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東京都の温暖化対策/エネルギー政策に注目を(2)

上田昌文(NPO法人 市民科学研究室 代表)

(掲載:2008年7月)

東京都の温暖化対策/エネルギー政策に注目を(1)

・温暖化対策の決め手とは

・東京都が先陣を切って

・2020年までにCO2を25%削減

東京都の温暖化対策/エネルギー政策に注目を(2)

・規模事業所での削減を義務化、排出量取引も

・家庭部門のポイントは照明、住まい作り、太陽光・熱の活用

・大胆で多角的な経済支援策

 では、具体的にどうCO2を削減していくのでしょうか。方針の一部はすでに条例の成立で具体化が始まっています。すなわち、努力目標ばかりでなく、規制的な措置も必要との判断から、2010年度から総量削減を確実に達成するための新制度が導入されることになりました。都内の業務・産業部門での企業活動によるCO2排出量が全体の4割以上に達することから、大規模排出源から確実に減らしていくことを優先したのです。
 このたび成立した東京都の環境確保条例改正案(2008年6月25日、2010年度から実施)では、

・原油換算で年間1,500キロリットル以上のエネルギーを使う都内の約1,300事業所を対象にして(主に床面積2万〜3万平方メートル以上のビルなどが対象となる)
・2020年度までに15〜20%の削減を実施を義務化(第一計画期間は2010〜2014年度、第二計画期間は2015〜2019年度で、温暖化ガス排出総量の削減と「温暖化対策計画書」「進捗状況報告書」などの提出・公表)
・温暖化ガスの削減義務量は、対象事業所の過去の実績排出量やこれまでの削減実績などを考慮した基準排出量に、削減義務率(取り組みがすぐれている事業所は削減率を低減)を掛け合わせて算出
・計画に従って削減努力をし、足りない分は他者の「削減量」を買い取るなどの排出量取引によってカバー(他の事業者が義務量を超えて削減した排出量やグリーン電力証書 (*注2)の購入など)
・目標を達成できない事業所に対しては、最高50万円の罰金

*注2:風力や太陽光などの再生可能エネルギーによって発電された電力には(化石燃料などと比べて)CO2排出量の少ない電力であることによる特別の価値(環境付加価値)がある。それを証書化して、実際に自然エネルギーを使っていない人でもこの証書を対価を払うことで、その自然エネルギー電気を使っていると見なす、という形での取引が可能になる。

といった内容が盛り込まれている。
 排出量取引では、おそらく中・小規模事業所の省エネなどによる削減量を大規模事業所が購入するといったことが出てくるでしょう。こうした連携がうまくいけば、省エネ対策の実施が加速するかもしれません。


 厳しい削減目標を掲げられると、なにやらストイックでこまごまとしたエコ・省エネの励行に追い立てられるような気がする人も多いと思いますが、東京都の指針は思いのほか重点的です。前述の家電製品ラベリング制度やマンションの環境性能表示などで生活者にグリーンな消費行動を促してきたわけですが、『方針』では新たに、

・家庭から白熱球を一掃するための大規模なキャンペーンを実施すること(照明に費やすエネルギーの80%が削減される)
・1983年をピークにして設置件数が激減してしまった太陽熱利用設備(太陽熱温水器など、1983年には50万件だったのが2004年には5万件に)の普及を制度的に促進すること(都内において100万キロワット相当の太陽エネルギーの導入のために、一般家庭4万世帯に太陽光発電など太陽エネルギー利用機器を普及させる「3ヶ年モデルプロジェクト」が計画されている)
・こうした快適で低CO2排出の暮らし・住まいが普及する仕組みを設備機器メーカー、住宅メーカー、エネルギー事業者、学識経験者らが共同で作っていく
といったことを打ち出しています。
 また交通では、「世界一充実した公共交通機関を活かした」(『方針』13ページ)自動車利用の抑制(パークアンドライドの導入やカーシェアリングの推進を含む)、ハイブリッド車などの低燃費車が優先的に扱われるようなルールの策定が提示されています。そして、都市開発・建築に伴うCO2 排出を重視し、都の施設を新設する場合に「世界でもトップクラスの建物省エネ仕様」を適用することや、都内の新築の大規模建物に「省エネルギー性能証書(仮称)」によって省エネ性能の表示を義務づけたりすることも予定されています。


 東京都の温暖化防止・エネルギー戦略でとりわけ注目されるのは、民間資金、基金、税制を活用して改革のための大胆な投資を支援しようとしていることでしょう。現時点ではまだ割高な自然エネルギーを普及させ、省エネ技術の大量導入をはかるには、その初期投資を行いやすくする必要があるのです。そのために、例えば、中小企業の新たな資金調達手段として「環境CBO(社債担保証券)」を創設し、金融機関との連携によるファンドが設置することが目論まれています。都独自の「省エネルギー促進税制」導入、省エネ設備導入に対する税の減免措置、課税によるインセンティブ効果などなど、あの手この手の経済方策は、日本のエネルギー政策の新しい潮流を生み出していると言えるかもしれません。どの地方自治体でも環境に配慮したエネルギーの購入を自らすすめていけるように、東京都を牽引役の一人としたネットワーク「グリーンエネルギー購入フォーラム」もできました。

 東京都が先進モデルとなって、日本全体に新しいうねりが生まれてくる——私たちは、それぞれのなりの形で、エコな社会の仕組みを作り、エコな暮らしを実現していく主体としてそこに関わっていくことができるのではないでしょうか。

(文/上田昌文)


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3.温暖化時代の地球にやさしい食育

4.感染症から子どもを守るために

5.温暖化時代を生きる子どもたちのために



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