インタビュー5

 タイで卵子提供、エージェントに疑問
 …村上加奈子さん(仮名)

聞き手・文/白井千晶 (インタビュー2011年4月)

村上加奈子さん(仮名)は、卵子提供をコーディネートするエージェントに仲介してもらい、タイで卵子提供を受けました。
結果、妊娠には至りませんでした。
エージェントには不信感が残ると言います。

2011年現在、アジアで日本人向け(日本語通訳、日本語サイトなどを提供する)エージェントは少なくなく、タイ、インド、マレーシア、韓国などで施術するとして事業を展開しています。
「安さ」を売りにしていますが、一方で、当該国での法的位置づけが明確でなかったり、明らかに違法であったり、「口利き」にとどまったり、金銭トラブルがあったりという事例も耳にします。
報道については[News&Topics]に一部を掲載しています。

まずは、村上さんのインタビューを聞いてみましょう。



結婚してから何年も不妊治療をしましたが、その間に、もう卵巣の状態が悪くなってしまって。
早発閉経の診断を受けました。もう生理もなくなるだろうし、血液検査の結果から見て、IVFはできないと言われました。
タイミングだけでいいので診てほしいといって、ずっと通っていたんですが、結果は出ません。
そのうち排卵誘発にも反応しなくなってしまって、駄目なのかと行かなくなってしまったんですが、年齢はどんどんあがってしまうので、焦りもあって、有名な別の病院に行きました。
でも、誘発しても採卵できなくて。
医師には、かけてあげられる言葉がないと言われました。
卵子が採れなければ、そこから先はないんですよね。

私は、自分のお腹で育てた子どもがほしい。
胎動を感じたいし、自分のお腹で育てたい、と思います。

養子も考えましたし、夫もそう言っていましたが、あっせん団体の条件がクリアできませんでした。
まったく他人の子ならば、卵子提供でも…ということで、夫婦で話し合って、試みてみることにしました。
生理がなくなれば、子宮の状態も悪くなりますので、焦りもあります。
せっかく縁があって結婚したので、夫の子どもがほしいというのもあります。


言葉の問題があり、エージェントにお任せすることにしました。
治安の不安もありました。
行ってみたら、とても近代的なところでしたけれど。
アメリカなどもあることは知っていましたが、金額的な問題でタイにしました。
1回目の渡航の時に直接、料金を支払ってもよいのですが、私は日本から事前に送金しました。
メールでやりとりをして、ドナーさんの了承が得られてから、1回目の渡航になります。
事務所で契約をして、病院で診察や検査を受けて、夫の精子を凍結しました。
その時に、採卵・移植の日程が決まります。


アメリカで卵子提供というと、日本人留学生や日系人の方を希望される方が多いと聞きます。
タイだとタイ人の方というわけではなく、中国系タイ人の方がいて、顔立ちなどは本当に日本人と変わらない方がたくさんいらっしゃいますので、中華系の方を選びました。
ドナーは、エージェントが管理しているのでもなく、病院が管理しているのでもないそうです。
病院の外部に関係者のチームがあって、そこが管理をしているらしいです。
ドナーとの面会は、ドナーが了承すれば、1回目の渡航をした時に会えるのですが、病院側に、病院の中での面会は困るといわれました。
病院は関係ないので、ということでしょう。

ドナーさんが決まるまでですが、依頼したエージェントとドナーさんは直接関係がないので、エージェントに血液型など希望を伝えて、それをドナー管理チームに通訳してくれるという形です。
いろいろ聞きたいことや困ったことがあった時に、どこに聞けばいいのかわからないということはありました。
病院によっては、病院が卵子ドナーを直接管理しているところもあるようですが、ちょっとよくわからないです。


タイで卵子提供をおこなう病院は、いくつか名が知られたところがありますが、
サイトには日本語通訳がいると書かれていても、実際に病院に行ってみたら、通訳はいなかったりしました。
病院は、IVF専門の主に外国人向けの病院です。
現地の病院に比べれば、かなり高額で、現地の方でも富裕層の方しか来ません。
私が行った時には、隣のカンボジアやベトナムの富裕層の方、中国の富裕層の方が多かったです。

病院がその都度、領収書や明細をくれるのですが、エージェントに支払った金額との対応がわからなくて、仲介料や通訳など、内訳は不明です。


追加料金が発生して、払いましたけれど、それが本当なのか、妥当なのかも判断がつきません。
ドナーの方の調子が悪いということで、追加で請求がありました。
ドクターがエコーの写真もつけて送ってくれましたけれど、本当のところは確認のしようがありません。

日本ではOHSS[卵巣過剰刺激症候群]を恐れて、あまり強い排卵誘発はしないのですが、タイの卵子提供の場合は、やっぱり誘発したいんでしょうね。
実際、わたしの時も、最初に決めたドナーさんは、OHSSで採卵が取り止めになりました。
もちろん薬剤費などの医療費はこちらに請求されます。


2回目の渡航は、1回目と比べて長い日程になります。
向こうで、子宮内膜の状態を見て、薬を追加したりします。
移植後、数日間は飛行機に乗りませんので、移植後も滞在します。
2回目の渡航は、夫が一緒ではなく一人で、病院での診察や注射を受けながら、ホテルに長期に滞在することになります。
病院の印象は、医療のレベルが高そうだなと感じました。
移植や培養、受精卵の管理などは日本と変わらないと思いましたし、本人確認や受精卵の確認などもきちんとしていて、不安はなかったです。
このような病院で働いている看護師さんは英語も話せますし。

ただ、ドクターは、病院のサイトなどに書いてある有名なドクターではありませんでした。
不妊治療が専門のドクターではないかもしれません。
少し調べたら、卵巣摘出など、性転換手術が専門のように感じました。
ドクターを変えていただきたいのですが、エージェントが契約しているドクターは決まっているので、変えられないんです。
ドクターはたぶん、その都度依頼をされて、あちこちの病院で施術をしているように思います。


残念ながら、卵子提供を受けて受精卵を移植しましたが、妊娠しませんでした。
移植してから帰国までに、何となくダメだったんじゃないかとわかってはいたんですが、落胆しました。
かなり期待をして行きますし、お金も時間もかかるし、かなりエネルギーを費やしていますので。


凍結卵があるので、今後、移植していくつもりです。
病院の移植費用をたずねたら、エージェントを通す場合の1割ぐらいでした。
もちろんエージェントの金額は、旅費・滞在費も通訳から何から、すべて入っているのですが、儲けがあまりにも大きいと思います。
もちろん、ただでしてもらおうなんて少しも思っていないのですが、斡旋料がいくら、滞在費がいくら、と内訳がはっきりしていないので、もうエージェントを通す気持ちはありません。

次に行く時は、病院に直接連絡を取って、渡航の手配もすべて自分でして、通訳も現地で手配して、一人で行ってこようと思っています。
ただ、病院に問い合わせても、なかなか返事が来なかったりして、生理の調整ができなくなってしまいました。
子宮内膜を厚くして、移植に適した状態にしないといけないのですが、日本でそれをしてくれる病医院が見つからなくて、困っています。
子宮内膜の状態を見るだけなら受けてくれるんですが、タイの医師が言ってきたような投薬を日本の病医院でしてもらうのは、何かの治療のための投薬ではないので、責任の問題があって、難しいみたいです。

代理出産は考えていないし、受精卵を棄てて下さいという気持ちもないので、経済的に許す限り、移植をしていきたいと思います。
ただ、1回目にダメだったので、次もダメなんじゃないかと、不安が増していますが。


よくなかった例、ダメだった例は、サイトでもあまり載っていないと思います。
必ず健康な子どもが生まれるというわけではないですし、年齢が高いからか子宮全摘の例もあります。
妊娠率も、サイトに書いてあるほど高くないそうです。
卵子提供で生まれた子どもさんの10年後、20年後についても情報はありません。
いろいろなリスクがあって、そういうのを知れば、思いとどまる方もいるのかもしれないと思います。
悪い面もぜひ知っていただきたいと思います。



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