環境危機で変る子どもの生活
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環境危機で変わる子どもの生活2

光化学スモッグから子どもを守ろう!
―グローバル化する大気汚染―

取材協力/秋元 肇(海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター)

2007年10月掲載(専門家のプロフィールは掲載当時)



PART 2 もっと、おいしい大気にこだわろう

 いったん収束に向かった光化学スモッグが、なぜ今になって再び頻発するようになったのでしょうか。「光化学スモッグの原因物質であるオゾンとオキシダント(NOxやCOなどオゾン以外の酸化性物質)の濃度は、近年、昔並みに上がっていると言えます」と、秋元さん。日本では排ガス規制などでNOx(窒素化合物)や非メタン炭素の濃度は下がっているのに、光化学オキシダントの濃度は90年代に入って逆に上昇しているのです。

 オキシダントの原因物質であるNOxは、車の排ガスや発電所、工場の排煙など、主に化石燃料を燃やすことによって発生します。VOCはガソリンや塗料の有機溶剤などに多く含まれ、必ずしも化石燃料だけに由来するわけではありません。VOCにはシックハウスの原因となるホルムアルデヒドなどさまざまな物質がありますが、光化学スモッグで問題になるのは、ホルムアルデヒドとともにそれ自体は人体に対する影響は少ないが反応性の高いエチレンやプロピレンなどで、NOxと一緒に働いてオゾンやその他のオキシダントを形成します。

 地球温暖化と光化学スモッグの関連についての議論も増えているようですが、秋元さんによるとそれについての具体的な研究成果はまだ出ていないとのこと。気温そのものが上がることがすなわち光化学スモッグの発生につながるとは言えないからです。ただし、と秋元さん。「オゾンは二酸化炭素やメタンよりも強力な温室効果ガスの一種で、オゾンを抑えれば温室効果ガスを減らすことにつながる、ということについては言えるのですが」。

 近年、鹿児島や長崎、福岡など中国に近い九州地方で光化学オキシダントの濃度が上がっていることから、中国の大気汚染物質の越境問題がにわかに注目を集めています。今まさに中国は飛ぶ鳥を落とす勢いで経済成長を続け、その結果、今では温室効果ガスの最大の排出国となっています。

「今、日本で光化学スモッグの被害が増えている原因の一つに、中国の大気汚染の影響があるのは確かです。しかし、実はヨーロッパやアメリカからのオゾン汚染も同じように影響しているのです」
 秋元さんによるとオゾンの発生メカニズムはとても複雑で、成層圏オゾンが対流圏に降りてくる自然起源のもののほかに、偏西風に乗ってやって来るヨーロッパやアメリカからの大陸間輸送、中国や韓国など東アジアからの汚染、そして日本自身で発生するものに大別されます。

 「大気には国境はないことから、大気汚染の問題も地球温暖化と同じように、グローバルな視野で考えていかなければなりません」と、秋元さん。たくさんの国が陸続きでつながっているヨーロッパでは、長距離間輸送などによる大気汚染物質の移流を大陸全体で解決しようと、長距離越境大気汚染条約を結んで対策を行っており、オゾンの対策もアジア各国に比べてずいぶん進んでいるといいます。NOxはヨーロッパでは減少傾向、北米では横ばいなのに比べ、アジアでは右肩上がりで増え続けています。先進国だけで規制するには限界があり、今後は特に大気汚染が進んでいるアジアで、国を超えた枠組みづくりが必要になってきます。

 光化学スモッグの健康被害に対する予防法は、残念ながら今のところこれといったものがありません。光化学スモッグの発生の有無はその日の気象条件や地理的条件によって大きく左右され、個人での何らかの対策ができる、というものではないからです。
 ただし、光化学スモッグが起こりやすい地域的特性、というものはあります。海陸風といって夜間には陸から海に、朝は海から陸に向かって風が吹く沿岸地域(東京など)や、NOxやVOCが発生しやすい大都市などがそれにあたります。地方は大都市に比べれば発生確率は少ないと言えるでしょう。

 環境省では昨年より光化学スモッグ対策のためにVOCの排出規制を開始し、工場等のVOC発生源に削減目標を課しました。家庭ではペンキや油性ペン、塗料を使う際はVOC含有量が少ないものを推奨する、VOCを含むスプレー製品を使わない、環境に配慮した企業の製品を積極的に利用する、不必要な個別包装の製品を買わないことを呼びかけています。
 その他自分たちでできることと言えば、天気予報で毎日の天候をチェックするように、光化学スモッグの発生条件やメカニズムを知って、危ない日は外出や外遊びを控えるといった対策をとること。光化学スモッグは目にも見えず匂いもないように思われがちですが、秋元さんによると「光化学スモッグが発生すると空は薄もやがかかったように白く濁り、また、敏感な人なら匂いを感じたり、外に出ただけで頭が痛くなることもあります」とのこと。

 身体感覚を研ぎ澄ませ、また大気の科学を知ることで、大気の環境を敏感に察知することができるはず。子どもたちを健康を守るためには、おいしい水にこだわるように、おいしい大気にもこだわりを持ちたいものです。
 (取材協力/秋元肇)

環境省大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」

全国の大気汚染の状況について情報提供をしている。 1時間ごとの大気汚染の測定結果と、光化学スモッグ注意報・警報の最新1週間のデータを地図でみることができる。 二酸化硫黄や二酸化炭素、光化学オキシダントなど、物質ごとの表示項目を選択することもできる。

独立行政法人海洋開発機構

組織概要やニュースのほか、海と海洋科学に関する解説や事典が掲載されている。論文やデータを検索することも可能。



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環境危機で変わる子どもの生活
インデックス

1.地球温暖化はどこまで進む?
  生活はどう変わる?

2.光化学スモッグから子どもを守ろう!

3.温暖化時代の地球にやさしい食育

4.感染症から子どもを守るために

5.温暖化時代を生きる子どもたちのために



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