ももたろう
松井直 文 赤羽末吉 絵 福音館書店 ¥1,188-
あなたが覚えている、桃が流れてくる音はどれでしょう。
「どんぶらこ どんぶらこ」「どんぶらこっこ すっこっこ」「つんぶこ つんぶこ」・
・・。
「つんぶく かんぶく」と流れてくるこの本の桃は、本当においしそうに描かれ、
それに手を伸ばすおばあさんは、すぐにおじいさんに食べさせようと拾ったのではなく、
まず自分が食べてしまうのだ。・・・私はそこが非常に気に入った。
「桃太郎は、一杯食べれば一杯だけ。二杯食べれば二杯だけ・・・大きくなりました。」
という言葉が息子は大好きで、ご飯一杯食べる度に、天井から下がる電灯のヒモに手を伸
ばす。
親から子に伝えられてきた昔話の中に、子どもの成長への願いが込められている・・・と
感じる文を見つけると、私はいつも嬉しくなる。
昔話は地方によって少しずつ違うのがおもしろい。
桃太郎は、鬼が島からたくさんの宝物を村に持ち帰った・・という話は多いが、それも
色々。
それくらいして当然という感じもするけど、この本の桃太郎は、きっぱりとこう言い放
つ。
「たからものはいらん。おひめさまをかえせ。」・・かっこいいでしょ。
おひめさまを連れて帰った最後のペ−ジは、言葉をなくしてしまう位、美しい。
ある時、「おしまい」と言って本を閉じかけた私の手を、息子は黙ってはらいのけ、
気のすむまで日本の田舎の・・・夕焼け景色をみつめていた。
イヌ・サル・キジが次々と桃太郎の仲間になっていく会話を息子と楽しんだ後、
それをさりげなく聞いていたおじいちゃんが、手を差し出してこう言った。
「さあ、おみやげのド−ナツ、おじいちゃんにも一つください。お供します。」
こんなふうに参加してくれる人が身近にいたら、昔話はもっと楽しくなる。
(文;森 ひろえ)