特別寄稿

不妊と多様な選択
〜インタビュー調査から見えてくるもの〜

野辺陽子(のべようこ)東京大学人文社会系研究科 社会学専門分野 博士課程
Part.2  41人の語りから
 2008年-2010年の3年間に各選択肢に進んだ不妊当事者を対象に合計41名にインタビュー調査を行いました。インタビュー調査を行った不妊当事者の中には不妊治療経験がある対象者と不妊治療経験がない対象者の両方が含まれており、不妊治療の中には高度生殖補助医療(体外受精など)だけではなく人工授精も含まれています。なお、インタビュー対象者の中にはもともと子どもは欲しくない、あるいはもともと子どもはもたないと決めていた方は含まれていません。

 インタビュー調査では、1.不妊治療経験の有無とその内容、2.各選択肢に至るまでの気持ちの変化と周囲の反応、3.なぜ他の選択肢を選ばなかったのか、4.社会に訴えたいこと、などについて語っていただきました。


 以下では、調査にご協力いただいた方々の声を要約して紹介することにします。なお、取材対象者のプライバシーに配慮して、各人のプロフィールについては掲載しないことにします。
(1)不妊治療の当事者の意見
(2)子どものいない人生の当事者の意見
(3)養親となった当事者の意見
(4)里親になった当事者の意見

(a)各選択肢への意見
 不妊治療を継続中の当事者と不妊治療を経て子どもを出産した不妊治療経験者にインタビュー調査を行いました。

◯不妊治療について
・不妊治療を継続することを選択したケースの中には、「とにかく子どもを持ちたい」「(実際に実行するかどうかは別として)代理母や卵子提供にも抵抗はない」と子どもを持つことへの強い願望を語るケースもありました。
・「最初から自分の子になる」「黙っていれば(不妊治療を受けて妊娠・出産したことが他人には)わからない」という養子縁組と比較した時の不妊治療の「メリット」や、手続きの難しい養子縁組よりも日進月歩で進歩している先進医療を受ける方が「自然だ」と不妊治療へのアクセスの容易さを語るケースもありました。
・「(自分ではなく)夫の方に不妊の原因があった場合は不妊治療しなかっただろう」という回答もあり、不妊の原因が夫婦どちらかにあるかという点が治療継続に影響を与えるケースもあることがわかりました。

◯子どものいない人生について
・子どものいない人生については、考えている(いた)と語ったケースと考えていない(いなかった)と語ったケースがありました。今回のインタビュー調査では後者の方が多かったです。
【考えている(いた)と語ったケース】
・「自分としてはありえると思うが、夫が子ども好きなので」という回答がありました。
【考えていない(いなかった)と語ったケース】
・「今から‘子どもを望まなかった夫婦’というカテゴリーには入れない」「長男の嫁なので家を継がなければならない。夫の親から離婚しろと言われないか不安」「子どもを産めない自分が欠陥品みたいに自信がもてなくなる」「“子どもができたらこうしたい”というビジョンがもてなくなる」「夫婦2人は寂しい。自分たちが大人になりきれない気がする」という回答がありました。

◯養子縁組について
・養子縁組については、考えている(いた)と語ったケースと考えていない(いなかった)と語ったケースの両方がありました。
【考えている(いた)と語ったケース】
・「妊娠・出産が厳しい不妊夫婦にとって、不妊治療よりも養子縁組の方が親になれる可能性があると考えた」「子どもが授かれないなら親に恵まれない子を引き取るのが自然」という回答がありました。
・また、養子縁組を考えている(いた)にも関わらず、実際にはしなかった理由として「長期の虐待を受けていない2歳以下の子どもを希望したが、児童養護施設から該当する子どもはほとんどいないと言われた」「実親を重視する養子制度・里親制度に疑問を感じた」「周りから“まだ若いから産める”と大反対された」という回答がありました。
【考えていない(いなかった)理由】
・「実家の血筋を入れたい」「夫の子どもが欲しい」「最初から自分の子になる」という養子縁組や里親では叶えられない、不妊治療によってのみ叶えられる願望が語られました。また、養子を「自分の子と同様に育てる」ことへの自信のなさや「施設で育った子は育てるのが大変」という子育ての大変さ、「両親がいる子や両親がわからない子は何かトラブルになる気がする」「(自分の)親・親族との関係が心配」と将来の不安を語るケースがありました。

◯里親について
・里親は「他人の子を育てる」という意味で養子縁組とほとんど同じ選択肢のように考えられているようでした。
・「養子縁組はイヤだが里親にはなりたい」というような語りは聞かれませんでした。
・一方で、「養子縁組ならいいが里親はやりたくない」と回答するケースはあり、「大きい子どもを途中から育てるとなると子どもが懐いてくれるかどうか心配」「夫がもし養子縁組するなら、特別養子で実子として育てるのでなければ嫌だと言った」という理由が語られました。

(b)社会に訴えたいこと
◯辛いこと
・不妊治療だけで時間が過ぎていき、自分が成長できない
・妊娠できない自分に罪悪感がある
・妊婦を見て嫉妬する自分に自己嫌悪する
・治療に関する選択肢が増えたことで悩みが増えた

◯制度への要望
・不妊に対する理解を企業に深めて欲しい。仕事と不妊治療の両立が大変なので「不妊休暇」がほしい
・不妊治療に対する補助金が欲しい
・法整備してほしい

◯社会への要望
・不妊について社会に知ってほしい
・不妊治療中の当事者が気軽に集まって話し合える場があると良い
・いろんな人(子どものいない人生・養親・里親)の話が聞きたい


(a)各選択肢への意見
 子どもを持ちたいと思っていたけれども、子どものいない人生に進んだ方々にインタビュー調査を行いました。

◯不妊治療について
・不妊治療については、経験したケースと経験していないケースがありました。
【不妊治療を経験したケース】
・不妊治療を始めた経緯については、「結婚前から子どもができにくいことはわかっていたので、結婚後に抵抗なく治療を受けた」「医者に年齢的に体外受精だと言われ、疑問もなく始めた」という回答がありました。
・不妊治療を止めた経緯については、「不妊治療をやるだけやって区切りがついた」「妊娠の確率がこれ以上は上がらなかった」「環境が変わって、治療の継続が困難になった」「治療が辛かったのでこれ以上したくないと思った」という回答がありました。
【不妊治療を経験していないケース】
・不妊治療をしなかった理由については、「限りなく可能性が低かったのでやらなかった」「夫とともに“何かに手を加えて子どもを作ること”に抵抗感がある」「薬等の副作用がイヤ」「不妊の原因を特定すると夫婦に葛藤が発生する」「不妊治療にかかるお金と時間を他のことに使いたい」という回答がありました。

◯子どものいない人生について
・子どものいない人生については、「選択なんかじゃない。望んだわけではない」と語るケースと「自分は“子どものいない人生”を選択した」と語るケースがありました。

◯養子縁組について
・養子縁組については、考えていたと語ったケースと考えていなかったと語ったケースがありました。
【考えていたと語ったケース】
・養子縁組を考えた理由として、「私が子どもがほしかった理由は妊娠・出産したいというのではなく、親になりたかったから」「不妊治療にかける労力を養子の子育てに充てたいと思った」「AIDだと片方とだけ血がつながるが、養子は夫婦どちらともつながっていないので、夫婦にとってフェアな距離だと考えた」「小さい頃、身近に養子がいたので抵抗がなかった」という理由が語られました。
・また、養子縁組を考えていたにも関わらず、実際にはしなかった理由として、「夫が反対したので諦めた」「養子縁組が親側のエゴではないと、全部否定できる気持ちになれなかった」「養親に専業主婦を求める養子縁組の世界に嫌気が差した」という回答がありました。
【考えていなかったと語ったケース】
・「夫の子どもが欲しい」「血の繋がった子どもがほしい」「実子じゃないと子どもに100%の気持ちが持てない気がした」「他人の子を育てるのは自分には責任が重過ぎる」「周囲のサポートが得られない」という回答がありました。
・また、不妊だと言うと「養子を育てればいいじゃない」と「簡単に言われる」ことについて、「“子どもがいるのが家族”という考え方があり、不妊を全然認めていない」とそのような発言に対して抵抗感を語るケースもありました。

◯里親について
・里親については、考えていたと語ったケースと考えていなかったと語ったケースがありました。
【考えていたと語ったケース】
・「施設で、親権を譲れる子(=養子に出せる子)は現在そう多くないと聞いていた。里子しかできないなら、里子でもいいと思っていた。あまり養子と里子の区別は考えていなかった」という回答がありました。
【考えていなかったと語ったケース】
・「預かった期間だけ特別に楽しい思いをさせて、また施設に戻すのはかわいそう」「結局またどこか施設に戻るし、自分の気持ちもそういうふうに(中途半端に)思っちゃうだろうから」という回答がありました。

(b)社会に訴えたいこと
◯辛いこと
・結婚したら子どもを持つのが当たり前とうい考えが強すぎる
・「子どもがいない」=「不幸」という偏見がある
・年々、新しい治療が開発され、不妊治療が止めにくくなっている
・治療の選択肢がありすぎてわからない
・不妊治療のトンネルに入ると自分がどうしたいのかわからなくなってしまう

◯制度への要望
・避妊だけでなく不妊の性教育も義務教育でしてほしい
・不妊治療が止めにくくなるため、不妊治療の保険適用はやめてほしい
・不妊治療の技術に歯止めをかけてほしい。

◯社会への要望
・不妊カップルが一定数出現することを社会に知って欲しい。
・子どもを産んでいようが産んでいまいが、育てていようが育てていまいが、一人の人間として付き合ってほしい
・40代半ばで妊娠・出産する人は不妊治療者のほんの一部だと思うので、高齢出産の報道で一喜一憂させるのはやめてほしい。

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  (3)養親となった当事者の意見
  (4)里親になった当事者の意見




養子制度について考える

「養子制度」について考えるインデックス

1.養子縁組の件数

2.養子制度と運用

3.どんな人が養子縁組をするの?

4.当事者の気持ち

特別寄稿: 不妊と多様な選択
 〜インタビュー調査から見えてくるもの〜


Part.1 不妊と選択
Part.2 41人の語りから
Part.3 浮かび上がる課題


野辺陽子(のべ・ようこ)さんプロフィール
東京大学大学院人文社会系研究科 社会学専門分野 博士課程在学中
韓国のソウル大学に留学中、親探しのためなどで母国訪問している数多くの海外養子に出会う。韓国で実親探し・ルーツ探しをする海外養子の姿を見て、養子縁組の問題に関心を持つ。帰国後は家族社会学を専攻し、日本の養子縁組の状況に関心を持ちはじめる。養子縁組を通して変容する家族・親子・社会の姿を捉えることをライフワークとしている。



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