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Maternity moon
『マタニティ・ムーン』第四回
マタニティ・コーディネーター  きくちさかえ


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マタニティ・ヨーガ安産BOOK

安産を準備するためのマタニティ・ヨーガの数々のポーズ、産後のヨーガ、ベビーマッサージ、お産の便利帳など。(現代書館)
マタニティ・ヨーガ その2 技術編

前回はマタニティ・ヨーガの概要についてお話したが、今回は技術編。マタニティ・ヨーガクラスは1時間半の行程。始めの1時間は、途中軽いリラックスタイムを入れて体操をする。メニューは、日本マタニティヨーガ協会の提示している内容をベースに、長年の経験から多少私なりにアレンジしたものを行っている。からだを動かしたあとは、リラックスと呼吸法。
リラックスは、シムスの体位または自分の一番楽な横になる姿勢で行う。1回目は5分程度、2回目は10分間。その後、ゆっくり元の状態に戻してから、呼吸法7〜8分。さらに私のクラスの場合は、最後に参加者が2人組になって行うマッサージタイムを10分間設けている。


関連情報:マタニティエクササイズ

●ゆったりリラックス

一連の体操をおよそ1時間やったあと、シムスの体位か自分が一番楽な寝入るときの姿勢をして、リラックスする。ヨーガではリラックスは体操と同じくらい重要なポイントだ。伸ばしたからだ中の筋肉を緩め、心をも十分にリラックスさせる。
私の場合は、ここでヒーリング的な音楽をかけている。ヨーガでは音楽を取り入れないという考え方が一般的だが、私の場合は自分が妊娠していたころ、音楽をかけたリラックスがとても気持ちのいいものだったので、音楽を流すことにしている。最近のお気に入りは『クリムゾン・コレクション/シング・コウル&キム・ロバートソン』。女性ボーカルのチャント(なんども同じフレーズを繰り返すお祈りのような歌)ミュージックだ。
音楽を流しながら、まずはからだから力を抜くように、やさしい声で誘導する。これは、アメリカなどのセラピーでよく行われているイメージ誘導に近いものだ。「全身の重みを床に落として、筋肉を緩めていきましょう。まず、足先の力を抜いて。ふくらはぎも緩めます」といったように、ゆっくりと、足の先からふくらはぎ、もも、腰、おなか、手、肘、肩、首、顔、頭の順に力を抜くように誘導する。このときの誘導者の声は、静かにやさしく語りかけるように。この声かけによって、参加者のリラックス度は異なってくるので、これには若干の経験と感性が必要だ。そのあと、音楽を流したまま、静かに10分ほどリラックスに入る。
初めて参加した人は、リラックスと言われてもなんのことやらわからずに、なかなかうまくできないのだけれど、回数を重ねるうちに、これがほんとうに気持ちよくなってくる。中にはスヤスヤと寝息をたてて眠りこんでしまう人もいる。ヨーガ的に言えば、眠ってしまってはいけないのだけれど、緊張がほぐれている証拠でもあるし、熟練していけば眠りこんでしまうことはなくなるので、私はさしつかえないと思っている。
このとき、参加者がうまくリラックスしていればしているほど、部屋の空気全体が穏和になるように私には感じられる。何人かが緊張していたり、部屋の外がうるさかったりすると、こうした落ち着いた雰囲気にはなかなかならない。空気そのものが落ち着いてくると、私は「おなかの中の赤ちゃんも気持ちいいと感じているんだろうなあ」と感じる。それが、とてもいとおしく思える。
クラスには、妊婦さんの顔しか見えないけれど、おなかの中の赤ちゃんも確実に参加しているのだ。その顔の見えないおなかの中の人たちも、このときばかりはお母さんといっしょに、ゆったりしているに違いない。私自身は、このとき、あぐらをかいて瞑想をしているのだけれど、赤ちゃんたちの気を感じることができる。おなかの中の赤ちゃんを身近に感じられる瞬間だ。
10分たつと、「もとの状態に戻していきます」と声をかけて、ゆっくり伸びをしてもらう。このとき、急に起き上がると逆効果になってしまうので、ボーッとした状態を少し味わってもらってから、ゆっくりと起き上がるようにする。このボーッとした感覚は、瞑想のときの意識状態に近いものがある。瞑想は、やろうと思ってもそう簡単にできるものではないのだけれど、リラックスのあとのこの意識状態には、数回参加しただけの人でもけっこううまく入っていける。このボーッとした意識状態が、ソフロロジー法で言われるところの「ソフロリミナルな状態」(眠りに落ちる前の意識)なのだ。この状態のとき、頭はとてもリラックスしているので、普段頭でごちゃごちゃ考えている知性や感情が抑えられて、不安や緊張が薄れた状態になるために、からだは本来の働きをすると言われている。
ストレスが内臓の働きを鈍くすることは知られているが、お産のときにも同じようなことが起こる。子宮は本来の収縮をしたいのだけれど、不安や緊張のせいで働きが鈍ってしまうのだ。心もからだもリラックスしているこの状態のときには、ストレスを起こす因子が薄れるので、子宮は本来の働きを十分にすることができ、お産もスムーズに進むというわけだ。
もちろん、お産のときには陣痛の痛みをともなうので、ヨーガのクラスで得たリラックスをそのまま実践できるわけではないが、それでも理論的にはそういうことを知っておいてもらうことができるし、からだはリラックスした状態を覚えている。実際、ヨーガをやった人たちは「リラックスがうまくできた」と感想を述べる人が多い。



●呼吸法を練習する

さて、リラックスの次は呼吸法。お産のときに、呼吸法が大事だということは周知のことなので、ここでは触れないが、ヨーガでも呼吸法はその要になっている。
呼吸法というのは、簡単に言ってしまえば呼吸の仕方のことだ。ある特定の呼吸の仕方が呼吸法なのではなくて、「意識して呼吸をおこなうこと」が呼吸法なのだ。
普段私たちは、無意識に呼吸している。心臓や胃が動くように、呼吸も肺によって自動的に行われている。でも、肺の筋肉はコントロールすることができる随意筋だ。さらに呼吸は常に一定しているわけではなく、気分や心のもちようによって変化している。一日の疲れを癒すやめにお風呂にはいったときなど「気持ちいい」と感じる。そんなときには、ゆっくりと吐き出す呼吸をしている。反対に緊張しているときには呼吸は浅く早くなり、驚いたときなどはとっさに息を止めている。普段は無意識の中でこうしたことが行われているのだけれど、ヨーガではその呼吸をコントロールすることによって、反対に気分や心、しいてはからだの働きまでも変化させようとする。
これがヨーガの呼吸法だ。
お産のときには、痛みや緊張から、からだをこわばらせたり、浅く早い呼吸になりがちだ。歯をくいしばって息を止めてしまう人もいる。これでは心はさらに不安が高まり、緊張は増幅されてしまう。こうしたときにこそ、ゆっくりした吐き出す呼吸をすることによって、気持ちを落ち着かせからだをリラックスさせることが必要だ。
お産の呼吸法といえばラマーズ法のパターン化したものが代表的だが、ヨーガではお産のときに行うパターン化された呼吸法というものはとくにない。妊娠中からの練習によって、呼吸法の意味ややり方がわかっているので、ゆっくりした吐き出しの呼吸で陣痛をのり越える人が多い。出産施設がラマーズ法などの呼吸法をとり入れている場合でも、それをすんなりと受け入れ、実行することができるだろう。
ラマーズ法の呼吸法が「ヒヒフー」など特殊な言いまわしをつけたのは、ふだん呼吸法に慣れていない人のために呼吸法を馴染みやすくするためでだったのではないかと思う。初心者にはパターンを提示したほうがやりやすいかもしれない。ソフロロジー法では、妊娠中からヨーガの呼吸法を練習し、お産のときには「ふ〜」という吐き出しの呼吸を行っている。
しかし、妊娠中ヨーガや呼吸法を練習し、自分のからだの変化や動かし方がわかるようになった人がお産するとき、さらに分娩室がとても落ち着いた環境にある場合には、産婦は自然に声を出したり、うなったりと自分なりの呼吸をするものだ。こうした自然な環境での出産では、産婦の呼吸はむしろセクシーで、まるでセックスのときの呼吸にも似たものが出てくる。産婦はとても女性的で、本能的なお産をする。この場合、まわりが呼吸のリードをするには及ばないし、呼吸法のパターンも必要ない。
マタニティ・ヨーガでは、毎回クラスの最後に呼吸法の練習が行われる。そこで行われるものは、陣痛の最中に行うものというよりは、呼吸を自分でコントロールするための練習であり、呼吸法がなんであるかわかるためのものなのだ。呼吸の仕方がわかるようになれば、お産のときにも自在に呼吸をコントロールして、気持ちを落ち着けることができるようになる。



●腹式呼吸法

マタニティ・ヨーガで行われる呼吸法はいくつかある。私の場合には、おもに初歩的な腹式呼吸法をやっている。リラックスをして、意識をゆったりさせたあとで、あぐらをかいて座り、おなかに手をあててもらって、腹式の呼吸をする。
呼吸法をやるのが初めてという人も多いので、まず簡単に説明してから始める。呼吸法にはいくつかのお約束がある。呼吸は鼻で吸って、鼻または口から吐く。ゆっくりした呼吸で、止めずに円を描くようになめらかに続けて行う。吐く息に意識を向け、吸う息は息が自然に入ってくるようにする。十分に吐けば、息はおのずと入ってくるので、息を吸い上げようとしない(お産のときたくさん吸うことを続けると、酸素過多になり過換気症候群を引き起こす場合もある)。さらに腹式呼吸の場合には、肩が動かないように注意する。
これだけのことを行うのだから、初めての人にとってはけっこう大変な作業だ。うまくいかなくてあたりまえ、腹式呼吸をやるというよりは、それを練習するくらいの気持ちで始める。まずは呼吸を意識すること、呼吸法に慣れることが肝心だ。
私自身、長年ヨーガをやっていても「なんで呼吸法をするの?」と、なかなか呼吸法の意味がつかめずにいた。多少はうまくできるようにはなっても、ほかのポーズなどに比べて、その効果がいまひとつ実感できない。やっと最近、呼吸法や瞑想というものは、表面的には効果がなかなか現われないけれど、意識ではないもっと無意識な部分にジワッと効いてくるということがわかってきた。まるで、ボディブロウのように。これは言葉ではなかなか説明しずらいのだけれど、やってみるとなんだか気持ちが落ち着く、それくらいのことなのだ。でも、その「気持ちが落ち着く」「平和になる」ということは、今の時代こそ必要なことなのかもしれない。妊婦の場合には、母の気持ちが落ち着けば、おなかの中の赤ちゃんもきっとゆったりした気持ちになっ ているだろうと想像できる。実に非科学的な説明で、恐縮ですが。



●マッサージでほぐし合い

腹式呼吸を練習したあと、少し自分なりのゆったりした呼吸をしながら、あぐらの姿勢で瞑想してもらっている。瞑想といっても難しいことではなく、ただゆったりした気分で座ってもらっているだけだ。この瞑想のときにも、部屋全体の雰囲気がとてもよくなって、妊婦さんとおなかの中の赤ちゃんがつくる場のエネルギーのようなものができ上がっていくように、私には感じられる。
そのあと一番最後に、私のクラスでは、参加者が2組になってのマッサージを行っている。マッサージは簡単なもので、ひとり5分ほどお互いにやりあうのだが、これが気持ちがいいので実に好評だ。やってもらう人は正座の姿勢で、やってあげる人はその人の後ろに立って、頭から首、肩をたたく。次にやってもらう人は膝を開いて、おなかをつぶさないようにうつぶせの姿勢になり、やってあげる人は後ろから、肩や背骨の両側を両親指でもんでいく。脇腹やお尻も両手の平で押す。
マッサージは、お産のときにも夫などにやってもらうと気持ちのいいものなので、妊婦さんに覚えて帰ってもらって、家で夫に教えてあげるようにすすめている。マッサージはやってもらって気持ちいいばかりでなく、人のからだに触ることがいい勉強にもなる。力の入れ具合や、相手がどう感じているかを、探りながらやることで、相手に対する思いやりの心が生まれていくような気がする。それまでポーズや呼吸法がうまくできなかった初めての参加者も、マッサージをしてもらうととても気持ちがいいので、最後には満足した表情で帰っていく。ただ、過去に1例だけ、うまく人のからだに触ることができず、マッサージをしてあげられない方がいた。こうしたケースもないわけではないので、指導するスタッフは体操同様に、ひとりひとりを観察しな がら、個別に適切な指導をすることが求められる。


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参考文献/『自然出産とマタニティ・ヨーガ』九島璋二、森田俊一、森佐知子著  メディカ出版 1994。『ソフロロジー式分娩教育』エリザベット・ラウル著 松永昭 、松永史子訳 メディカ出版 1988。  参考/日本マタニティ・ヨーガ協会 Tel 03-3939-2842 E-mail mata@yoga.club. or.jp 『クリムゾン・コレクション・シリーズ(3種類)』/シング・コウル&キム・ロバ ートソン プレム・プロモーション Tel 03-3718-7591

*この原稿は、メディカ出版「ペリネイタルケア」4月号(1999)に掲載されたものです。


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