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0歳から育てる「社会力」

 いじめや自殺、不登校など、子どもたちの危機的な状況が伝えられています。こうした背景には何があるのか。そして、子どもが健やかに育つには、大人たちは何をすればいいのか。
 第4回は、「子どもに今、必要なのは社会力だ」と提言されている教育社会学者で、筑波学院大学長の門脇厚司先生にお話をうかがいました。
「漢字が読めるとか、ピアノがひけるとか、学校の成績がいいといったことは、ヒトの子が社会力のある人間になることに比べたら、どうでもいいといってもいいぐらいです。子どもを育てるとは、社会力のある人間に育てることなのです」と門脇先生は言います。
「人が人とつながり、社会をつくる力」=社会力という視点から、子育てへのヒントも含めて語っていただきました。

談・門脇厚司(筑波学院大学長)

「他者と現実」を失った子どもたち

家族と地域が変わり、メディアが増えた




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赤ちゃんにも「社会力」がある

「人間の脳は、社会的な動物になるためにある」

子どものほんとうの友だちは大人




 「他者と現実」を失った子どもたち


 「最近の子どもたちは変わった」とよく言われます。いじめや不登校、学級崩壊、ニート、ひきこもり…など、さまざまな現象が起きています。私はこのような変化を「他者と現実の喪失」ととらえています。
「他者の喪失」とは、自分以外の人間に対する関心や愛着、信頼感を、子どもたちがなくしているということです。相手の身になって物事を考える、共感する、感情移入することができなくなっています。もうひとつ、「現実の喪失」とは、自分がふだん生活している場所がどういうところなのかその意味がわからず、また実感できなくなっているということです。

 1980年代の初めから、私はこの問題を警告してきました(※1)。最近で言えば、2004年に長崎・佐世保で起こった小学6年生による殺傷事件が、その典型でしょう。女の子がクラスメートを人のいない教室に連れ出し、後ろからカッターナイフで切りつけて殺してしまった事件です。
 この少女の処遇についての理由書の中で、彼女の特性に挙げられているのは、「他者の認識が欠けている」ということでした。「個々の言動を総合して、その人間がどんな人間なのかということをきちんと理解することができない女の子」と書かれていました。
「インターネットで悪口を言われたことが、殺そうという気になったきっかけだ」とも言われています。自分が現に生活している世界以上に、インターネットによる架空の世界のほうにリアリティを感じてしまっている。現実そのものを喪失してしまっているのです。
 いじめも今は、ネットの中で起こっているといいます。実際に人と人が顔をつき合わせる場ではなく、顔も姿も見えず、声も聞こえないヴァーチャルの場で行われていることに危機感を感じます。学級崩壊についても、「学校とは何をする場所なのか」を子どもが理解できていないことが原因の一つと考えられます。ひきこもりなどに見られるように、他人(ひと)との関わりをつらい、苦しいと感じる子どもたちも増えています。「他者」と「現実」を失った「非社会化」という事態が、子どもたちの間に進んでいるのです。

※1…門脇先生がとりわけこの問題を確信したのは、1983年に横浜で少年たちが路上生活者を襲撃し、殺した事件であった。「少年たちは路上生活者のことを『黒いかたまり』と見て、『そのような“汚物”を処理してあげたことが、どうしていけないんだ』と言っていたのです。『黒いかたまりを処理する』とは、生きた人間に使う言葉ではない。日本の社会で生まれ育った子どもたちが、人間形成の根本の部分で明らかに変わり始めていると感じました」



 家族と地域が変わり、メディアが増えた


 なぜ、こうしたことが起こってきたのか。子どもたちが生まれた直後から、他の人、とりわけ大人と直接かかわる絶対量が、どんどん少なくなっていることが考えられます。


図1:1世帯当たり人数の推移(総務庁統計局『国勢調査報告』各年版により作成)。門脇厚司『子どもの社会力』(岩波新書)より。

 1世帯当たりの家族の人数は、1955年頃までは平均5人でした。統計によれば明治時代の初め頃までさかのぼっても、ほとんど変化がありません。ところが、高度経済成長が始まる1960年頃から年々少なくなり、最近では3人を切るところまで減っています(図1参照)。平均3人ということは、子どものいる家族の多くが、父親と母親と子ども1人ということでしょう。
 家族どうしの人間関係を、たとえば「子と母の関係」を1つと数えると、5人家族の場合は「子と祖父」「姉と父」といった関係も含めて、10種類になります。しかし、3人家族では「父と母」「子と父」「子と母」の3種類しかありません。

 地域との関わりも変わってきました。かつては近所どうしのつきあいも盛んで、「向こう三軒両隣」と言われたほどです。この言葉をそのまま当てはめて、6軒の5人家族が関わりを持っていたとすると、全部で435種類の人間関係があることになります。近所のおじさんやおばさんたちが、子どもと頻繁に関わっていたのです。それが現在は「隣は何をする人ぞ」といった具合に、近所の人たちとの行き来も減っています。子どもを取り巻く人間関係の量が、いわば「435対3」になっているのです(下:図2参照)。


図2:近隣の人間関係の「数」は、「435対3」になった。

 メディアの普及も、人との直接的な接触を少なくしています。小学生の遊びで最も多いのが、テレビゲームだという調査結果もあります(※2)。携帯電話やパソコンでコミュニケーションをとることも多くなりました。
 家族のサイズが小さくなり、地域との関わりが薄れたこと。メディアとの接触が増えたこと。こうした環境の変化によって、子どもが自分以外の他者と直接関わり、成長する機会が圧倒的に減っている。それが、子どもの発達に大きく影響していると考えられるのです。

※2…『小学生白書』学習研究社より。



 赤ちゃんにも「社会力」がある


「人間は社会的動物である」と言われるように、そもそも人が生きていく上で最も大切なのは、さまざまな人たちといい関係をつくりながら、スムーズに楽しく生活することです。そして、知恵を出し合い、よりよい社会をつくっていくことです。「人が人とつながり、社会をつくる力」という意味で、私はこれを「社会力」と呼んでいます。
 ヒトは生まれた直後から、この社会力を身につけ始めているといえます。生まれてすぐの赤ちゃんでも母親の顔の方を向くことは、子育てを経験している方の多くが知っているでしょう。

 新生児の研究によって、赤ちゃんは社会力のおおもとを培う高度な能力を備えていることがわかっています。大人の顔を見分けたり、ヒトの声を正確に聞き分けて同じ音を自分でも声に出すこと。大人たちが笑い声で話しかければ、自分も笑いの表情をつくって反応すること。まわりにあるモノを手や指で差して大人たちの答えを促し、親の目線をたどって自分も同じモノを見ることなど、誰に教わることもなく、やすやすとできます。
 つまり、赤ちゃんには、すでに「社会力」の素が育っているといえるのです。とりわけ、0〜3歳ぐらいの時期は、高度な対人応答能力をフルに稼動させることで社会力の原動力が作られる大切な時期です。


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 赤ちゃんにも「社会力」がある

 「人間の脳は、社会的な動物になるためにある」

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子どもの発達と脳の不思議

子どもの発達と脳の不思議-4

0歳から育てる「社会力

門脇厚司(かどわき・あつし)

プロフィール

1940年生まれ。筑波学院大学長、筑波大学名誉教授。専攻は教育社会学、青少年文化論。遊び場づくりや学校、地域づくりなどのアドバイザーとしても活動している。著書に『子どもの社会力』(岩波新書)、『学校の社会力』『親と子の社会力』(ともに朝日新聞社)、『社会力再興』(学事出版)など多数。



『子どもの社会力』

いじめや学級崩壊など、昨今の子どもの「異変」の背景には、「他者と現実の喪失」があると、門脇先生は本書の中で指摘する。今、子どもに必要なのは、「人と人がつながる力」「社会をつくっていく力」=「社会力」だとし、親や地域の大人たちが、子どもとのかかわりを徹底的に増やすことで、社会力を高めるべきだと提言。東京・世田谷の「羽根木プレイパーク」など冒険遊び場の事例も紹介している。




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