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Interview 専門家インタビュー1

アトピー性皮膚炎の原因と「ステロイドフリー」という治療法(2)

インタビュー:木俣肇(守口敬任会病院アレルギー科部長)

2004年10月掲載(プロフィールは掲載当時)

テロイドを使わずに多くのアトピー性皮膚炎の患者さん達を治療している木俣肇先生の治療方針は「適切な治療、生活の改善、笑顔のある生活」。今回は生活改善について伺います。
「子どもたちの油分の多い食事や睡眠不足、携帯電話やテレビゲームから発せられる電磁波などがアトピーの悪化因子となっている」という木俣先生。薬での治療と同時に、アトピー悪化の原因となる生活を改めることも大切な治療だといいます。具体的にどんなライフスタイルがアトピーの改善に結びつくのか、お話頂きました。

アトピー性皮膚炎の原因と「ステロイドフリー」という治療法(1)
アトピー性皮膚炎の原因と「ステロイドフリー」という治療法(2)



アトピー性皮膚炎を改善するためのライフスタイル

談・木俣肇(守口敬任会病院アレルギー科部長)


「アトピーの患者さんたちの生活ぶりを聞いていると、発症の直接原因であるアレルゲン以外に、悪化させる原因が見つかることが多いからです。特に問題なのが食事の内容です。
先日診察した、頬に軽度のアトピーを発症した10ヶ月の乳児の例をあげると、その主要な原因となっていたのがパンでした。他のものはあまり食べないけどパンは良く食べるというので、お母さんがついたくさん与えていたんですね。超音波で肝臓を見てみると、白い脂肪がついた、すでに『脂肪肝』になっていました。これがアトピーの悪化因子となっていたのです。
前回の写真でお示ししたように、通常は超音波で肝臓を見ると血管が黒く写るので肝臓は黒く見えるのですが、この例は別のお子さんの超音波検査の写真ですが、ひどい脂肪肝の肝臓は血管がつぶれるくらい脂肪がついているので、白い状態で、フォアグラ状態になっています」

脂肪肝って大人の、特に中年期の病気だと思っていましたが…。
乳児でも発症する場合があるとは驚きです。


「脂肪肝の原因は高脂肪食品のとり過ぎ。パンやチョコ、スナック菓子を日常的に食べている子どもは、血糖値やBMI(肥満度を表す指数)の数値が正常でも脂肪肝を発症している場合があります。私の調べではアトピー患者の30%以上が脂肪肝でした(データ1)。アトピー患者の3人に1人が脂肪肝ということ。これは異常な数値です」

【データ1】 肥満の無い小児(BMI<20)で、高脂血症の無い児を含む小児の脂肪肝

子どもの健康と環境の新しいとらえ方

「理由は2つあります。ひとつはコレステロール自体がアレルギー反応を強くする作用を持つこと。もうひとつは皮膚組織を攻撃する物質を出す『マスト細胞』の働きを活性化させてしまうことにあります」

アトピー性皮膚炎の子どもは成人病予備軍になっている可能性も高いということですね。
先生は具体的にどんな食事改善法をアドバイスしているのですか?


「脂肪肝の人たちの食事内容を聞いていると、パン、肉、チョコ、スナック菓子、マヨネーズやマーガリン……人それぞれですが、何かしら取り過ぎているものが見つかります。
まずは原因となるこれらの食品をやめること。同時に、全体的に脂肪の取り過ぎを控えることです。
それにはやはり低脂肪な和食が最適。特に精製されていない食品をとることを勧めています。白米より玄米、白砂糖より黒砂糖がいいです。精製していないこれらの食品には、糖分や油分が腸から吸収されるのを抑制したりスピードを緩やかにする成分が含まれています。それをわざわざ取り除いたものが精製食品。だから毒となるものが身体にそのまま残されてしまいます。」

自然の解毒剤をいっしょに食べることが大切なのですね。

「そう、未精製の食品にはその力があります。そうした食べ物をとるにはやはり自宅で自炊するのが一番ですね。脂肪肝の人は、やはり外食することが比較的多かったですから」

外食は未精製の食品や野菜を十分にとるのも難しいですからね。


「食事の内容にミネラルが不足していることは確かです。また、アトピー患者の場合は皮膚の組織の破壊、再生を繰り返すためにミネラルが多く消費されることも原因かと推測しています。
アトピー患者の毛髪の成分を分析すると、必須ミネラルであるマグネシウムやカリウムのバランスが崩れていますし、亜鉛などの数値がとても低い(データ2)。
逆に、血液中のミネラルは正常値でした。
つまり、皮膚中のミネラルが、生体維持に必要な血液のほうへ回されているということです。血液中の必須ミネラルが不足すると、全身の麻痺や重い皮膚炎を引き起こし、生命が脅かされます。そのため、皮膚よりも血液内のミネラルを優先的に正常に保とうという、身体の仕組みが働いているのです。

【データ2】 アトピー制皮膚炎での髪毛マグネシウム/カリウム比(必須ミネラル)の異常
マグネシウム/カリウム比がほとんどの方で異常です。比が低いのは相対的にマグネシウム不足を意味し、高いのは相対的にカリウム不足を意味します。

子どもの健康と環境の新しいとらえ方
14名のアトピー性皮膚炎患者さん(成人10名、小児4名)

逆に、水銀やアルミ等、有害なミネラルが身体に入ってきたときは、皮膚や髪がそれらを吸収し、血液中に流れないように働いているのです」

思わぬところで皮膚は働いているのですね!
アトピー患者はミネラル豊富な食事を積極的にとる必要があると。玄米等の雑穀はミネラル豊富ですから最適と言えますね。
他にアトピー患者が意識して食べたほうがよい食品はありますか?


「アトピー患者は腸内の善玉菌が少ないこともわかっています。そのため、比較的便秘や下痢の人が多い。その場合、ビフィズス菌が強化されているヨーグルトなどをとるといいですよ」


アトピー性皮膚炎を改善するためのライフスタイル

「食事の時間帯を遅くしないことです。夕食をとる時間が遅くなると、食べてからすぐに就寝することになります。そうすると、とった脂肪が消費されずにそのまま身体にたまりやすくなる。また、就寝時間が遅すぎると、夕食から時間があくので空腹になって夜食を食べたくなります。これも脂肪が身体に残りやすくなるもとだから、夜更かしはなるべく避けて欲しいですね。
また、睡眠時には身体の組織をつくり出す成長ホルモンが分泌され、壊れた皮膚の組織が再生されやすくなる。早めにお布団に入って、しっかりと睡眠をとることもアトピー治療には大切です」

最近はテレビやパソコン、テレビゲームなどで夜更かしをする子どもも多くなってきましたよね。

「前回もお話しましたが、これらの機器を使うことによる無意識のストレスがアレルギー反応を増加させることがわかっています。電磁波による曝露が反応を引き起こしている可能性も考えられますから、携帯電話を含めて、あまり子どもに長時間使わせないように気をつけることも忘れないで下さい。
家にこもってテレビゲームをしているとどうしても運動不足になります。これも脂肪肝の大きな原因となりますからね」


「人によって色々ですが、アイスクリームを毎日食べていて脂肪肝になっていた小学生は、それをやめて1ヵ月で脂肪肝が無くなりました。スナック菓子と外食で脂肪肝になっていた中学生は2ヵ月で、脂肪肝がなくなりました。また、チョコやスナック菓子が原因で脂肪肝になっていた2才児もいましたが、改善までに約半年かかりました。しかし、中途半端にお菓子を減らしても、半年かかって改善しない小学生や中学生もいました。やはり、高脂肪食をとっていた期間が短い程、改善も早いといえます。
実験で健康な成人男性15人でハンバーガー食を一日3食続けたことがあるのですが、そのときは一週間で見事に全員が、総コレステロールとLDL−コレステロール(悪玉コレステロール)が増加しました。更に、実験前は、10人は脂肪肝無し、3人は軽微脂肪肝、2人は軽度脂肪肝でしたが、一週間後には、4人は脂肪肝無し、4人は軽微脂肪肝、5人は軽度脂肪、2人は中等度脂肪肝、と脂肪肝の無かった方も脂肪肝になり、さらに脂肪肝のあった方は重症化しました。その後、家庭食で和食に切り替えたのですが、改善迄に約ひと月もかかりました。単純に考えると、脂肪肝の改善には、高脂肪食をとった期間の約4倍かかるということです」

なるべく早い時期に生活習慣を改めることが、治療の早道となるようです。未精製の食品が豊富な和食中心の食事、早寝早起き、適度に身体を動かすこと。
先生のお話をまとめると、ひと昔前のライフスタイルが浮かび上がってきますね。


「『千と千尋の神隠し』というアニメ映画がありますよね。主人公の千尋は冒頭の場面では車の後部座席でだらしなく寝そべり、親の話しかけにも生返事ばかりでその横にはチョコのお菓子がころがっている。顔もなんだか腫れぼったくて…この時の彼女は脂肪肝かもしれない(笑)。
その後、千尋は神隠しにあって神様達が集う風呂屋で働くことになるのですが、おにぎりを食べ、雑巾がけで身体を動かし、早寝早起きの生活をして……動きも表情も生き生きとしてくる。これは実際の子どもたちにもあてはまるなあ、と思いました」

お手伝いをたくさんして身体を動かし、おやつにはおにぎり。夜8時、9時にはおふとんに入って寝る。
少し前にはあたりまえのようだった子どものライフスタイルですね。
確かに数十年前は、アトピー性皮膚炎などあまり見かけない病気でした。アトピーとは無縁だった時代のライフスタイルを現代の生活のなかで取り戻すことが、アトピー対策に結びつくのかもしれませんね。




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子ども環境問題 インデックス

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