあたためたり、いろいろ工夫しましたが、ひじょうにストレスフルでした」
提供者からの採卵の日、Z さんは夫と精子をもって同じ病院内にいたのだが、スタッフがふたりが顔をあわせないように配慮してくれたと言う。
「受精卵移植の後、さらにプロジェステロンの注射を8週間ほど続けなければなりませんでした。プロジェステロンは、妊娠を持続させるためのホルモンです。私のからだは卵子をつくっていないために、自然なプロジェステロンが分泌されないので、注射で補わなければならなかったのです」
IVF は1度で成功。授精卵は無事に着床した。

Z さんは、高齢出産の女性の多くが受ける羊水検査はあえて受けなかった。 「35才以下の若い卵子ですから、卵子が高齢によるリスクは考えにくい。知り合いに、双子のひとりが羊水穿刺によって流産してしまった経験をした人がいるので、確立が低いとはいえ、可能性はあるわけですから、針を刺すことへのリスクを考えるとできませんでした」

42才で出産。無事に元気な男の子が生まれた。
「出産は、子宮口を柔らかくするために薬を使い、その後、陣痛促進剤を投薬したため2日間かかりました。2日間は長いように思えますが、他の多くの女性と比べると私の場合は案外、楽に出産ができたように思います」
陣痛促進剤を投薬した後、子宮口が開きはじめ、その後、硬膜外麻酔を受ける。そのまま一晩眠った後、翌朝、赤ちゃんを1時間たらずで出産したという。

「私自身が妊娠し、出産したのですから、母親としての実感があります。妊娠した時点から、私の子どもです。でも、髪の色や目の色が微妙に違う。知らない人から『お母さんに似ているわね』と言われると、やはり気になります。私の遺伝子ではないんですから。若いときに子どもを産んでいれば、こうした選択は考えられなかったでしょうが、私の場合は、40才になるまで子どもをもつ心の準備ができていなかったのです。
私たち夫婦は息子を心から愛しています。卵子提供によって体外受精をし、子どもを授かったことができて、今はとても幸せです」

取材協力/KB Planning
取材:きくちさかえ(2002年12月)


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