特別寄稿

不妊と多様な選択
〜インタビュー調査から見えてくるもの〜

野辺陽子(のべようこ)東京大学人文社会系研究科 社会学専門分野 博士課程
Part.2  41人の語りから
 以下では、調査にご協力いただいた方々の声を要約して紹介することにします。なお、取材対象者のプライバシーに配慮して、各人のプロフィールについては掲載しないことにします。
(1)不妊治療の当事者の意見
(2)子どものいない人生の当事者の意見
(3)養親となった当事者の意見
(4)里親になった当事者の意見


(a)各選択肢への意見
 実際に養子を育てている方々にインタビュー調査を行いました。育てている養子は乳幼児から大学生まで幅がありました。また、複数の養子をキョウダイとして育てているご夫婦も何組もいらっしゃいました。

◯不妊治療について
・不妊治療については、経験したケースと経験していないケースがありました。
【経験したケース】
・「不妊治療を10年間やって、いよいよダメだという時に医者から養子をあっせんしている団体を紹介された」「不妊治療を3回やってダメだったら不妊治療をやめようと決めていた」「1年間と決めて不妊治療をやった。不妊治療はやり切った感があった」という回答がありました。
【経験していないケース】
・「妊娠の望みがあるなら不妊治療をやるが、やっても確率が低い。身体も大変」「不妊治療は早々に諦めた。最近の不妊治療は精子が違う、卵子が違う、どっちも違うけど夫婦の子などあって、養子の方がわかりやすい」「不妊治療で妊娠する確率は2%だったので。自分の子を持ちたいという気持ちは薄かった」「そこまでしたくない」「医者から精子提供を勧められたが、夫の子どもでないと夫との関係が悪化した時に心配」という回答がありました。

◯子どものいない人生について
・子どものいない人生については、考えていたと語ったケースと考えていなかったと語ったケースがありました。
【考えていたと語ったケース】
・「結婚してから10年くらいは子どものいない人生も考えていた」「子どもがいなくてもいいなかと思っていたが、結婚して4、5年たつと子どもがいてもいいなかと考え始めた」「結婚後10年たって、2人の生活も寂しいし、家族として子に何か残したいと思った」「養子縁組について知った時期が40歳間近だった。あと何十年間ふたりでずっといるのか。チャレンジしてみて育てる機会があればとちらっと考えて、だめもとで申し込んだ」という回答がありました。
【考えていなかったと語ったケース】
・「うちは夫婦2人って考えた時にやっぱりすごくさびしいなと思ったので。あと、一番の理由は自分たちが大人になりきれてない気がした」「老後が寂しい」「地域の跡継ぎとかになると、子供がいないことが不自然で、家系が絶えてしまうとかそういうことがやっぱりあった」という回答がありました。

◯養子縁組について
・「親がいない子どもがいると知り、その子たちを救いたい、親になりたいと思った」「親に恵まれない子を救いたい」「子どもを育ててこそ大人になる。成長する」「実子であろうが養子であろうが子どもであれば同じ」「地域の跡継ぎで、子どもがいないことが不自然。家系が途絶えてしまう」「すでに子どもを育てている養親が参加している養子縁組の説明会に出席して心が動いた。“血のつながりはどうでもいい”と思った」「不妊治療のエネルギーを子育てに使いたい」という回答がありました。
・また、養子縁組をした当時、アメリカに住んでいた方は「30代後半にそろそろきちんと子どもについて考えた時に自然と選択肢に入っていった」と語っていました。

◯里親について
・里親については、考えていたと語ったケースと考えていなかったと語ったケースがありました。
【考えていたと語ったケース】
・「養子でも里親でもよかったが、○○県は養子縁組前提の里親だったので」という回答がありました。
【考えていなかったと語ったケース】
・里子は養子よりも相対的に年齢が上であるため、「赤ちゃんから育てたかった」「大きな子どもだとトラウマを抱えている」という回答や「子どもを委託される可能性は里親の方が高いが、養子は自分の子どもみたいなので」「18歳の措置解除がイヤ」「育てるなら自分の子として打ち込みたいと思ったので、預かっているだけでは嫌だと思った」「仕事の関係で週末里親や季節里親は出来ない」「自分に実子がいないので、(実親がいる)里子を育てる自信がない」という回答がありました。

(b)社会に訴えたいこと
◯辛いこと
・養子縁組の手続きに関する情報が少ない
・養子の子育て(真実告知、思春期のことなど)に関する情報が少ない
・養子や里子の本音が知りたい。子どもの気持ちは子どもが言ってくれないとわからない
・民間の斡旋団体には独自の基準がある

◯制度への要望
【養子縁組前】
・行政を通すと新生児委託は難しい
・産婦人科の中で養子縁組とつなげてくれる人がいない
・児童相談所は養子の個人情報をあまり渡してくれない
・養子縁組のための育休がほしい
・養子にも母親学級、父親学級があるといい
【養子縁組後】
・特別養子縁組だと縁組後は児童相談所のサポートが一切なくなる。児童相談所の援助(相談窓口、研修など)がほしい
・養親への支援(被虐待児、発達障害児への対応の仕方、レスパイトケアなど)が欲しい
・養子縁組里親が情報交換する場所が欲しい
・養子への支援(養子同士が支え合えるネットワーク)が欲しい

◯社会への要望
・もっといろんな家族のあり方が認知されることが必要
・親子だと認めてほしい
・いろんな生き方を受け入れてほしい
・養子だからといって、特別扱いされたくないが、普通の子どもとは違う(真実告知やルーツ探しがある)
・家の中では養子縁組についてオープンだが、学校や近所には言っていない
・学校の先生に「ご配慮下さい」と頼んだ。学校が理解してくれないともう無理
・職場で慶弔費が出ないのが意識の面で寂しい
・わかっていない人の心無い言葉がいや


(a)各選択肢への意見
 実際に里子を育てている方にインタビュー調査を行いました。乳幼児の里子を育てているケースの他に、18歳の措置解除後も継続して元里子と一緒に生活しているケースもありました。複数の里子を育てているご夫婦が多く、育てる里子の養育期間は長期のケースもあれば、数ヶ月の短期のケースもありました。

◯不妊治療について
・不妊治療については、経験したケースと経験していないケースがありました。
【経験したケース】
・「無理して治療して。治療も2回ぐらいトライした。3回目にどうしようかと思った時に、私たちが子どもを求める一方で、親を求める子どもたちがたくさんいるという情報もずっと入ってきていた。だったらそうしようかなと思った」「他人の精子を使うことに罪悪感があった。命を作り出すなら、親を求めている子の親になりたいと思った」「不妊治療はお金がかかるうえに夫婦間のストレスも増えたため、やめてしまった」「里親登録と平行して不妊治療もした。産みたかったが不妊治療には必ず妊娠・出産する保証がないので、2回やってやめた。絶対OKがでるなら(必ず妊娠するなら)もっと治療をやった」という回答がありました。
【経験していないケース】
・「病院に行った時の医者の対応がひどかったので、不妊治療はしなかった」「子どもは授かるもの。こんなにいろいろしていいのか。痛いし、薬に不安。子どもや孫にどのような影響があるのか」という回答がありました。

◯子どものいない人生について
・子どものいない人生については、考えていたと語ったケースと考えていなかったと語ったケースがありました。
【考えていたと語ったケース】
・「2人だけの生活も考えたけど、やっぱり自分が成長したことを見れるかなと思った」という回答がありました。
【考えていなかったと語ったケース】
・「親戚はみんな子どもがいるし、大人だけだと成長しない」「子どものいない人生は考えない。親がいて子どもがいるのが普通の生活」「夫婦2人の生活は考えられなかった。子どもの頃からお母さんになるのが夢だった」「血のつながりがなくても、子どもが好きなので諦めきれない」という回答がありました。

◯養子縁組について
・養子縁組については、考えていたと語ったケースと考えていなかったと語ったケースがありました。
【考えていたと語ったケース】
・「児童相談所から養子縁組は出来ないと言われ、里親を勧められた」「児童相談所に電話したところ“養育家庭もある”と教えてもらった」「うちの子が欲しかったので、乳児を養子に出す名古屋の病院へ問い合わせたことがある。でも、“国籍は問いませんね?”と言われ、肌の色が違う子だったら育てる自信がなかったので、そこはあきらめた」「養子縁組は民間でも5年間は待つと聞いた。もう長くは待ちたくないと思った」という回答がありました。
【考えていなかったと語ったケース】
・「いずれ実親を探すから」「私の子どもではないから。私物化しない」「子どものアイデンティティを大切にしたい」「まだ実子ができる可能性があったので、養子縁組はしたくなかった」「譲るべき財産や守るべき家もないので」「赤ちゃんから育てられるなら養子を育てたい」という回答がありました。

◯里親について
・「“私って何だろう”と考え始めた時に、“やっぱり子どもを育てたい”と思った。子育てを自分の一生の仕事にしたいと思った」「夫婦2人ともキョウダイが多く、大家族で育っている。やっぱり、親がいて子どもがいてという生活が普通の生活だと思っていたので、2人で暮らすのは選ばなかった。誰かに自分の持っているものを渡したい、そういうのがあった。選んだのは、里親」「子どもと一緒に成長して行くと考えた」「自分の周りに里親を経験した人がいなかったので、可能性を試してみたかった」「子どもはいずれ出て行くし、籍にはこだわらないので」「里親さんは何かしらの思いを子どもに抱えている」という回答がありました。
・里親を選択した理由について宗教的な理由を語るケースもありました。ある天理教の里親さんは「他人の子を世話するのが社会奉仕」と語り、あるキリスト教の里親さんは「キリスト教の考え方だと家族は血筋だけではない。開かれている」「子どもは神様から授かるもの。神様から預かっている。自分の子にはしない」と語りました。

(b)社会に訴えたいこと
◯辛いこと
・里子をいずれ実母に返すので、里親はむなしい。一生懸命育てても何が残るのかと思うが、子どもは社会の子だからと思うようにしている
・里子の問題行動の奥にある心理が知りたい
・子どもがどう思っているのかを知りたい

◯制度への要望
【委託前】
・児童養護施設ではなく、もっと里親に子どもを委託して欲しい
・乳幼児から里親に委託してほしい
・里子が委託されるまでの待機期間が長い
・里子を委託しないなら委託しないと早くハッキリ言ってほしい
・里親登録を簡単に/難しく
【委託後】
・児童相談所への要望(長期的に支援してほしい/そっとしておいてほしい、子どもを簡単に引き上げないでほしい、里子の個人情報がもっとほしい)
・里親への支援(高校卒業以降の学費の公的援助、研修内容の高度化、地域の子育て支援策の利用推進、被虐待児、発達障害児、愛着障害児への対応方法、傷つく里親へのサポート、里親になるために仕事を辞めた里親への年金補填など)
・共働きの里親と情報交換したい
・しばりのきつくない交流の場がほしい
・里子への支援(措置解除を20歳まで延長、奨学金の充実、自立支援の専門機関など)
・18歳の措置解除後、里子に後見人を公的につけて欲しい
・里子たちの自助グループがあるといい

◯社会への要望
・いろんな家族のあり方に寛容な社会であってほしい
・いろんな生き方を受け入れてほしい
・里親を公表していたら、子どもがいじめにあった
・地域によって里子のサポートに温度差がある
・里親と里子の名字が違うためにアルバイトなどでトラブルになる
・学校の先生には言っているが、他の人には言っていない
・役所の里子に対する認識不足




養子制度について考える

「養子制度」について考えるインデックス

1.養子縁組の件数

2.養子制度と運用

3.どんな人が養子縁組をするの?

4.当事者の気持ち

特別寄稿: 不妊と多様な選択
 〜インタビュー調査から見えてくるもの〜


Part.1 不妊と選択
Part.2 41人の語りから
Part.3 浮かび上がる課題


野辺陽子(のべ・ようこ)さんプロフィール
東京大学大学院人文社会系研究科 社会学専門分野 博士課程在学中
韓国のソウル大学に留学中、親探しのためなどで母国訪問している数多くの海外養子に出会う。韓国で実親探し・ルーツ探しをする海外養子の姿を見て、養子縁組の問題に関心を持つ。帰国後は家族社会学を専攻し、日本の養子縁組の状況に関心を持ちはじめる。養子縁組を通して変容する家族・親子・社会の姿を捉えることをライフワークとしている。



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高齢出産&妊娠高齢出産という選択

ともするとリスクばかりが強調されがちですが、高齢出産でなければ得られない喜びやメリットも。



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