子ども環境問題5
Interview 専門家インタビュー5小児白血病と電磁波の関係
インタビュー:齋藤 友博 先生(国立成育医療センター 研究所成育疫学研究室 室長)2005年2月掲載(プロフィールは掲載当時)
高電圧送電線から生じる超低周波磁界は、小児白血病の発症リスクを高める可能性がある。1979年、アメリカの疫学研究ではじめてこの問題が指摘されました。その後、1996年にWHOが『電磁界プロジェクト』を発足。各国が協調して研究を行い、結論を出すために疫学研究を進めてきました。
日本にも研究班があり、小児白血病と電磁波の関係についての疫学研究を中心的に行っているのが齋藤先生です。
今回は現在も行われている研究についてのお話を詳しく伺います。
小児白血病と電磁波の関係
インタビュー:齋藤 友博 先生(国立成育医療センター研究所 成育疫学研究室 室長)
「小児がんのうち一番多く約3分の1を占めているのが白血病です。簡単にいえば血液中にがん細胞が発生し、それが増殖してしまう病気です。血液の働きが正常に行われなくなり、貧血や鼻出血、感染症などを起こしやすくなってしまいます。また、これらが重症化しやすくなる。
「今現在、わかっている原因としてあげられるのは妊娠中のX線被曝などです。ベンゾールなど一部の化学物質も原因となります。あとはまだはっきりとは解明されておらず、疫学調査でも国別の違いはあまりみられないので、食べ物や遺伝が深く関係してはいないようですね。ここから推測すると、何かどの国にも共通の普遍的な環境要因が関係しているのではないかと考えられます」
そうですね。今、世界中の研究者の間では小児白血病と極低周波は関係があるという認識が広まっています。1976年にアメリカの研究機関が小児がん患者は送電線近くに住む割合が多いと指摘したことをきっかけに、世界中で電磁波と小児がんに関する疫学調査が行われました。今、その数は50を超えていますが、その多くでリスク比は1以上。つまり、電磁界が強いと発病のリスクが上がる、というものです。そのことから国際癌研究機関(IARC)は電磁波を発がんの可能性ありのランク『2B』をつけています」
「それについてわかっていることはほとんどないのが現状です。がんの原因には細胞に発がんを引き起こす『イニシエーター』と、起きたがん化を促進する『プロモーター』があります。先に述べた胎児期の放射線曝露はイニシエーターと考えられますが、実験や疫学調査の結果と照らし合わせると、電磁波は小児白血病のプロモーターとして存在しているのではないかという見方があります」
「私たちはWHOのプロジェクトの一環として、15才以下の小児白血病の子どもがいる家庭の全国疫学調査を1999年に始めました。これは、これまでにない曝露評価を行うことが目的でした。というのも、これまで一週間続けて住宅内を連続で計測した研究はなかったのです。電磁界は家庭や産業活動の状況によって変化しますから、計測にはある程度の日数が必要だと考えたのです。昼と夜では、またウィークデイと週末では電気を使う量や頻度が変わりますから。全体としては、夜より昼、土日よりウィークデイに使用量は多くなります。
「平均0.4マイクロテスラ(4ミリガウス)以上の電磁波では、小児自血病の発症が2〜4倍ほど増えるということがわかりました。これは、国際癌研究機関が各国の疫学調査20件のデータを一つに束ねて解析した分析から得られた2倍とほぼ同じものです。ちなみに0.4マイクロテスラ(4ミリガウス)というのは高圧送電線から数十m、街路上の約6600ボルトの配電線から数mの磁界の強さに相当します」
「そうですね。ただ、こうした数値が大きいのか小さいのかは立場やリスクのとらえ方によって違います。
0. 4マイクロテスラ(4ミリガウス)の磁界が日本の小児白血病患者の発症リスクを2倍にしているとして計算してみると、毎年全国で電磁波が原因で小児白血病を発症しているのは2、3例ということになる」
「過度に怖がるのではなく、冷静にリスクのもつ意味を考えて欲しいと思います。妊婦さんで言えば、電磁波を避けてもタバコを吸っていたとしたら、そちらのほうが胎児にとって病気になるリスクは高い、ということです。電磁波を過度に怖がるあまり、それがストレスになると性ホルモンの出方がかわって、やはり胎児に影響が出るかもしれない。必要な対策の知識さえ備えておけば、それほど恐怖心をもつ必要はありません」
「身体に密着させるような家電、例えば電気毛布や電気カーペットなどの使い方に気をつけることです。調査中、子どもに計測器をつけていると、あるときに数値がポンとあがっていることがありました。電気カーペットに座ったり寝転んだりすると数値が跳ね上がることがわかったのです。測定してみると、電気カーペットでは10マイクロテスラもありましたからね。妊婦さんはその上に寝ころんだり座ったりすることを控えたほうが無難でしょう。また、電気毛布は寝る前だけスイッチを入れておく。ほとんどの家電は1メートル以上離れると0.4マイクロテスラ以下になりますから、そのことを頭にいれて配置を考えるといいでしょう。
「WHOの会議でも、今後、携帯電話の影響についてもっと研究をするべきだという声が多数上がっていましたね。特に子どもの使用者数は各国で爆発的に増えていますから。こちらはまだ使用されはじめて数年しか経っていないので、疫学調査が難しい。ただ、大人の研究では脳腫瘍や耳下腺腫瘍へ影響しているのではという研究が出ています。WHOの国際プロジェクトでも1、2年のうちに、大人での携帯電話とがんの共同研究結果のまとめを出すことになっています。研究者の間では、携帯電話のパンフレットに電磁波レベルをはっきりと表示すべきだという意見が出ていますよ。Interview
子ども環境問題 専門家インタビュー

子ども環境問題 インデックス
| babycom おすすめ記事 babycom Site |
子どもの発達の基礎知識とともに、最新の脳科学や発達科学の研究成果なども紹介し、環境や発達の視点から、健やかな脳に育てるために親が知っておきたいこと、親ができることを考える。