妊娠・出産という大仕事に備えて、どんなふうに体を整えていったらいいのか、また、ストレスとどう付き合っていくべきか、など、妊娠前からぜひとも実践しておきたいことを、助産婦、鍼灸師、セラピスト、ヨガ、アロマテラピストなど、専門家の方々に取材し、妊娠前の生活についてアドバイスしていただきました。


プレマタニティの生活
妊娠・出産に備えて、今できること-2

プレマタニティの歯のメンテナンス

歯科医師3名の方のご協力をいただきました。
安藤 和成先生、池田 聡子先生、坂田 謙先生


妊娠・出産を機に、歯が悪くなってしまったという人は案外多いもの。でも、「妊娠中に胎児にカルシウムをとられるから」という話はまったくの迷信。というのも、歯というのは、あなた自身がお母さんのおなかの中にいたときに、すでに作られ始めているものだから。
ちなみに、乳歯は妊娠7〜10週ごろ、永久歯も半数以上が妊娠5ヶ月ごろに形作られ始める。生まれたばかりの赤ちゃんに歯は生えていないけれど、歯ぐきの下には、乳歯だけでなく、永久歯のタネ(歯胚)もしっかり植わっているのだ。

では、なぜ妊娠中や産後に歯が悪くなりやすいのか。それは、妊娠中は口の中が酸性に傾いて、虫歯が進行しやすい状態になるうえ、つわりや子育てで、どうしてもデンタルケアがおろそかになりがちだから。
それから、妊娠中の場合、歯ぐきが腫れたり出血したりする「妊娠性歯肉炎」になってしまうこともある。産後は治るケースがほとんどなので心配はいらないが、妊娠中の不快症状はできれば避けたいもの。これは、プレマタニティのうちに、きちんとプラークコントロールして、歯肉のトラブルを治しておけば予防することができる。


妊娠中にもし歯が痛くなってしまったら…。「レントゲンや麻酔が怖いから、歯医者には行かない」という人がいるかもしれないけれど、これは百害あって一利なし。痛みをこらえるのは、それだけでストレスになるし、多くの歯科医が「妊娠中であってもほとんどの歯科治療が可能」と考えている。
ただし、鎮痛剤、消炎剤、抗菌剤などの内服は、いつも通りというわけにはいかない。特に、主な組織や臓器の原型ができあがる妊娠初期(下表参照)は、十分な注意が必要だ。妊娠がわかっていれば、主治医や歯科医と相談して、胎児に影響のない薬を使うことができるけれど、妊娠に気づかずに服用する可能性を考えると、プレマタニティも十分に気をつけておかないといけない。

 一方、歯科のレントゲンや麻酔は、それほど神経質になる必要はないようだ。歯のレントゲンを撮るときには、肩からおなかにかけては防護エプロンでカバーするし、使われる被爆線量は、ふだんの生活の中で自然に浴びている1年間の自然放射線量と比べてもずっと低い。ADA(アメリカ合衆国歯科医師会)でも「通常の歯科レントゲン撮影のガイドラインは、妊娠によって変更される必要はない」としている。麻酔も胎児に影響があるほど濃度が高いものは一般には使用されていない。
とはいえ、妊娠中はナーバスになりがちだし、安全だといわれても、レントゲンや麻酔を積極的に受けたいとは思わないだろう。それに、つわりがひどい人は、口を開けるのさえ辛いこともある。そういう時期にわざわざ歯医者通いをするよりは、妊娠の可能性がない時期に、きちんとメンテナンスをしておくのが正解といえそうだ。

1.受精卵期受精〜胎生2週まで。遺伝子の障害や染色体の異常がある場合には、胎 児はこの時期に著しく影響を受けている。
2.胎芽期胎生3週〜8週まで。器官形成期。臓器形成の時期。主な組織や臓器の原型 がこのときに完成する(歯が作られる時期…胎生7〜10週に乳歯の形が作られ、永久 歯も半数以上が胎生5ヶ月以 降から形が作られ始める)
3.胎児期胎生9週〜出産まで。体の各部の器官の形成は完了し、胎児は急速に大き くなる。呼吸運動は、18週頃から始まり、胎盤を使って母体より酸素の供給を受ける 。さらに、9ヶ月以降は皮下脂肪の蓄積、皮膚、毛髪の発生などが急速に進む。


妊娠中や産後にけっこうトラブルが起こりがちなのが、「親知らず」。親知らずは食べかすがつまりやすく、磨きにくい場所にあるので、どうしても虫歯にもなりやすい。自覚症状がなくても、歯のケアを怠りがちな妊娠中〜産後に進行して痛みだす…ということも、けっこう多い。

妊娠中でも抜歯できないこともないが、親知らずの抜歯は、肉体的・精神的な苦痛を伴うことも多いので、過去に一度でも痛んだり、歯ぐきが腫れたりしたことがあるのなら、妊娠前に抜いておいたほうが無難。
それから、「私は親知らずがないから大丈夫」という人も、注意が必要。いちばんやっかいなのは、生えていないのに痛む親知らずなのだ。
もちろん、完全に歯肉内か骨の中に埋まっている親知らずを無理して抜く必要はない。でも、その判断は自分ではできないので、一度は歯医者さんでみてもらうべき。
もし、歯ぐきの下で、親知らずがいちばん後ろの奥歯の根っこを押しているようなら、やはり抜歯が必要なのだけれど、生えていない親知らずを抜くのはけっこうたいへんなこと。あごの骨を削ったり、全身麻酔が必要だったりする場合もあるので、大学病院での処置が必要になる。とても、妊娠中に処置できるようなシロモノではない。


虫歯も歯周病も、幸いにして一朝一夕にできあがるものではない。だからこそ、毎日の歯磨きはとても大切なのだ。安心して出産準備に入るためにも、そして、歯をできるだけ「長生き」させるためにも、妊娠前の今はちょうどいい機会と考えて、ぜひ一度歯科医に足を運んで欲しい。 妊娠前に適切な処置がされていれば、トラブルは少なくてすむし、万一トラブルが起きたときでも、レントゲンの結果や治療経過が分かっているかかりつけ医があれば、たとえ電話による相談でもかなり正確な情報を提供してくれるはずだ。

それから、聞くところによれば、お母さんと子どもの歯はよく似ている、のだそうだ。歯に対する意識が高い親のもとに育った子は、やはり虫歯が少ないということらしい。また、親の口の中が不潔だと、虫歯や歯周病の原因となる菌を、子どもに「感染」させてしまうことにもなりかねない。
プレマタニティとしては、そのあたりも含めて、やはり一度まじめにデンタルケアを考えてみたいところである。

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