第2回
野菜をひと足伸ばして買うワケは
台所に立つことはほとんどなかった独身時代から一転、息子のために日々のごはんをつくるようになった私。
素材を手に台所に立つことで知ったのは、本当のおいしさを持つ野菜とは何かということ。
それはひと束のほうれん草からでした。
今まで食べていたものは何だったの?
料理は昔から得手なほうではありませんでした。
一人暮らしだったころは、店屋物やコンビニのお弁当を食べることが多く、ひどいときには朝食代わりにケーキ、なんてことも(笑)。どちらかというとほめられたものではない食生活をしていた私が、毎日まじめにキッチンに立つようになったきっかけは妊娠でした。
出産経験のある女性ならほとんどがそうなんでしょうね。自分だけではない、身体のなかにいる赤ちゃんにも影響してくる、と思うだけで食に対する姿勢がガラリと変わりました。出産後の今でも甘いものを控えること、野菜や海草をできるだけとるようにすることには気をつけています。
そうするようになって、改めて気づかされたのが本来の野菜が持つおいしさと力!
出産してしばらくした頃、子どもに食べさせることを考えて、少し遠いところにある有機野菜を扱うお店まで足を伸ばしました。そこで買った、ひと束のほうれん草のおいしかったこと!
香りが強くて甘みがあって…今まで食べてきたほうれん草は何だったんだろう?と思うほどでした。健康な土壌で、本来の季節に生まれてきた野菜はこんなにおいしかったんだ、と気がつかされました。また、まっさらな子どもの舌はそういったことに敏感らしく、2歳の息子もそこで買う野菜は喜んで食べます。出来合いのお弁当に入っている付けあわせの野菜はまったくすすまないのに(笑)。
今ではすっかり、そこのひと束のほうれん草をおいしく食べきるワザを習得しました。たっぷりのお湯で固めにゆでたら、半分はその日の食卓へ。素材のよさがあれば、ゆでたてに薄い出汁をかけるだけでりっぱなごちそうになるんですよね。残った半分はラップへ包んで冷凍庫へ。凍ったまま刻んでおにぎりに混ぜたり、スープと牛乳といっしょにミキサーにかけてポタージュスープにしたり…あっという間にペロリ、です。
食べることで助けられている
そんな食生活をしていると、それを一時中断したときに、いかに野菜に助けられているかに気がつかされるんです。先日もレコーディングに入り、毎日遅くまでスタジオにこもる生活が続きました。朝起きて、コンビニでサンドイッチと牛乳を買ってスタジオに向かう車のなかで食べる…というなんとも貧しい食生活に。するとまず口内炎ができる、風邪を引く…そしてそれがなかなか治らない、の悪循環に。
野菜ジュースを飲んでもダメ。やっぱり“生きた”野菜のかわりにはならないんです。身体の悲鳴から、野菜不足を痛感しました。
そういうときにつくるのが、野菜不足解消、一発逆転スープ。
まず、ささみを丸ごと鍋に入れ、火にかけます。沸騰したら食べやすく切ったサツマイモ、たまねぎ、ジャガイモ、ブロッコリーなど何でもいいから野菜をたっぷり投入してコトコト煮込むだけ。スープを口に含めば、透明で上品、しかもうまみはたっぷり!というささみのあっぱれな仕事ぶりに感心します。それに野菜の甘みが加わって、口にすれば身体がほっと息つくような優しい味。何のワザもないけど、疲れたときに欲しくなるのはこういう一皿ですよね。
すっかり台所に立つことが多くなった私ですが、休日の昼ともなればサボりたくなることも。そんなときは近所のお米屋さんに並んでいるおにぎりを買って、自宅から徒歩20分くらいにある大きな公園にお散歩へ。空の下、親子で大きなおにぎりにかぶりついて…そんな小さな出来事も、食にまつわるとなぜか印象深い思い出になるのですから不思議ですね。