あたたかいお産と子育て
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進先生のあたたかいお産と子育て
お産は子育ての出発点。産む人と生まれてくる人が尊重される「あたたかいお産」の環境ついて考える、進先生の連載コラムです。 掲載:2001〜2003
(故)進 純郎(Shin Sumio)先生 産婦人科医師 医学博士 (掲載当時)葛飾赤十字産院院長 人間的な出産について考える「出産のヒューマニゼーション研究会」代表。

麻酔分娩(後編)


 麻酔分娩をしたのに、痛みが100%消えなかったという話を聞きますが、これはどの時点で麻酔を使用したかにもよります。途中から麻酔を使う場合には、当然それまでは痛みを感じるわけです。現在はダブルカテーテル法といって、2本のカテーテルを高さを違えて挿入するやり方があります。この場合は、最初は上のほうに麻酔を入れ、お産のすすみ具合を見て下のほうにも入れる。濃度の薄い薬を、少しづつ継続して注入していきます。

 経験豊かな先生であれば、麻酔を入れる場所を適確に選び、いきむこともできるかもしれませんし、痛みを100%とることができるでしょう。
 

 麻酔分娩は、人的な管理を要求される出産法ですので、スタッフが十分に配置されていることが必要です。そのため、スタッフが揃っている平日の日中に実施される計画分娩が多くなります。これは多くの場合、朝に子宮口を開かせる薬を使い、陣痛を誘発して、夕方には出産する方法です。

 麻酔分娩は継続的に管理し、鉗子、吸引分娩や、帝王切開に備えて、つねにセットアップして想定しながらやらなければなりませんので、専門的に行なっている施設を選ぶことです。

 

 痛みは人によって、感じ方が違います。耐えられないほどひどい痛みがきたときや、痛みも強くその上、子宮口が広がらない場合などは、麻酔をかけることによってリラックスでき、子宮口が柔らかくなっていく人もいます。

 中には妊娠中から、お産に対する恐怖心がひじょうに大きいという人もいます。外来でも、最初から硬膜外麻酔をやってくださいと希望される人がときどきいらっしゃいます。経産婦で1回目にひどいお産をして、トラウマになってしまっていた方もいました。妊娠はしたけれど、お産のことを思うとだんだん恐怖がつのってきたようでした。
 その方には、当病院では最初から硬膜外麻酔を使うことはしていませんと説明し、ほんとうに陣痛が痛くなってがまんできなくなったら、その時点で硬膜外麻酔に切り替えましょうとお話ししました。お産のときは、助産婦がずっとそばにいて付き添い、声をかけてあげて「だいじょうぶですよ」と言っているうちに、「痛い」と声が出たときには全開大。いきんだら、すぐに生まれてしまいました。ご本人は、望んでいた麻酔をしなかったことで、「私は痛みにたえられた」と 自信をもって帰っていきました。この方の場合には、硬膜外麻酔を最終的に選択することができるということを知っていたことが、安心感につながったのかもしれません。


 ここの病院では、麻酔分娩のケースは全体の1%未満ですが、中にはパニックになってしまって、途中から麻酔分娩に切り替える人もいます。お産のとき、パニックになってしまうケースというのは、だいたい夜中に起こります。日中は、スタッフがいつも付いていますが、夜はお産が重なってくると、ずっと付いていられないこともあり、ひとりになった孤独感と不安がパニックを引き起こしてしまうのです。

 パニックになったらどうしようという不安や、お産の痛みが恐いという理由から麻酔分娩を望んでいる人でも、多くの場合、医師や助産婦と妊娠中から十分に話をして、実際にお産がはじまってからは、付き添う人がそばにいて安心できる環境があれば、その不安や恐怖は想像しているものとはまったく違うものになってくるはずです。

 私どもの病院では、助産婦がずっと付き添い、ケアをしています。麻酔で痛みをとる代わりに、暖かいケアで援助することによって不安をやわらげるわけです。助産婦たちの献身的な姿を見ると、なかなか医師にはできないなあと感心することがよくあります。日本の助産技術は世界に誇れるほどすばらしいのものです。ずっと付き添って支えてくれる人がいると思うと、そこに信頼関係が生まれ、それによって、痛みはともに乗りこえられるものになるでしょう。

 

妊娠・出産、母乳ワード101妊娠・出産・産後ワード101
安産と楽しいマタニティライフに役立つ101用語を解説しました。
監修/医学博士・産婦人科医師(故)進 純郎先生(監修当時)葛飾赤十字産院院長



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