眠りが育てる子どもの脳と体と心
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子どもの発達と脳の不思議2
眠りが育てる子どもの脳と体と心 Part.2

談・神山 潤(東京北社会保険病院副院長)

協力/NPO法人市民科学研究室 写真/Kikuchi Sakae
2006年12月掲載(専門家の肩書きは取材当時)



眠りが育てる子どもの脳と体と心2 眠りが育てる子どもの脳と体と心

Part.2

 夜ふかしをしたからといって、子どもたちの体が、ただちに明らかな異常を見せるわけではありません。しかし、それは眠りの持つ重要な働きを損ない、取り返しのつかない大きな危害を子どもたちに加え続けるのです。
 夜ふかしは、子どもに次のような悪影響を及ぼすと考えられます。

(1)夜に蛍光灯などの光を浴び、朝寝坊して朝の太陽の光を浴び損ねることで、生体時計が乱れる。時差ぼけに似た体調不良となり、作業能率・意欲・食欲が低下し、疲労感が増えていく。

(2)夜の明るい光は、脳内で作られる「メラトニン」というホルモンの分泌を減らす。メラトニンは抗がん作用や老化防止の作用があるといわれる物質で、とりわけ乳幼児期に多量に分泌される。メラトニンをこの時期に浴び損ねてしまう恐れがある。

(3)睡眠時間が減る。寝不足では集中力を欠き、イライラもつのる。アメリカの高校では睡眠時間が少なく、夜ふかしをしている者ほど学業成績が悪いという報告もされている。

(4)肥満になりがち。3歳時に就床時間が夜11時以降の子どもは、9時前に就床していた場合に比べ、小学校4年生時点で1.5倍肥満になりやすいなどの報告がある。肥満は生活習慣病のもとになる。

(5)脳の発育を促し、感情をコントロールする役割も果たす「セロトニン」という神経伝達物質の働きが落ちる。セロトニンの活性が下がると、精神的に不安定になり、気分が滅入り、攻撃性や衝動性が高まる。

 夜ふかしは、子どもの脳と体と心の発達にとって、これほどまでに深刻な問題をもたらすのです。



夜ふかしは、子どもの脳と体と心に何をもたらすか
 夜ふかしと学業成績の関連については、日本の調査でも明らかにされています。小学校高学年(4〜6年生)の成績上位群の50%は、午後9時半前に就床しているのに対し、下位群ではこの割合は20%に過ぎず、午後10時半以降に就床している者の中には成績上位群はいなかったという報告があります。別の調査では、睡眠時間が短いと学業成績も悪いという結果も出ています。

 つまり、「眠ることで学習効果は上がる」のです。言い換えれば「眠らなければ、塾通いをしても学力は身につかない」といっていいでしょう。

 眠りが不足すると、発育期の脳にどのような変化をもたらすのか。その参考になるアメリカでのネコを使った実験があります。生後1ヶ月の仔猫の片目をふさぎ、6時間、明るい環境でその間ずっと眠らせないでおくと、左右の目で光刺激に対する反応に差が出ます。これを対照群として、同じ操作(6時間、明るい環境でその間ずっと眠らせない)をしたあと、以下の3つの異なる条件にして、その反応を比べました。

・第1のグループ
 …眼帯をはずして、次の6時間は真っ暗闇で自由に眠ることができるようにする。
・第2のグループ
 …眼帯をはずして、次の6時間は真っ暗闇の状態だが、眠らせないようにする。
・第3のグループ
 …眼帯をしたまま、次の6時間も明るいところで眠らせないようにする。

 この結果、第3のグループは、眼帯で目をふさいだ側とふさいでいない側の目で、光刺激に対する反応差は、対照群の2倍ほどありました。さらに、眠らせた第1のグループでも同程度の差が見られました。ところが、眠らせなかった第2のグループでは、左右の目の反応の差は対照群より目立たなくなっていたのです。つまり、眠らないことで、それ以前に生じた変化が失われ、眠ることで以前に生じた変化が増強、固定(記憶)されたと解釈できます。
 私たちは「夜、勉強してその晩きちんと眠ると、翌朝も勉強内容は身についているが、勉強しても徹夜してしまうとすっかり忘れてしまう」という経験があると思います。眠ることは、特に発育期において記憶、すなわち脳に生じた変化を確かなものにするのです。

 (談/神山潤・東京北社会保険病院副院長)



子どもの発達と脳の不思議ビジュアル

子どもの発達と脳の不思議INDEX

1.幼児期は五感と身体を育てる時代

2.眠りが育てる子どもの脳と体と心

3.赤ちゃんの心のめばえと発達

4.0歳から育てる「社会力」


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