世界の分娩室
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世界の分娩室デリバリールーム

The Hospital of St.John and St.Elizabeth<ロンドン>

アメリカやヨーロッパでは、病院でのアメニティ(居住性)がとても大切にされていています。「世界の分娩室から」では、最新の設備と居住性を備え、注目を集めている分娩室を取材し紹介します。



セント・ジョン&セント・エリザベス病院(プライベート)
ロンドンの北にあるリージェンツ・パーク周辺は高級住宅地。その一角にプライベート(私立)病院のセント・ジョン&セント・エリザベス病院がある。ここはアクティブ・バースを早くからとり入れ、実践していることで世界的に知られているイェフディー・ゴードン産婦人科医が勤める病院だ。

医療費が無料のイギリスでわざわざお金を払ってプライベートにかかろうという人たちはやはり金持ちが多い。この病院も皇室関係、各界の有名人などが利用するといわれている。この病院での出産費用はおよそ70万円。日本人駐在員家族の利用も多く、病院には専属の日本人通訳が働いている。日本人のための出産準備クラスや育児クラスなども無料で開かれ、さらに流産を経験した母親へのカウンセリングも行っているなど充実したサービスが受けられる。

病院は木立に囲まれひっそりと落ちついた雰囲気。産科ユニットもこじんまりとした作りだ。分娩室は3つ。もちろんどれもLDRだ。部屋にはピンク色の花柄の壁紙が張られ、カーテンも同系色でまとめられている。
分娩台は木製のベッド。椅子や家具も木でできたものが使われていてカントリー調。病院の分娩室というより、ふつうの家庭のベッド・ルームのような暖かかさだ。家庭的な印象を与えるのは、分娩室につきものの医療器具が見られないせいかもしれない。

助産院
医療器具などは産婦の緊張材料になるので、家具や棚にきれいに収められているのだ。
さらに、部屋の奥には、丸い大きめのお風呂が設置されている。バス・ルームへの間仕切りはなく、部屋にドーンとお風呂があるという感じ。
とても解放的なのだ。きれいなタイルに囲まれたお風呂は、産婦でなくても思わず入ってリラックスしたい気分に誘われてしまう。


セント・ジョン&セント・エリザベス病院の分娩数は年間約400件ほどと、公立病院に比べると数はとても少ないが、その74%の産婦がお風呂を利用しているという。さらに水中で生まれる赤ちゃんは全体の26%ほどいる。
助産婦のアンがアロマテラピー用のエッセンシャル・オイルを見せてくれた。「お風呂にこのオイルを入れると、産婦さんがとてもリラックスできるんですよ」と言う。アロマテラピーというのは、香りのヒーリングのこと。匂いによって、心とからだをリラックスさせる効果がある。オイルは20種類以上あって「産婦さんが好きな香りを選んで、お風呂に入れます」とアン。

ここでは入院すると、産婦はお風呂に入ったり、歩いたり、立ったり座ったり、床にマットを敷いてよつんばいになったり、自由な姿勢で過ごすることができる。赤ちゃんを産む場所や姿勢も、自分で選ぶことができる。部屋の中では産婦がリラックスできるように音楽を流したり、照明を落として薄暗くしたりする。必要な場合以外は、医療的な介入はしないあくまで自然なお産だ。

アクティブ・バースでは、産婦が産むという出産本能に身をゆだね、自然の力で出産をすすめるという考え方が強いので、呼吸法や姿勢その他にマニュアルはない。産婦は自由に声を出したり、歌ったり、うめいたり、からだを動かしたりする。仰向けの姿勢での出産ではないから、助産婦や医師による会陰保護もとくになされていない。その結果、会陰が切れていまうこともあるが、その場合には縫合すれば問題はないと考えられているようだ。
しかし、この病院で出産する女性たちが全員、アクティブ・バースを望んで訪れてくるわけではない。とくに日本人の中にはアクティブ・バースについて詳しく知らないまま出産する人もいて、こうした野性的な出産法に驚いてしまう人もいるらしい。その朝出産したばかりという日本人女性は「私はこの病院が水中出産をやっていると聞いて、水中出産がしたいと思っていました。実際、お風呂に入るとリラックスできたし、陣痛も楽になりましたね。私の場合は幸いお産が順調にすすんだので、望みどうり水中の中で出産することができました。夫と日本から来た母が立ち合ってくれたのですが、母は水中と聞いて始めは驚いていたようですが」と話してくれた。

ひとり目を日本の病院でふつうの出産をした女性にとって、セント・ジョン&セント・エリザベス病院での出産はたしかに驚きかもしれない。LDRの分娩室、お風呂、自由な分娩姿勢、夫が産婦をからだで支えるなど、現在の日本の病院分娩とはほど遠いものばかりだ。しかし、なにより日本人は医療の中で指示されることに慣れているという習慣が、アクティブ・バースのように自分が主体となって産む出産に「アレ?」と思ってしまうのかもしれない。

今まで私たちは医療の中で、その施設のやり方や管理の体制に従うことに慣れさせられてきたような気がする。「○○してください」「××しないでください」という指示に従っていればまちがいはないし波風もたたないし、責任がないという安心感もある。だけど「お産は病院にお任せ」という従順さの中には、「何か起こったら責任はすべて病院側にある」という責任転換の姿勢も見え隠れしている。だれのための、何のための出産なのかということを考えれば「お任せする」「産ませてもらう」という言葉は出てこないんじゃないだろうか。

分娩室の中で、自由にふるまっていいというその自由の中には、十分責任も含まれてくる。その”自由”に、今の日本人は(お産だけでなく、社会一般的に)慣れていないのだ。
産婦人科医のイェフディー・ゴードン先生は「出産するカップルには、その家庭の事情や考え方がありますから、私たちはひとりひとりにあった出産を援助する立場にいます。ですから、夫の立ち合いに関しても、どちらでもいいというふうに柔軟に対応していますし、希望者には麻酔分娩も行っています。ただ、初産の方は分娩姿勢や水中出産などに先入観がありませんから、自然なお産のよさを理解してアクティブ・バースもすんなり受け入れられるようです」と話す。

現在日本では、残念なことにアクティブ・バースや水中出産などを行い、さらに帝王切開ができるような病院あるいは産婦人科クリニックは全国にたった4件ほどしかない。むしろアクティブ・バースや水中出産は、助産院や自宅出産で行われていることが多い現状だ。医療に守られた中で母子ともに安全に、しかも望むスタイルのお産ができたらどんなにいいだろう。私たちもイギリスのように、社会がお産をバックアップする体制が欲しい!そのためには、産む側がもっと社会に向けて「私たちの望む、私たちのお産を援助して欲しい!」と声を発していく必要があるだろう。それは、これからの新しい日本人が生まれるやさしい環境を作ることでもあるんだから。

引用/『お産はっけよい』現代書館1995
写真/文 きくちさかえ 1996掲載 1997,1999更新


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安産と楽しいマタニティライフに役立つ101用語を解説。 監修/医学博士・産婦人科医師(故)進 純郎先生(監修当時)葛飾赤十字産院院長





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