あたたかいお産と子育て
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進先生のあたたかいお産と子育て
お産は子育ての出発点。産む人と生まれてくる人が尊重される「あたたかいお産」の環境ついて考える、進先生の連載コラムです。 掲載:2001〜2003
(故)進 純郎(Shin Sumio)先生 産婦人科医師 医学博士 (掲載当時)葛飾赤十字産院院長 人間的な出産について考える「出産のヒューマニゼーション研究会」代表。

高齢出産について

.........35歳はボーダーライン?

.........不安をのり越える

.........超高齢出産?!

 

 女性にとって、出産適齢期というものははたして存在するのでしょうか。そう考えていらっしゃる方も多いのではないかと思います。人生設計の中で出産、子育てという時期を位置づけるときに、出産の時期は当然それぞれに異なってくるでしょう。
 日本産婦人科学会では、35歳以上の初産を「高年初産」と定義しています。この35歳という基準は、それまで30歳以上とされていたものを、社会的変化に伴って女性の出産年齢が高くなったために1992年に変更されたものです。

 ご存じのように、結婚年令も年々高くなり、結婚しても出産の時期を考えた上で決める人が増え、30歳代での出産は今ではあたりまえのようになっています。葛飾日赤産院でも、30代の初産はとても多く、35歳以上の方はもちろん、40代の方々もたくさんいらっしゃいます。
 35歳というボーダーを引くことによって、34歳の人と35歳の人では大きな違いがあるように感じられてしまうかもしれませんが、個人差もあり、その1年に大きな違いがあるかといえばそんなことはありません。40歳くらいであれば、とりたてて高齢というラベリングをする必要はないように思います。

母子1
 40代中盤になってくると、ホルモンの分泌が変わってくる人が多くなります。コラーゲンによる柔らかい繊維が減って、産道が硬くなっていきます。初産の場合には、産道がなかなか広がらないということもありますが、それにも個人差はあります。
 1度産んだ経験があると、産道の筋肉の網目状の繊維が粗くなっているために、経産婦さんの場合は10〜15年あいていても問題はありません。
 私の経験では、48歳で妊娠して49歳で産んだ人がいますが、問題はありませんでした。その方はジーンズをはいて、とても若々しい雰囲気で「マタニティウェアは着ません」と言っていました。年令のことはまったく気にしていないようでした。

 昔は、早くお産を済ませてしまうと、早く生理が終わってしまうと言われていたこともあるようですが、今はからだ年令が若い方が多く、40代で妊娠する人というのはホルモンの分泌も活発なのではないかと思います。出産することによって、さらにホルモンが分泌され、更年期が先に伸びるということもあるかもしれません。
 

 高齢出産では、いくつかのリスクがデータとして上げられています。
 まず、流産の率が年齢が高くなるに従って少し高くなる傾向にあります。原因ははっきりとわかっていませんが、受精卵の染色体の異常によるものが多いと言われています。母親の年齢が高くなると、卵子も若いときの卵子に比べて、いろいろな影響を受けていると考えられます。たとえば環境ホルモンや食べ物など、長年の蓄積をもっているわけです。それが染色体に影響をもたらすこともあります。ダウン症との関係もよく言われることです。

 一般に、高血圧や糖尿病などの成人病は年齢とともに発症しやすくなる傾向にありますが、それらは妊娠中毒症の原因にもなります。また、高齢出産では帝王切開の率が高くなっています。

母子  しかし、こうした情報を頭で考えることによって湧いてくる、恐怖感によるリスクというものもあるかもしれません。
 高齢出産だからといろいろ心配したり、恐怖心があると、全身緊張してしまいます。それによって、産道も緊張し、硬くなり、お産が長引いてしまうことがあります。経験をつんでいるだけに、物事を頭でよく考え、考え過ぎてしまう場合もあります。高齢でだいじょうぶかしらという不安感が強かったり、お産のときにも人の目を気にして、自分を見失ったりしないか心配する。
 そうした不安感を出産前にとり除いておくことのほうが必要でしょう。

 お産は力をこめて赤ちゃんを押し出すものではありません。むしろ大切なのはリラックス。
それを知っていれば、力を入れずに待つことができます。もちろん、妊娠中の健康を保つことは基本です。健康管理をして、不安をとりのぞくことができれば、年齢の差を超えることはできるはずです。
 「高齢出産なんかこわくない」というくらいの意気込みがいいですね。

 

 「超高齢出産」という言葉をご存じでしょうか。
 この言葉は数年前につくられた専門用語ですが、50代以降の閉経後の女性が出産することを言います。医学の発達によって、精子や卵子が凍結できるようになっているのはご存じのとおりですが、最近では、人工ホルモンを注射し続けることで閉経後の女性でも体外受精によって妊娠することが技術的には可能になってきました。海外では、こうした技術をつかって妊娠するケースがほんの少数ではありますが、出てきたと報道されています。

 閉経後は排卵は起こらないわけですから、こうしたケースでは、過去に自分の卵を凍結していたものをつかうか、ほかの人の卵を提供してもらうことになります。
 ただしわが国では、生命倫理の観点から、人工授精は卵子は妊婦自身のもの、精子は配偶者のものと決められています。例外的に配偶者以外の精子を使用する場合には、登録された施設以外での人工授精は認められていません。また他人の卵子による人工授精も認められていません。もちろん精子、卵子ともに当事者の配偶者以外に頼ることは、「借り腹」になってしまいますので、法的に認められておりません。

 「超高齢出産」には、こうした倫理や哲学的な問題が隠れているので、現実的とは言えませんが、50代の女性が妊娠し、出産する可能性があるという話は、「もう遅いかもしれない、産めないかもしれない」という思いを抱いている40代の人にとって、高齢出産というプレッシャーをほんの少し軽くしてくれるかもしれません。

妊娠・出産、母乳ワード101妊娠・出産・産後ワード101
安産と楽しいマタニティライフに役立つ101用語を解説しました。
監修/医学博士・産婦人科医師(故)進 純郎先生(監修当時)葛飾赤十字産院院長




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