生まれてはじめて、大きな模造紙を目の前にした子ども。手には自分で選んだ一本のクレヨン。自分が描いた線に、驚いて言葉をなくす子。「おおーっ！」と叫びつづける子。はじめはすみっこに小さく描いていた子も、だんだん自分の世界に入っていく。すると少しずつ大きく描くようになり、見ている大人を驚かせる。

　そんな時はできるだけ声をかけないで、そっと観察してみよう。「ごはんだよ」とか「これ片付けてないじゃない」とか、現実の世界に引き戻さずにいてあげよう。

　壁にクレヨンで絵を描くはろるど。いつしかその絵は想像を超え、はろるどは町を歩き、丘もひとまたぎ。 海を歩きながら舟をうかばせ、鯨を泳がせる。飛行機にぶつかりそうになり、岩をよじのぼったり……。

　線路わきに花を描くはろるど。そしてだんだんと現実に……そう、家に帰りたくなる。はろるどは、自分の部屋のドアを描きはじめる。

　白い紙は、子どもたちのまだ見ぬ世界。クレヨンは、そこを歩き始めた自分だ。さて、どんなふうに歩こうか……。クレヨンは迷いながら、ぐるぐる回りながら、時には爆発しながら冒険していく。それでも最後はいちばん安心できる場所に帰りたくなるのだ。

（文・森ひろえ）