つるにょうぼう
矢川寿美子/再話 赤羽末吉/画 福音館書店 ¥1,296-
つる・・・の昔話は2種類ある。
「つるのおんがえし」は、つるがおじいさんおばあさんのところに訪ねてくるお話。「つるにょうぼう」は、つるが一人の若者のところへやってくるお話だ。
「女房にしてくださいまし」と、美しい娘がやってくる。それは夫婦になる二人のはじまり。
独り者の家が明るくあたたかくなり、しばらくは楽しい日々が続く。でも、生活するということは・・・。
相手をもっと幸せにしたい。楽をさせてやりたいという愛は、時々二人の間に、哀しいすれ違いを生む。
「ふたりして暮らせさえすれば十分ですのに」 つるのこのセリフは、子どもだけが読む絵本とは思えない。
描かれているのは、東北の寒さ厳しい冬。
降る雪の向こうから近付く人影、雪に覆われた家、その中のあたたかさ。たった数日で描かれたような、昔話のマンガ絵本が多い中、この本からは、その空気の冷たさが伝わってくるのだ。赤羽氏は、この絵本を描くのに、7年の歳月をかけたという。冬の東北に住み、雪の中で暮らす厳しさを経験したその体で、 この画は描かれたのだ。
つるが大きくはばたいて、蒼い空に消えていく別れの場面を 4ペ-ジにもわたって描いたのは、他の本ではみられない。共に過ごした家に残り、愛する人が二度と会えないところへ飛びたっていくのを見送ることほど、
つらいことはない・・・のかもしれない。
(文;森 ひろえ)