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不妊体験・不妊治療レポート
不妊を考える「ウノトリはやってくる?」


先端的不妊治療の現場から
 森本義晴先生/産婦人科医

2.顕微授精

 ●受精  ●顕微授精
 ●心のケアとインフォームドコンセント
 ●体外受精の挑戦
 ●代替え医療の可能性

 体外受精の手順


1.生殖医療

 ●生殖は神の領域?
 ●卵を成熟させるための排卵誘発剤
 ●卵は女王様
 ●精液の採取


受精

 いよいよ採取した卵子と、精子が出会う世紀の祭典がはじまるわけですが、これは培養室の中の、シャーレの中でひっそりと行なわれます。培養した卵子に、選別した精子をふりかけます。

 卵子に精子がはいって受精すると、次第に胚が二分割、四分割へと分裂していきます。このときの状態で卵のグレードがわかり、グレードの高いものほど移植したあとの妊娠率率は高くなります。私は一番グレードの高いものを「ビューティフル」、次によいものを「プリティー」と呼んでいます。



顕微授精

 顕微授精は、精子の数が少ない、運動性が弱い、奇形が多いなど、精子が自力で卵にアタックすることが難しい、あるいは受精能力が低い可能性があるときに行なわれます。卵の中へ1匹の精子を直接注入する方法です。

 卵に針を刺して穴を開け、そこから直径7ミクロンのガラスの針の中に入れた精子を送りこみます。まず、精子を選んでガラスの針の中に吸い込むわけですが、この精子の選択に関しては、神様に変わって行なっていると言えるかもしれません。

 顕微鏡でシャーレの中を覗きながら、その視界に入っている精子の中で一番頭の幅が標準的で、形態がしっかりしている精子を選びます。アグリーな顔をしているものや、頭が大きいものなどは除外します。でもこれは、偶然と勘が作用する作業です。シャーレの中を移動して、たまたまそこを通りかかった旅人みたいな精子との出会いです。

 でも、自然の受精も卵子と精子の出会いは、偶然と言えるのではないでしょうか。強い精子はいっぱいいて、一番先に穴を空けた精子が入るわけです。ですから、入った精子が一番強いかどうかはわかりませんし、たまたま早く到着して、酵素で溶かすことができたというだけかもしれません。足が早い、運動能力がいいということと、DNA の質はまた別だと思います。DNA の質というのは、形態学的にはわからないものです。
泳いでいる精子を、まず針でシッポをぽんと叩くようにして、つかまえ、ガラス管の中へ吸い込みます。おもしろいのは、精子のシッポをぽんとやって、針でそのシッポをゴシゴシとやると、カルシウムが出て、それが全体に行き渡ると、受精能力が高くなるということです。受精率は8割くらい。妊娠率は一般の体外受精より、顕微授精のほうが高くなっています。



心のケアとインフォームドコンセント

 先端科学技術を駆使した治療を中心にしていても、不妊症というのは半分は脳、すなわち心の問題だと思います。受精や妊娠というのはホルモンの分泌と密接な関わりがありますが、これらのホルモンを司る脳下垂体系は、心にも大きく影響を及ぼす部分でもあります。たとえば、女性はストレスによって生理が止まることがありますが、同じようにストレスによってなかなか妊娠できない状況になることもあります。それは社会的なストレスもあるでしょうし、どんどん進歩する治療についていけないストレス、かさむ治療費の心配もあるかもしれません。日本社会の底辺に流れている家族や家に対する古い考え方なども不妊が理解されない要因でもあります。女性たちは、そうしたことをずっとひきずって、不妊治療を続け、心身ともにぼろぼろになってしまうことが多いのです。

 不妊は、そうした傷ついた心のケアがとくに必要な領域だと思いますが、これまでは残念ながら相談窓口はほとんどありませんでした。当クリニックでは、臨床心理師によるカウンセリングを行なっていますが、そうした心のケアについては、不妊治療のこれからの課題でしょう。

 また、治療内容について、あるいは治療費などの事務的なことについても、しっかりした説明を受けられないということもストレスになります。これまでは患者さん自身も、そうしたことを積極的に説明を求めずにきたところがあるのではないでしょうか。自分がいくつ卵を取って、それがどうなったのかわからない。これでは、患者さんも不安です。そういう意味で、不妊ではとくにインフォームドコンセントが必要になります。医者は話しをよく聞いて、わかるまで治療について説明をする必要がありますし、患者さんのほうも説明を求めていく積極的な姿勢をもって欲しいと思います。



体外受精の挑戦

 過去10年間で、不妊治療は画期的な飛躍を遂げてきました。それまででは不可能だったケースの治療が可能になってきています。けれど、そうした中で、生命について新たに考えなければならないことも出てきました。

 男性不妊の中には、無精子症といって、精子が精液の中にまったく存在しない場合があります。こうしたケースでも、睾丸の中に精子をもっている可能性があり、睾丸を切って、その中から精子を取り出し、顕微授精をすることができます。無精子症でも今は治療できるようになってきました。

 このように、かつては妊娠が不可能だったケースでも、現在は治療可能になっていますが、一方で問題がないわけではありません。たとえば、そうした無精子症など、もともと生殖ができない因子をもっている人の場合、生殖に関するなんらかの遺伝学的欠陥をもっている可能性があると考えられます。ですから、子どもをつくることによって、その遺伝子をそのまま次の世代につなげてしまう可能性もあるわけです。これまでだったら、子どもができないということで、その遺伝子は継承されることはありませんでしたが、そうした問題を伝えてしまう責任も生じてきているのです。

 一方、卵巣はあるけれども、子宮を摘出してしまったという女性もいます。あるいはターナー症候群といって、子宮はあっても遺伝子的な欠損でほとんど卵巣がないというケースもあります。そうした方が、どうしても子どもが欲しいという場合には、卵をもらいに、あるいは借り腹を求めて海外に行くという選択は残されています。

 カップルが子どもをもつ権利は尊重される必要がありますが、一方で生まれてくる子どもの権利はどうなるのか。こうした議論は学会でも、いつも盛んに行なわれています。われわれのクリニックは、そうしたことの最前線にいるわけです。目の前には患者さんがいて、ジレンマを感じることもあります。苦しいところですね。将来、そうした子どもたちが自分の誕生の経緯についてどう思うかということは、だれにもわからないわけです。



代替え医療の可能性

 不妊は、暗いトンネルの中に入って出られない状況のように思っている人も多くいます。明日妊娠するかもしれないけれども、可能性は不確かなままという不安感の中にいる。けれど、チャンスが来たときに、妊娠を継続できるからだをつくっておく必要があります。

 体外受精は昔に比べればポピュラーになり、さらにその先の可能性が考えられている時代。われわれのクリニックでの現在の妊娠成功率は40%ですが、それをもっと向上させるためには、先端技術だけではなく、心のケアやほかの代替えのアプローチが必要になってくると思います。

 そうした意味で、当クリニックでは「精神神経免疫学」を応用し、東洋医学的アプローチを取り入れています。ぼく自身が気功を教えている受胎気功クラスもありますし、漢方、鍼、アロマのマッサージなども取り入れています。運動療法として不妊症のストレッチや、じっくり話ができるカウンセリングも設けています。
去年からは、不妊栄養カウンセリングも行なうようになりました。不妊と食べ物の関係については、これまであまり考えられてきませんでしたが、実際に調べてみると、抗酸化物質の摂取が少なかったり、かたよった食事をしている人が多いことがわかりました。食事療法によって、体質を改善することはとても大切です。
このほか、クリニックのインターネットで情報提供もしています。サイトの中の掲示板ではいろいろな人の書き込みを読むことができますし、その場で意見を述べることもできます。そうした意味では、昔よりははるかに情報収集ができるようになっています。

 生活様式を見直してみるということも、ひとつの方法でしょう。どんなやり方でもかまわないと思います。自分にあったものを見つけて、ストレスを軽減し、リラックスできる状況をつくることによって、心とからだを整え妊娠を準備していく。それによって、先端的な不妊治療もより効果的に生きてくるのだと思います。


1.コウノトリはやってくる?

2.先端的不妊治療の中で

3.もう一つの不妊治療

4.不妊症のメンタルケア

5.コウノトリと母性



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 過去ログ:2003年〜2011年 11月まで


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