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Maternity moon
『マタニティ・ムーン』第二回
マタニティ・コーディネーター  きくちさかえ


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●マタニティ・クラスが始まった

今月から、また新しいマタニティ・クラスが始まった。およそ3ケ月に1回、新しいクラスが始まるのだけれど、そのつど「こんどはどんな人たちが集まってくるのだろう」とドキドキ胸が高まる。もう15年もやっているのに、その興奮はいつも同じだ。
クラスは集まってくる人たちによって、毎回、雰囲気が異なるので、それが新鮮に感じられる理由なのかもしれない。人数がたくさん集まると、それはそれはいろいろな人がいるので、それぞれに個性が出ていい刺激になる。そういうクラスは産後もみんなで集まって、子育てを通じて長いおつきあいになることが多い。
今回のクラスは、ある意味で典型的なマタニティ・クラスの参加者が集まってきているので、特別に参加者の概略を公開しよう。もちろん、プライバシーを守るために匿名にし、職業や年齢などは要点を変えてあるので、そのつもりで読んでください。

Aさん。35歳。妊娠6ケ月、経産。市の教育関係職員。大学院卒業で専攻は歴史学。現在も論文を書いている。ひとり目は家の近所の病院で出産。助産婦によるケアには満足しているが、病院のシステマティックな医療的管理と母子別室が本位ではなかったため、今回は助産院希望。都内2ケ所の助産院を見学し、どちらにしようか検討中。

Bさん。31歳。妊娠5ケ月、双子の初産。大学の助手。専攻は社会心理学。大学病院に受診している。他の病院から出張してくる双胎専門の医師が担当医だが対応が事務的に感じられ、意思の疎通がいまひとつなので、ほかの病院に変える可能性を検討中。

Cさん。36歳。妊娠5ケ月、初産。会社員。夫婦で参加。不妊の検査(卵管造影など)を受け妊娠。出産は実家近所の水中出産ができる産院を予定(自宅から車で1時間の距離)。できれば水中出産希望。

Dさん。23歳。妊娠8ケ月、初産。フリーター。夫婦で参加。自宅出産希望だが、まだ介助してくれる助産婦を依頼していない。自分たちの出産を援助してくれる医療者をどのように探したらいいか、それを聞きにやってきた。

Eさん。38歳。妊娠3ケ月、初産。会社員。不妊治療に通い、人工受精後の妊娠。現在、出産施設を検討中。

Fさん。32歳。妊娠6ケ月、経産。主婦。ひとり目の妊娠中、育児文化研究所のマタニティ・スクールに通い「洗脳されてしまった」と本人の弁。そこですすめられた通り、自宅で医療者をだれも呼ばずに出産。夫が会社へ行ったのち陣痛が激しくなり、夫のいない日中にひとりで出産した。分娩時間12時間。出産直後、こわくなって胎盤が出る前に実家に電話(実家には自宅で出産することは内緒にしていた)。実家からの連絡で地域の保健婦が駆けつけて、胎盤を娩出、事なきを得た(この話をクラスで聞いて『ほんとうに無事でよかったですねえ』とみんなで胸をなでおろした)。

Gさん。42歳。妊娠5ケ月、初産。会社員。不妊検査、治療を2年間続けたのち、あきらめかけたころに自然に妊娠。マクロビオティック(穀類を中心にした自然食)を実践している。近所の産院で出産しようか、助産院で出産しようか迷っている。ある助産院に電話で問い合わせたところ、年齢を聞かれて断わられてしまったと、残念そうだ。

Hさん。30歳。妊娠6ケ月、初産。会社員。助産院で出産予定。出産をバックアップしてくれる産院に、助産婦といっしょに訪ね健診を受けた。助産院+医師の連携がとれている体制づくりをすでにとっている。


●まずは参加者の希望を聞くことから

というわけで、今回もフツーじゃない妊婦たちが揃っているので、私はワクワクしてしまう。マタニティ・クラスにやってくる人たちの特徴は、まず8割近くが仕事をもっているワーキング妊婦だということ。教師、医師、マスコミ関係者など高学歴な方も多い。年齢はほとんど30歳以上で、25歳以下は「若い!」と感じてしまうほどまれな存在だ。
都会の高年齢、高学歴、キャリア女性たちは、すでにかなり情報通である。20代のキャピキャピ妊婦をターゲットにしたマタニティ雑誌などには興味はなく、本もしっかり読んでいるので、お産に対する自分なりのビジョンをしっかりもっている。そんな彼女たちが、クラスに求めるものというのは、本や雑誌などでは得られない「私のケースはどうなのか」という身になる情報だ。
彼女たちの話を聞いていると、いかに「自分の話を聞いてくれる場」を求めているかがわかる。「私はこうなの」と話がしたいのだ。逆に言えば、そうした話をする場がいかに今の世の中に欠けているかということになる。昔なら、井戸端会議で妊娠や出産の話もできたろうに、現代の都会生活では、妊娠が普段の生活からかけ離れてしまっているために、いつも話をしている友人や同僚といきなり話題があわなくなる。かと言って頼みの綱の産婦人科でも、外来は混んでいてゆっくり話ができないことが多い。
もうひとつ彼女たちが求めているのは、同じような妊婦たちの生の声である。こうしたことはテレビや本などの一方通行型の情報源では得られない。ほかでは得られないもの、参加者が求めているのもを提供することが、クラスを運営する上で一番大切なことだと思う。

さて、マタニティ・クラスが医療施設の中などで行われているクラスと一番違う点は、いろいろな施設あるいは場所で出産する人たちが集まっているということだろう。さらに出産場所だけでなく、それぞれに出産方法のビジョンをもっている。

第1回目のクラスでは、自己紹介を行い、前述したような自分の背景を語り、さらにお産に対する希望や現在かかえている問題点などを話しあう。
マタニティ・クラスでよく見受けられる出産に対する希望、ちょっと気になること、知りたいことを参考までに表にまとめてみた。


●どこで産むもうかな?---出産のガイダンス

参加者のこうした意見を元に、クラスの後半は進められる。どこで出産するのか、あるいは出産場所を決めるには、何を基準に考えればいいのかということについてのガイダンスを行いながら、ひとりひとりの疑問に答えるように気を配っている。

まず、出産施設の違いについてから始まる。大学病院、総合病院、産婦人科専門病院、クリニック、助産院、自宅のそれぞれの長所、短所を説明し、それぞれにイメージしてもらう。NICUについても説明し、NICUのある施設以外では赤ちゃんに何らかの問題があった場合には、搬送される可能性もあるということを知ってもらう。
規模の大きな病院の場合、担当の医師が毎回変わることも、妊婦の気持ちを不安にさせる。こうしたケースには、同じ曜日の同じ時間に行くことや、こちらから医師を指定することもできることを伝える。また、担当医とうまくコミュニケーショがとりづらいと感じている人には、同じ病院内で医師を変えてみることもひとつの方法であることを伝える。
自分が受診している施設が、どのような出産を行っているかは、外の人間にはひじょうにわかりにくい。それを知るためには、そこで出産した経験者に聞くしかないのだけれど、一般には医療内容にまで深く興味のある女性は少ないので、「医師が親切だった」「食事がおいしかった」など、医療面以外の評価しか伝わってこないことが多い。こうした場合、直接医療者に聞くしかないのだが、外来の診療時間は短くてじっくり話をすることはなかなか難しいし、医師にズバリと聞く勇気がないという人もいる。でも、何も情報のないまま出産を迎えるのは、もっと不安だ。
そこで、その施設がどのような考え方で出産をおこなっているのか知るために「まず外来や母親学級などで助産婦に聞きましょう」とすすめている。これは会陰切開や母子同室、母乳についてなど。医療的な対応について、医師に直接聞く場合には「できるだけやんわりと少しずつ聞きましょう」とアドバイスしている。チェックしておきたい項目は、どのような場合に陣痛促進剤がつかわれるのか、どのような場合に帝王切開が行われるのか、逆子になった場合の対応、予定日超過の対応、麻酔分娩希望者には麻酔の種類とつかう時期など。
正直に申し上げて、こうしたことをダイレクトに聞いたことによって、医師とのコミュニケーションがさらにとりづらくなったという経験を、わがクラスの参加者は何回か経験している。でも、こうしたやりとりの上で初めてインフォームド・コンセントが成り立つのだと思う。
ある妊婦は「今まで自分らしく生きてきたし、社会の中ではそうした選択肢が必ず用意されていた。でも、病院では私はひとりの患者でしかなくて、私らしい出産をそこに見い出すのは難しいと感じた」と言っていた。
こうした体験は、人生にとってときとして必要な場合もあるけれど、医師にしても産む人にとっても「残念な結果」であることには変わりなく、しかもエネルギーをひどく消耗する。というわけでマタニティ・クラスでは、過去の参加者の体験から、とても理解のある医師や助産婦のいる施設の情報をシェアーしている。
一方で私は、クラスの参加者が多く出産している施設へ産後のお見舞いに行った機会などに、先生方にご挨拶している。日頃の感謝の気持ちを伝え、よろしくお願いしますと言うとともに、これからその施設で出産する人の情報を交換するのだ。
とはいえ昨今は、自分勝手な希望ばかりを言う困ったちゃん妊婦もいるし、自然な出産を望んでいても、リスクやさまざまな事情から、希望どおりの施設で出産できないケースもある。そうした場合には、自分の状況を妊婦が受け入れられるように援助したり、困ったちゃんにはときにはコツンと言ってやったりもする。
出産を選ぶということは、その人の生き方にもかかわってくるといつも感じる。産み方は生き方だと思いませんか。そのダイナミックな生き様をみせてくれる産む人と生まれる人にかかわり、見守っていくこと、それが私の仕事です。

*この原稿は、メディカ出版「ペリネイタルケア」5月号(1999)に掲載されたものです。

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