子ども環境問題2
Interview 専門家インタビュー2環境ホルモンと妊婦、胎児の関係
インタビュー:森 千里 先生(千葉大学大学院教授)2004年11月掲載(プロフィールは掲載当時)
環境ホルモンについて研究している森千里先生は「環境ホルモンに対してもっとも悪影響が心配されるのは胎児」だと言います。先生の研究では、子宮のなかにいる赤ちゃんが環境ホルモンに汚染されていることがわかりました。そして最も懸念されるのが、環境ホルモンの『複合汚染』です。
「少量なら大丈夫」と言われて久しい環境ホルモンですが、その認識が今、本当かどうか疑われています。個々では微量な環境ホルモンも、ひとまとめにすれば身体に悪い影響があるのではないか?最近の研究では、そう考えられるデータが報告され始めています。
おなかの赤ちゃんへの影響は?
具体的にどういった対策をとればいいのか? 森先生に伺いました。
環境ホルモンと妊婦、胎児の関係
インタビュー:森 千里 先生(千葉大学大学院教授)
「化学物質のなかには、ホルモンと似た作用やホルモンの働きを阻害する作用を持つものがあります。現在、環境省が『環境ホルモンと疑われる物質』としているものは65種類。これらの化学物質が人体に取り込まれると、身体の正常な発達や機能を妨げたりする可能性があるのです。それが環境ホルモンと呼ばれるもので『内分泌かく乱物質』とも言われます。
「私は環境中にある化学物質の影響を一番受けるのは胎児であることに気付き、胎児に対する複合汚染の研究を始めました。私がこの研究を始める前は、単独の化学物質が胎児に及ぼす影響に関する研究はありましたが、複数の化学物質の影響に関する研究は世界的にありませんでした。
「現時点で、環境ホルモンのヒト胎児への影響は、はっきりわかっていないのですが、これまでの歴史の中で胎盤を経由して化学物質が胎児に移行して起こった悲しい事例としては、1950年代の胎児性水俣病、1960年代に手足の形成不全が起こったサリドマイドの事例、そして、1970年代に切迫流産を防ぐために投与された合成女性ホルモン(DES)によって生まれた子どもが成人になって膣がんや精子数減少が起こったDESシンドロームという事例があります。また、最近では『胎児プログラミング』と言う概念が提唱され、胎児期などの発生の重要な時期に、母体栄養、ステロイドや化学物質曝露が、成人期の代謝や生理機能に影響を及ぼし、高血圧、糖尿病、肥満、精神疾患を引き起こすと言われるようなってきています。つまり、生まれた時は正常でも、成長してから胎児期の影響があらわれることがあるのです」
「その理由は3つ考えられます。まず一つは、胎児は大人と比べて身体が小さいという点。風邪薬を例にあげるとわかりやすいと思いますが、子どもは大人よりも飲む量が少ない。大人と同じ量を取り込んだ場合、子どもや胎児は身体に取り込む物質に対する影響が、大人と比べて大きいということがわかります。
「確かに、胎盤は自然のなかにある毒物や病原菌などの有害なものから赤ちゃんを守るための関所のような役割をもっています。しかし、残念ながらウイルス、タバコのニコチン、アルコール、ある種の化学物質はこの関所を通り抜け、胎児に直接影響が現れることがあります」

「先ほども言いましたが、胎児の化学物質に対する感受性が最も高い妊娠初期の頃は特に注意が必要です。受精から第8週目まで、妊娠2〜3ヶ月までの頃を『ウインドウ期(高感受期)』と言います。細胞分裂が盛んで、ほとんどの臓器や器官がつくられる時期にあたります。この頃に胎児が環境ホルモンにさらされると、先天異常や健康障害が出やすいことが動物実験で報告されています」
「その通りです。妊娠、出産を考える女性ならば、この時期だけ気をつければいいというわけではありません。環境ホルモンには身体から代謝されやすい水溶性のものと、蓄積されやすい脂溶性のものがあります。妊娠したそのとき、すでにお母さんの身体に蓄積性の高い化学物質が残留していることもあります。妊娠がわかってから対策をとっても遅いということです。特に、第一子を生む年令が高くなるほど、蓄積される化学物質の量が多く、胎児への曝露が多くなる可能性が高い。将来、子どもをつくることを考える女性、男性は日頃から化学物質に暴露しない生活を考えることが重要なのです」
「主に食事に注意を向けることです。
「衣食住のなかで使われる防虫剤、抗菌剤などの薬品は避けた方が無難でしょう。周りで虫が死んでいる環境に、人間がいてもまったく無害である、とは考えにくい。とくに長時間そういった環境にさらされないようにしたほうがいいと思います。他に曝露の機会が多いものとしてタバコがあります。本人が吸っていなくても、吸っている人の近くにいるだけで曝露しますから、妊婦や子どもはなるべくそういった環境は避けるようにすべきでしょう」
「自分の化学物質の蓄積量を知り、積極的に対策をとる方法があります。千葉大学では、今、その試みを行っています。体内の化学物質の血中濃度を測ってみて、低ければ安心してもらいます。多くの方は、不安が先に立っているケースが多いからです。そして、少し高いケースには、今後どのようなことに気をつければよいかのリスクコミュニケーションや環境教育を行い、生活習慣病におけるライフスタイルの改善を含めた予防的対応を推奨します。Interview
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