2012年 9月、光塾COMMON CONTACT並木町にて行われた加藤英明さんの講演会の模様を連載します。

シリーズ「語る+聞く リプロダクションのいま」第2回
AIDで生まれるということ〜加藤英明さんに聞く〜
日時:2012年 9月22日(土)光塾COMMON CONTACT並木町
主催:NPO法人市民科学研究室・生命操作研究会+babycom+リプロダクション研究会


加藤 英明 さん プロフィール

1973年生まれ38歳。AID(DI:非配偶者間人工授精)で生まれた立場から当事者活動をおこなっている。非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グループDOG(Donor Offspring Group)メンバー。2002年、横浜市立大学医学部5年生の時に血液を調べる実習で、父親と遺伝的つながりがないことを知る。かつて父親が無精子症のため、慶應義塾大学付属病院で医学部学生から精子提供を受けたことを母親から告白される。以来、遺伝的父親を捜している。2011年より実名を公表して発言している。現在横浜市立大学附属病院 感染症内科医。 DOGサイト http://blog.canpan.info/dog/




Part2 生まれてくる子どもの権利【1】


 1. 出自を知る権利とテリング

子どもから見たDIの問題点

2002年頃、ちょうど僕の知った時まず思ったのが、子供の団体があるんじゃないかと思いました。難しい病気の患者さんの団体があるように、子供の団体があるんだったらまず相談してみようと思って探しましたが、そんなものは全然出てきません。色んな人が色んな事を言っているんです。

(スライドの)左上の加藤尚武という、学術会議などにも参加している非常に高名な哲学の先生ですが、この人も、「漠然とした不安に駆られて父親を知りたいという子供がいるだろう、子供の意見を推測して私はこう思う、というような事を言っていました。そして(スライドの)右は飯塚先生ですけれども、僕が直接会った時に、「精子提供者は僕が直接選んでいる」と言っていました。彼はとある運動部の顧問で、すごく体育会系なんです。先輩の言うことは後輩は聞け。とにかく筋肉マッチョで、そんな中で、「私が若くて健康的な学生の中から選んでいるし、成績だって良い。家族構成まで調べているんだ、だから問題は無い。何が問題あるというんだ」という、そういうスタンスなんですね。子供がどう思っているかなど関係なく、こうなんだと決めつけているんです。ようやく最近6、7年で子供の発言が顧みられるようになってきました。

実際の問題点は、子供から見るとこの3つです。

 1. 情報からの孤立
 2. 社会的な虐待
 3. 家庭内の孤立


「情報から孤立している」。つまり、相談相手が居ないということです。僕が最初母親に聞いたときも、「精子提供で受けたのよ」と聞うだけで、何という不妊治療か分かりません。産婦人科の教科書を読み直してみましたけど、ほんの一行だけ「AIDという治療があり…」って、本当に1行だけ書いてありました。医学生じゃない普通の子供が見たら、ますます何だかわからないだろうと思います。

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二番目は僕はあまり問題ではありませんでしたが、「相談できる窓口がない」。例えば児童相談所にしても、保健師さんにしても、DIなんて言葉は知らない人が圧倒的に多いです。僕の仲間で1人、学校のカウンセラーのところに行って「私、精子提供で生まれたらしいんですけど」って言ったら、「はぁ?そんな事あるわけ無いじゃない!」って言われて、もうすごく嫌になったという子供がいます。小児科や精神科の先生ですらほとんど知識がないですし、最低限、小児科の先生とかには(DIのことを)知っておいてもらいたいと思っています。

一番問題なのが家族内で共感してくれる人がいないという事ですね。うちもそうですが、母親はDIのことなんて話そうとしませんし、むしろ隠しておきたい、母親の言葉を借りれば、「墓場まで持っていく」という事なんです。家族内に自分の相談相手がいないのに、離婚とか死別とか非常に悪い環境で知らされるというのが、一番よくありません。非常に親が感情的になるんです。もう、親自身が病気のことだったり離婚のことだったり、そして話したくないことだったり、いっぱいいっぱいになっているのに、抱え込めなくなってしょうがないので子供に話す、みたいな…。親が「包んであげる」とか、そういう次元ではなくなってきます。先程のケン・ダニエルズという、ニュージーランドのソーシャルワーカーがいいことを言っていて、親に隠されていると自分がすごく悲しく感じるのだそうです。ニュージーランドでは、両親が不妊治療を肯定して受けていないと、子供はとてもじゃないけど幸せにはなれない、という風に思われているそうです。

「アイデンティティの喪失」という言葉をよく聞きます。アイデンティティを作るには、この下にあるパーマネンシーが必要なんだというのが、ソーシャルワーク的な考えなんだそうです。「アイデンティティ」とは、「自分が何者か」ということなんですが、自分がここにいるということと同時に、自分が生まれてからここに居るまでの歴史的な経過が、自分を創っているということなんです。自分が生まれたという事実があって、育てられた経過があって、その最終形として今があるので、生まれた時のことを隠されていたり、父親が違うという重要な情報を隠したままで育てられるのは、アイデンティティが崩壊するに決まっている、ということなんです。だからこそ、事実をしっかり伝えてあげて下さい、というのが、僕らの主張です。


WHO「子どもの権利条約」

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この後、「子どもの権利条約」についてお話します。国連は第二次世界大戦後、「世界人権宣言」を発表し、家庭を作る権利は皆持っていると言いました。その後「人権規約」というものが成立し、結婚して家族を作る権利はあると言っています。だけど、子供を作る権利はあるとは、どこにも書いてありません。解釈すると、第三者の身体や権利を売買してまで子供を持つ権利を許されるかどうか分からないということだと思われます。子どもを持つことが絶対的なメリットになるかどうか、相対的な問題なのではないでしょうか。
その後、1990年になってWHOが「子どもの権利条約」というのを作りました。子供はこんな権利を持っています、皆守ってください、というそれだけなんですけども、子供が出来る出来ないというだけではなく、子供が出来るのなら幸せな子供を作る、という、質を求める医療に変化してきています。先程あったような、「三年子無きは去れ」という時代から、子供が無くても生きていこうという、だんだん変わってきて、それでも子供を持つんだったら子供を幸せにしていきましょうという、医療として質を求めるように変わってきています。


子どもの出自を知る権利

この1990年のWHOの「子どもの権利条約」では「父母を知り、かつ、その父母によって養育される権利を要する」とされています。子供が自分の出自を知る権利というのが、北欧からスタートして世界各国でだんだん認められてくるようになりました。僕が今年の初めに調べた限りですが、(スライドの)赤いところは、子供が遺伝上の父親を知ることができると法律がある国です。この黄色のところは、個人を特定はできないものの、例えば目の色とか髪の毛の色とか、場合によっては職業とか、本人の特徴を示す情報を与えるとしている国です。子供の中でも、あの先程のbabycomのサイトで経験を載せていた子供もそうですけども、自分が精子というモノものから生まれたんじゃなくて、人間から生まれたって事が知りたいっていうのが意外と多いです。
反面、完全匿名性というのが例えばフランスです。これは宗教的な絡みが強いと言われています。アイスランドなんかは非常に面白くて、ダブルトラックという完全匿名と完全個人情報の開示と両方同時です。精子提供者が精子を提供する際に、自分の情報を教えて良いか駄目か選べるんです。自分のことを知らせても良いという方にサインをしたら、後から子供が出自を知ることが出来るんです。

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子どもの出自を知る権利を法制化した第一例は1984年のスウェーデンです。
1994年の国連より更に先立ってスウェーデンでは既に、子供は提供者の名前と住所を知ることが出来る法律が出来ちゃったんですね。非常に画期的です。スウェーデンとか北欧の国は隣の国のクリニックに行けば、国を越えて精子とか卵子とかの売買ができるということが背景にあるようなんです。
こういう法律を作ると提供者がいなくなるという心配をされる先生が多いですが、実際スウェーデンでも、積極的な提供者Active Donorがすごく減ったそうです。ただ数年後、数は戻ってきているそうです。自分の所在が子供にわかっても良いから、それでも子供を作ることに協力してあげたいという人が増えてきたそうです。これは人間的に、むしろ真っ当な考えかなと僕は思うんです。その良い結果として、子供に出自を伝えた親が増えていて、現在はほとんどの親が子供に(精子提供の)事実を話してあげてる、そして親と子供で血が繋がらない新しい親子関係を作っていると考察されています。

スウェーデン、スイス、オーストリアで、イギリスと情報開示の年齢はこうなっています。だいたい18歳が多いですね。日本では2003年に出た答申が15歳になっています。同時に精子提供者の情報は国として保管するということになっています。しかし、ただ単に法律で決めれば良いじゃないかというと、そういう簡単な問題ではありません。法律で親を知る権利がある、提供者の情報は国が管理するといっても、自分が精子提供で生まれた子供かどうか知らないと、知る権利を施行できないわけです。その為に、両親が「あなたは精子提供で生まれたんだ」ということを話すことが重要です。包容感を持って、家族の中でのコンテクストで話してあげなければいけないですね。


「テリング」について

(事実を伝える)モデルとして、養子が考えられています。元々特別養子縁組という仕組みが日本にはありまして、何らかの理由で子供が育てられなくなった場合、子供をどこかに放置してしまったり、親が養育権を放棄してしまった場合、裁判所が元々生みの親とは法律上引き離して新たな養子縁組を組みなおすという、特別養子縁組という制度があります。これの場合には、戸籍上、法律の何条に基づいて入籍とする、という一文が加わります。子供はいつか気付く、子供がいつかわかるんだったら話していきましょうって言うのが、Open Adoptionっていう考え方です。
後になって「お母さんこれ何?そんなの聞いてないよ」って聞いてグレるよりは、最初からあなたはうちが引き取ってあげたのよって話して上げようということなんです。親子関係を秘密にすることは有害な緊張関係をもたらす、とケン・ダニエルズなど多くの人が指摘しています。一番の解決方は親子間での秘密を無くしてオープンにするという事です。それを「テリング」と言います。

子供に事実を伝える、告知するという意味で、養子で最初に用いられ、今後精子提供の場合にも使えると言われています。いきなり事実を、親が亡くなりそうになったり、離縁しそうになったところで慌てて伝えるというのは、やはり良いことではない。そうではなくてあらかじめ準備して、何らかの形で良い状態で子供に説明していくというテリングが模索されています。

何歳になったら伝えるのがいいのですか、というのがよくあるんですが、何歳という決まりはありません。小さければ小さいほど良いというのが、全体として言われていることです。このオーストラリアの絵本のように、赤ん坊だったら絵本、少し大きくなったらもう少し難しい内容と、試されてきました。

日本でもテリングのための道具、絵本が何人かの先生によって作られてきています。こちらが、清水先生という国際医療福祉大学の看護師の先生が作った本ですね。彼女は、DIを受けようとしている、もしくは今受けているというカップルの方々の会の勉強会を定期的に開催していて、テリングの重要性を伝えています。どのようにテリングしたらよいだろう、とディスカッションしていて、海外を参考にして絵本を作ってみようというのが彼女のやり方です。
こちらが才村先生という帝塚山大学でソーシャルワーキングをやっている先生が考えたライフストーリーブックというものです。生まれた時の写真のページとか、学校に入るときの写真とか、色んなページがあります。DIで生まれた子供は事実を知らされると、子供の頃の記憶がガラガラッと崩れちゃう。でも、そのままだと生きていけないので、自分が持っている写真とかを貼り付けてもう一回作り直そう、という方法です。先生と面談しながら、「じゃあ今日はこのページを埋めよう」と実際にやっている方も居ます。



points of view 1

ジャーナリストへのインタビュー
 日本の卵子提供のこれから

points of view 2 

コーディネーターへのインタビュー
 ▼ 卵子提供エージェンシー

 ▼ 生殖医療コーディネート会社

points of view 3

卵子提供を受けた方へのインタビュー

points of view 4

DIで産まれた方へのインタビュー
 非配偶者間の提供精子で生まれて

points of view 5

提供者のお話
 オープン・ドナー ダンさんのお話

Lecture

AIDで生まれるということ
 〜加藤英明さんに聞く〜

  Part1 AIDについて考える
  Part2 生まれてくる子どもの権利


卵子提供・代理出産プロジェクト資料室 資料室

卵子提供・代理出産についての日本の制度/海外の制度

精子提供・卵子提供で生まれた人と、提供した人をつなぐネットワーク


卵子提供・代理出産プロジェクト図書室 図書室

卵子提供・精子提供・受精胚提供・代理出産・告知(テリング)等


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