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不妊体験・不妊治療レポート
不妊を考える「ウノトリはやってくる?」


不妊の悩みを解消するには?
 ・・・赤城恵子さん(カウンセラー)

不妊の悩みとは?
個人的喪失 社会的喪失 心傷体験

悩みの解消に向けて
感情をため込まない 心の傷を癒しておく 
グリーフ・ワーク(嘆きの仕事)
仲間と出会う 社会の常識をみなおす

悩むこと、それも成長のチャンス


 「出産できれば不妊の悩みは解消する」。医師も当事者も周囲の人も、そう固く信じています。かつての私自身もそうでした。ところが現実には、子どもができてもなお不妊に悩み続けている人が少なくありません。養子を迎えたあと、さらに悩みを抱えている人もいます。二人目不妊、三人目不妊に悩んでいる女性もいます。一方、ひとりも子どもを産めない状況でも、深い悩みから解放されていきいきと生きている人もいます。このことは「不妊の悩みは産んだあとも解消しておく必要がある」ということと、「産めなくても解消できる」ことを示唆しているようです。では、どうしたら不妊の苦しさから解放されるのでしょうか? ここではまず、「不妊の悩みの根っこにあるものは何か?」ということを考えてみたいと思います。「個人的喪失」「社会的喪失」「心傷体験」という3つの心理的側面に分けて考えていきましょう。



1.個人的喪失

 個人的喪失のひとつは、望んだ子ども(の数)を産めないという、コントロール不可の状態に置かれた無力感に悩むことです。「自分は無力だ」と悩んでしまうのです。 次に「自己像の喪失」があげられます。これは「私は女。当然子どもを産める」というそれまでの自己像がこわれて、「私は女として不完全」といった否定的な自己像に悩むことです。子宮全摘などがきっかけになり、自己像が急速に崩れていくケースもあれば、妊娠の可能性が残されている場合はじょじょに崩れていくというケースもあるでしょう。不妊の悩みを過大に見積もるつもりはありませんが、いずれも心理的には危機的な状況です。
一人目を出産しても二人目を自然妊娠できない状態もまた、不妊に変わりはありません。コントロール不可の無力感と、自己像がこわれたまま新しい肯定的な自己像を築けない苦しさがあります。「産めない私ではいけない」と思いこみ、「産めない私でいい」というどっしりとした根っこがありません。
悩んでいるときは、こころが不妊一色に塗り込められて、自分がもっているものよりも失っているものに引きつけられてしまいがちですが、不妊というのは自分の全体像の一部分にしか過ぎません。人間は一人ひとり多様な能力をもった、無限の可能性を秘めた存在なのです。
こうした自己像の喪失は、「家族像と人生シナリオの喪失」につながっていきます。「私は結婚して何人かの子どものいる家族をつくり、やがては孫をもって死を迎えるだろう」という人生のシナリオは、幼い頃から親や祖父母の姿に自分を同一化させてできあがってきたものなのでしょう。またそんな家族づくりや生き方ができてこそ幸福であるといった価値観がとても根強い社会ですから、「夫を父親にしてあげられない」「親に孫の顔を見せてあげられない」といった重責感を抱かざるをえないのかもしれません。望んでいた家族像を失い、新しい肯定的な未来像も描けない。途方に暮れてしまうこの過渡期がもっともつらいときです。



2.社会的喪失

 「個人的喪失」のほかに「社会的喪失」も体験せざるをえないのが今の日本社会です。これは子どもを期待する周囲からのプレッシャーや、不妊に対する否定的なまなざしに悩むことです。いろいろ生き方があっていいといわれながら、まだまだ不妊は「恥かしいこと」「不幸なこと」などと社会では意識されています。
 「恥」や「不幸」「かわいそう」とみなすことは、社会が個人の価値を切り下げること。そのために不妊状態にある人は、いつのまにか自分を価値のない者とみなしてしまうのです。でも、不妊をあるがままに受け入れる社会であったらどうでしょう。「個人的喪失」の哀しみはあっても、不妊の重荷はずいぶん軽減されるはずです。



3.心傷体験

 不妊を受け入れない社会では、当事者が傷つく場面が多くなるのも当然でしょう。不妊に出会ってから、いつ、どんなことに傷ついたでしょうか。多くの人の話を聴くと、その程度には軽いものから、後遺症(頭痛、不眠、抑うつ、対人恐怖など)となるような深刻なレベルまであります。こころの傷は人間関係だけではなく、「不妊治療」の体験からつくられたものも少なくありません。「子どものいる人と会うのが怖い」、「通っていた病院の方角に行こうとすると、苦しくなって出かけられない」という人もいました。
このように心傷体験は、感性や行動に影響を及ぼすものです。ある場所や人を避けようとして行動が制限されたり、無意識に高いアンテナを張って、不快な事態をいち早くキャッチしようとしたりします。しかしその高いアンテナのために、かえって過敏になって傷つくという悪循環に陥ることもあります。


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