ワーキングマザーへの応援エッセイ
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WM特集 エッセイ 子育て・仕事・わたし4

力を持っているからこそ.......

babycom「育児・子育て」で、生後一ヶ月からの『子どものからだと病気 - ひだまりクリニック』を担当していただいているDr.ひだまりさんの連載エッセイ。「子育ても仕事もどちらも大事」と言うひだまりさん。ふたりのお子さんを育てているご自身の体験からの、ほんのりあたたかいワーキングマザーへの応援エッセイです。

 ........働きつづけるには力が要ります
 ........弱い立場に立つという経験
 ........もう一つ、親友の話


先日、仕事の一ヶ月健診でこんなことがありました。
お母さんのお年は30歳台、3人目に男の子を授かり、それは可愛い、楽しい、そしてもちろん大変な育児に奮闘中という感じでした。明るい表情に育児は心配なさそうと思いました。授乳回数の欄に12回とあり、赤ちゃんは、満たされたお顔で体重増加もたっぷりでした。
でも、話していると、産休明けには職場復帰とのこと。内心思いました。あーあ、惜しいなあ、こんなにおっぱいがうまくいってるのに・・・、赤ちゃんがかわいそう・・・と。もちろん、それは私の気持ちですから、表情は変えないで「どんなお仕事されているんですか?」と伺いました。

同業者、内科の医師でした。私も少し自分の事情をお話しました。育児休暇が6ヶ月までは取れたこと、その後はおっぱいのためにわがままをいって随分緩い勤務につかしてもらったこと(つまり、同僚には負担をかけたこと)、病院側から当直を月4回するのは常勤医の義務といわれ、折り合いがつかず結局自分の育児を優先して7ヶ月で退職を選んだことなどなど・・・。

彼女は、育児休暇は全くもらえず、月4回の当直勤務もする覚悟とのことでした。実際始まってみないと、どうなるかはわからないでしょう。赤ちゃんがどのくらい順応してくれるか。自分がどれほど大変か。周りとどのくらいトラブルがおきるか。でも、彼女の今の段階でやはり、あきらめずに頑張ってみよう、できるところまでやろう、と覚悟がついているようでした。
私は「きっと後に続く女医さん達のためになると思うから頑張って」というと、「そう!そうできればという思いもあって復帰するんです」と話してくれました。自分のことだけでなく、そんな風に考えられるのは偉いなあと思います。と同時に、働く母の労働事情を改めて考えてしまいました。

働きつづけるには力が要ります。そして、働く人には力がありますし、その力は続ける程強くなります。その力をどう使うか、そこに社会の将来がかかってくるのではないでしょうか。彼女は働きながら子育てしていくことで、次の世代の労働環境をよりよいものにしていきたいとも考えて復帰を決意したわけです。


子どもを持つ(あるいは結婚で)ときに、仕事を辞める人もいます。その選択も素晴らしいと思います。けれど一般的には、家庭に留まっている女性には、発言する機会を与えられることは少なく、力を発揮することもできません。お母さん達の本当の力や思いが社会に反映されないことはとても残念だし、それ自体がこの社会の問題だとも思います。退職して、普通のお母さんとお友達になれて、その素晴らしさを知った私はもったいない!と思います。

立場というものは確かにあります。医者として働いていても、それは病院の中での立場です。保育園にお迎えに行けば、保母さんに注意されるとても弱いお母さんという立場、家庭では妻という立場(これが強いのか弱いのかは家庭によりますね)、実家に帰るれば相変わらず「迷惑をかける心配な娘」という弱い立場です、私の場合。

病院や保健所で頭ごなしに専門家に叱られたとか、学校では先生にはどうも子どもを人質に取られているみたいでなんとなくいいたいことがいえないとか、という話もよく聞きます。官舎や公園ではリーダー格のお母さんには、意見があっても言いにくいとか。こんな風に、子育てっていうのは、弱い立場を経験することなのかもしれないな、と思います。

多分、学校の先生にしろ保健所の医者や保健婦さんにしろリーダー格のお母さんにしろ、家族だってそれほどの気持ち(悪意)があって言っているのではないのでしょう。(まあ、そういうことも絶対無いともいえませんが。)それが、時には大変傷ついたという結果にもなることがあるわけです。お母さんが内心心配していたり不安だったりしていることであればなおのこと、そういう事態は深刻になりえます。弱い立場に立つという経験が人間を深く大きくするのだと思います。


もう一つ、親友の話。彼女も医者です。そして、ここ数年不妊治療を受けています。
医者という立場から患者という立場に変わり、見えてきたものが多いといいます。医者の冗談のつもりの何気ない一言に打ちのめされるといいます。久しぶりに会った時、「大丈夫だよ、気軽に待っていれば授かるんじゃない?」と私がいったのに対して、「そんな簡単に言わないで欲しい、この辛さは経験したものでないとわからないと思う」と釘を刺されました。そうだった、本当に、と心からすまなく思いました。

不妊治療
私だって、お産や子育てで散々辛い思いをしてきて(客観的にみて安産でも、健康な子どもでも)この辛さは本人にしかわからないといってきていたのに・・・と恥じ入りました。だからこそ、力を持つ立場に立った時、自分が子育てで弱い立場でいた時に、どんな経験を積んだか、何を感じたか、どういう言葉が辛かったか、そういう問題意識が変えた自分を発見すると思います。

私は、長男の子育て中、本当にマニュアルではない育児、知識ではなんともならない育児を経験してきました。次男を産んで、人のものさしで子どもを見たってだめなんだってこと、ここにいる自分の子と向き合うしかない、答えは子どもと自分の中にしかないんだということを学びました。
さらに子育ては母親と子どもの組み合わせだけあるんだとわかってきました。自分がやってきたこと、いいと思って頑張ってきたこと、それ以外にもいろんなやり方があります。あたりまえなんですよね。だれにでもあてはまる絶対的な方法はないんだと思います。そこが子育ての奥深くておもしろいところ、難しいところなのでしょうね。

しっくりいっていないかなあという親子にも出会うことがあります。頑張れ頑張れと思います。今は苦しむことも大事な時期なんだよ、きっと大丈夫、頑張ってと思います。時間がかかっているだけなんですよね。私だって6年半かかった、そして修正に今も苦しんでいる。それが私の人生なんです、きっと。早ければいいってもんでもない、いかにしてたどり着くか、何を確信するかでしょう。失敗(と自分が思っているだけでも)したって、それもまたよし、そこから何を得るかでしょう。
幸せは簡単には手に入らない、だからこそ、手に入れたものはとびきり嬉しくて価値があるんでしょう。 話がそれましたが、結局いろんな育児があって、やっぱり「みんな違ってみんないい」ということなんだと思います。

そういうことを感じながらやっていると、育児相談という仕事はアドバイスだけではダメだなと思います。力を持っているからといって、「こうやりなさい」「こちらが正しい」だけでは足りないと考えられるようになりました。それぞれの考えに添いながら、問題を一緒に考える、どうしてそう考えるようになったか背景を知る、そういうことが大事なことなんだとわかってきました。

人の行い、考え、そこには訳があるんだということ、人はそこにいるだけではなくいろんなものを背負っているんですよね。過去、環境、状況、事件、生まれ持った性格(遺伝子上の?)・・・。そういうことが、回り道をして苦労した分わかってきました。

力のある人が、その力を使うか。「自分のものさしが正しい」という考えを離れて謙虚にいろんなことに誠実に対処できるようになれば、世の中はどんなによい方に向かうでしょう。もちろん、それは自分の意見を変えることではありません。自分の意見をしっかり持ちつつ、人を受け入れていくということだと思います。子育てで新しくできてくる関係は、これは苦手これはいや、といって付き合いを止めることができません。大人だけの関係では避けたり適当にやり過ごしていたことがそうはいかなくなります。だからこそ、受け入れていくことが上手になるのではないかと思います。柔軟性、受容性、忍耐力、そういう言葉で表されるのでしょうか。



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子育て・仕事・わたし CONTENTS

昔の常識、今の非常識?

子どもの要求とお母さんの生活

お母さんの秘けつ

力を持っているからこそ.......

「母性のかたち」

子育てはキャリア(1)

子育てはキャリア(2)

ワーキングマザーの5月病


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