環境危機で変る子どもの生活
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環境危機で変わる子どもの生活 4

感染症から子どもを守るために

取材協力/倉根 一郎(国立感染症研究所 ウィルス第一部 部長)

2007年12月掲載(専門家のプロフィールは掲載当時)




PART 2 感染症にかかりにくい健康な体をつくろう

 温暖化によって起こりうる健康被害は、ほかにも様々なものがあります。
 記憶に新しいのが、熱中症ではないでしょうか。今年の夏の猛暑で、熱中症で倒れる乳幼児やお年寄りの数が過去最多となりました。
 水や食物を介しておこる感染症もあります。例えばO-157がそれに当たります。夏季の食物の取り扱いには十分気を配りましょう。
 海外では温暖化による海水温の上昇でコレラ患者が増えている地域があります。コレラ菌は水を媒介にして感染するため、コレラ菌に汚染された水を飲んだり、その水で調理した食材を食べることで、下痢などの症状が現われます。栄養状態のよい日本人は発症しても死亡することはほとんどありません。
 また、日本近海には、腸炎ビブリオ(腹痛や下痢、皮膚疾患などを発症)を引き起こすビブリオ・バルフィニカス菌が存在します。海水の表面温度が20℃以上になると検出率が増加し、そのエリアが毎年北上しているとのことです。


 これらの感染症を防ぐためには、いったい何をすべきなのでしょうか。
「子どもを感染症から守るには、親が病気に関する知識を持って行動することが重要です」と、倉根先生。日本で流行し得る感染症にはどんなものがあり、どのように感染するのか。また、感染症から子どもを守るためにはどのような対策があるのか、正しい知識を得、それに応じた行動をすることが大切、とアドバイスします。
 ワクチンがあるものならば、流行する前にワクチンを打つ。外に出たら手を洗う。蚊などの媒介動物がいる病気が流行しているなら、蚊に刺されないようにする——。どれも当たり前のことばかりです。

 「特に蚊が媒介する感染症に対する対策は、ある意味ではほかのウィルスよりも行いやすいと言えます。風邪などが流行っていても、社会生活をしている限りは人ごみに出ないなどの対策は難しい。しかし蚊であれば、忌避剤を用いたり長袖を着ることで対策できますから、個人としての対策は立てやすいといえます」

 倉根先生は、蚊の生態を理解することがポイントだと言います。草むらや水辺など蚊が多い場所で遊んだり、夕方など蚊が発生しやすい時間帯は、半袖半ズボンなどの軽装だと蚊に刺されやすいので、なるべく肌を露出しないようにする。蚊よけのスプレーや蚊取り線香などで蚊を寄せ付けない工夫も必要です。以前は蚊の発生時季は7〜9月がピークでしたが、今では5〜10月までは注意が必要なので、少し涼しくなったからといって対策をおろそかにしないように。

 家庭では、蚊が生息しやすい環境をつくらないようにすることも大切です。庭に空き缶が転がっていたり、ビニール袋が放置されてそこにわずかでも水がたまっていると、ここぞとばかりに蚊が産卵し、夏ならば一週間程度で成虫になります。古タイヤの溝、植木鉢の受け皿、雨水升なども要チェックです。

 そして、何より大切なのは、感染症に負けない健康な体をつくること。「言うまでもないことですが、外から帰ってきたら手洗い、うがいをすること。そしてきちんとした食生活で十分な栄養を摂取し、睡眠をとって健康な生活を送ることが大切です」と、倉根先生は話します。


 毎日の生活の中で気をつけていても、海外旅行などで感染症にかかってしまう場合があります。「どこの地域にどんな病気があるのか、流行しているのかといった情報を得ること。旅行前にワクチンを打つこと。海外、特に発展途上国へ出かける場合は、事前の情報収集と準備が鍵となります」(倉根先生)

 基本的な対策ですが、衛生状態に不安がある地域では、絶対に生水を飲んだり生魚を食べたりしないこと。また、野生動物や野良犬との接触を避けること。狂犬病等の恐れがあります。
 また、動物園などに行く場合でも、動物とのふれあいの後は手洗い、うがいをするように心がけましょう。「近年新たに発生した感染症のほとんどが、人獣共通感染症で、通常乳幼児は感染し病気になるリスクが高いのです」と、倉根先生。鳥インフルエンザやSARSなども動物に寄生した病原体が蚊や鳥を介して感染します。

「ただし、神経質になりすぎることはありません。私たち人間は、たくさん無数の細菌やウィルス等に囲まれて生きているのですから。そもそも病原体をゼロにすることは出来ません。通常多くの病原体が侵入するようなことがなければ、病気になることはないのですから、その機会や体に入る病原体の量を減らすことが重要です。また、普段から健康な生活を心がけ、感染症に負けない体をつくることが大切なのです」(倉根先生)

 感染症に対する正しい知識を得、正しい対策を行うこと。そして、健康な体をつくること。これが、温暖化時代に感染症から子どもを守るための正攻法と言えそうです。
 (取材協力/倉根 一郎)

国立感染症研究所 感染症情報センター

現在流行している感染症の最新情報やデータをリアルタイムに紹介。また、感染症の症状や予防法、発症した際の注意点などについても詳しく説明している。感染症についてのデータベースも。

環境省 地球温暖化の科学的知見

倉根先生が座長を務めた「地球温暖化の感染症に係る影響に関する懇談会」がまとめたパンフレット『地球温暖化と感染症 いま、何がわかっているのか?』をダウンロードできる。ほかにも、温暖化に関する資料や情報を得られる



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環境危機で変る子どもの生活

環境危機で変わる子どもの生活
インデックス

1.地球温暖化はどこまで進む?
  生活はどう変わる?

2.光化学スモッグから子どもを守ろう!

3.温暖化時代の地球にやさしい食育

4.感染症から子どもを守るために

5.温暖化時代を生きる子どもたちのために



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