きこえるきこえる えのおと えのこえ
谷川摂子/構成・文 福音館書店
子どもの頃過ごした小さな家の居間に、1枚の絵があったのを覚えている。
女の子が二人でピアノに向かっている絵。
それはルノワールの「ピアノをひく二人の少女」と、
大人になってから知ったのだけど、
今、その絵をどこかで見かけるたびに、
絵を見て物想いにふけっていた子ども時代を思い出す。
息子と二人で「ゴッホ展」を観に行った時、
私の意気込みに、人込みの嫌いな息子は大人しく付いて来たのだが、
他の絵はチラリと観るだけだった彼が、
1枚の絵の前で、動かなくなってしまった。
「糸杉と星の見える道」
黄色と青と緑。絵の中に風が吹くゴッホの世界。
その前で佇み、物想いにふける息子。
彼の横を、たくさんの人込みが追い越して行った。
時々、語りかけてくる絵に出会うことがある。
「びじゅつのゆうえんち」シリーズの中のこの一冊は、
12月の絵が語りかけてくることばと、音。
雨の絵を観た子どもは、その音を表現し、
その音を自分の口でくり返す。
息子は、福田平八郎の瓦に降る「雨」の絵を見て、忍者の足跡を探し、
小茂田青樹の「灯による虫」を見て、
夜の窓辺に集まる虫、カエル、ヘビの話は尽きることなく、
モネの「枝越しの春」を見て、“この木に登って向こうっ側が見たい”と言う。
春だけでなく、いつの季節も、今までとは違う世界を魅せてくれる。
新しい世界を求めるのは、子どもだけではない。
大人にも、新しい世界・新しい言葉が時には必要で、
それをこの名画たちが、語りかけてくれるのだ。
(文;森 ひろえ)