(掲載:2005年2月・プロフィールは掲載当時)
Interview-7 原 啓子さん
助産師ワーキングマザー
原さんは、都内で開業する助産師さん。勤めていた病院を産休明けに退職し、その後、開業しました。開業助産師って?と、聞き慣れない人もいるかもしれません。助産師の仕事は妊娠・出産・母乳哺育のケアが主ですが、病院で仕事をしている人のほかにも、助産院で働いている人、大学などの教育機関で働いている人、開業助産師として地域で妊婦や産後の女性たちのケアをしている人たちがいます。
原さんは、「ひよこ助産院」という名前で開業届けを出しました。「ひよこ」は娘さんの名前をもらったもの。助産院ではありますが出産施設ではなく、住んでいる区内の保健所の保健指導にかかわり新生児や乳児の家庭訪問を行なうほか、独自でベビーマッサージや育児相談などのクラスを開くなど、フリーで活躍しています。
開業助産師は定年のない、いわば一生続けられる職業。その長い仕事人生の中で、原さんは今、自分の子育てを大切にしながら仕事の仕方を考えていると言います。
「助産師の仕事は、産んだ経験があるほうがよく分かるし、楽しい。だから、子どもを産んでも何らかの形で仕事を続けたいと思っていました。開業はお産を受けなければ、子どもとの時間をつくることもできるので、今は出来る限り時間調整しながら仕事をしています」
育児を支援する職業だからこそ、自分の子育てをしっかりとやることが、今後の仕事に生かされていくと考えています。子どもが病気になったとき、仕事をキャンセルしたこともありましたが、その経験から子どもの健康管理には十分気をつけるようになったとか。
「具合が悪そうだなあと感じたら、週末などは無理せずに、外出を避けて早めに寝かせて、それ以上悪くならないように静養させますし、ホメオパシーを使うこともあります」
原さんの病気の予防対策は、からだを冷やさないこと、しっかり食べさせること、早く寝かすこと、だとか。ホメオパシーというのは、ヨーロッパで人気の代替療法で、自然の鉱物などから抽出した成分を小さな粒状にして内服するもの。原さんはホメオパシー療法を習いに行き、自宅用として活用しているのだとか。助産師マザーならではの健康法です。
助産師が選んだ自宅出産
会社員のパートナーは残業の多い日々ですが、原さんの仕事のよき理解者です。
「休日や早く帰宅した日には、子どもの世話をよくしてくれます。お風呂に入れてくれたり、私が家で仕事をするときはドライブに連れだしてくれたり。朝は早いのですが、子どもが生まれてからは、毎朝ご飯をたき、朝食のあとかたづけをして出社するようになりました」
家事、育児にとても協力的なパートナーですが、これは自宅でわが子の誕生に立ち会ったおかげかもしれないと原さんは分析します。
赤ちゃんが生まれたのは、自宅の畳みの上。信頼している先輩助産師が、とりあげてくれました。自宅出産を選んだのは、以前勤めていた病院で見ていた出産はとても医療的で、安全かもしれないけれど、暖かみのあるお産とは言えない状況だったからだとか。
「陣痛で入院された産婦さんのおなかにモニターをつけるのですが、助産師たちはナースステーションでそのモニターのデータを見て管理していました。人出不足ということもありますが、助産師本来の仕事は産婦さんのそばで直接、様子を見ながらケアすることだと思うので、理想と現実のギャップを感じることがたくさんありました。自分のお産は信頼できる人たちに囲まれて自宅で産みたいと思ったのです」
畳みの上の布団で、自由な姿勢で出産。もちろんパートナーも活躍しました。
「助産師としてお産にはずっと関わってきましたが、自分で出産してみて、お産ってこういうことだったのかと、はじめて実感しました。陣痛がはじまってからお風呂に入ったり、好きな姿勢をいくつか試してみたり。病院の医師やスタッフに産ませてもらったのではなく、主人といっしょに自分の力で産んだという実感があります。その充足感が『これなら育児もできる!』という自信につながりました。主人も同じような気持ちだと思います。とくどき『オレって母性があるかも?』と言うこともあるんですよ(笑)」
子どもを産んだときの悦びや、自分の力で産めたという自信が、不安のない子育てにつながっていく、そのことを助産師としてたくさんの人に伝えていけたらと原さんは言います。
ベビーマッサージで育児のサポート
新生児や乳児を抱えた家庭の訪問で、原さんはたくさんの母親たちに会ってきました。その中で気がつくのは、適切な情報を得られなかっために、育児の中でちょっとした工夫ができにくくなっている状況です。
「出産した病院で母乳の指導がうまくされていないと、退院してから母乳を続けることが難しい場合があります。母乳が出ているのに、粉ミルクをあげるとよく寝るからと、ミルクをどんどんあげていたお母さんがいました。地域には、母乳哺育をサポートしてくれる助産師がいます。母乳や育児でわからないことがあったら、ぜひ相談してみて欲しいですね。
赤ちゃんを抱えて家に閉じこもって、ウツウツとしていらっしゃる方もいます。そんな人には、ベビーマッサージの会があるので参加しませんかとお誘いしています。ベビーマッサージは、赤ちゃんの健康のためだけでなく、母親同士の情報交換や気分転換にもなりますよ」
原さんはベビーマッサージのインストラクターでもあります。もちろん出産後は、毎日、わが子といっしょに楽しんでいたという実践家。
ベビーマッサージは、赤ちゃんの皮膚を刺激して血行を促進し、ハイハイ前の赤ちゃんにとって運動にもなります。原さんのクラスに参加していた人は、「クラスのあといつもぐっすり寝てくれるので、助かっています」と話してくれました。それだけでなく、母親と赤ちゃんのタッチコミュニケーションのツールとしても、とっても大きな役割を果たします。
「ベビーマッサージクラスでは、いろいろな赤ちゃんと出会います。はだかのおつき合いなので、アトピーのお子さんや、中にはちゃんと洗ってもらえてないのかなあ?という赤ちゃんもいます。日々大きくなる赤ちゃんの発達を見る場でもあるので、必要に応じてアドバイスしたり、相談にのったりしています」
クラスでは、原さんお手製のおやつもふるまわれます。うかがった日は本格的なカボチャのプディング。これを目当てに来るちゃっかりママさんも多いのだとか。
育児の体験を仕事に生かしていきたい
「助産師として、自分の娘から教えてもらうことは多いですね。2才の娘も、主人も私もテレビっこだったのですが、絵本の読み聞かせの講演を聞いて、テレビが子どもの相手では駄目だと思って、テレビをつける習慣を家族でやめました。そうしたら娘が台所の手伝いをするようになったんです。包丁はまだ持てませんが、キャベツやエノキを手でちぎったり。それでとてもうれしそうにしている。最初のうちは慣れないので大変でしたが、今はじょうずになって私も助かっています」
昼間は仕事でいっしょに遊ぶことができないけれど、夕飯づくりの時間を有効に使うことで、親子の会話が増えたと言います。
「どうしても仕事の調整がつかないときなど、近所の方に娘をみていただくこともあります。娘を通して地域のコミュニティに触れ、それまで出会わなかったような新しい世界が広がってきました。これからは自分の育児体験を生かして、助産師として地域のお母さんたちのお役にたてればと思いますし、仕事もキャリアアップしていきたいと思っています」
(掲載:2005年2月)