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お産の民族学

お産の民族学(日本)

文/きくちさかえ 掲載:1996年 更新:1998年 1999年 2006年

 現在は、助産婦という名で知られているが、昔はお産を介助する女性のことを産婆と言った。
 日本で産婆についての記録が出てくるのは室町時代。『御産所日記』には、御腰懐とあり。さらに、江戸時代初期には穏婆(トリアゲババ)と言われていたそうな。この穏婆という言葉は、中国から伝えられた言葉のようだ。

 日本では、秋田、青森で「コナサセバサマ」(子どもを産ませてくれる者という意)、島根、山口では「アライババ」(子どもを産湯をつかわせる者)、四国、九州では「ヘソババ」(へその緒を切る者)などという方言が伝わっている。
 トカラ列島の小宝島では、村の神事を行うネイシという巫女がヘソババの役目をかねていたという。このネイシは、ときに医者の役もかねていたと言われ、巫女、産婆、医師が共通の者であったことを示している。

 昔、産婆というのは、赤ちゃんを取り上げる仕事と、祈りをする仕事のふたつがあった。お産は、あの世からこの世へ、魂が移行してくるとき。昔は、お産で命を落とす赤ちゃんや母親が今よりずっと多かったため、これを“もののけ(邪気のようなもの)”が命を奪いにくるためと、考えていた。そのために、“もののけ”に囚われないように、お祈りをしたのだ。
 現在でも、アフリカなどでは、病気のときには、西洋医学の医師ではなく、呪術や祈祷を行う人にかかるという風習が残っているところもある。
 日本ばかりでなく、昔はどこの国でも、癒しを専門に行う女性が介助していた。そこでは、神に祈りながらのお産が行われていたのだが、西洋科学と医学の台頭によって、そうした女性のヒーラーたちは押しやられてしまった。これが、中世ヨーロッパの魔女狩りだ。魔女狩りによって殺された女性の中に、助産を行っていた女性が多くいたと言われている。

 山形県小国町では、出産が現在のように病院で行われるようになる前、自宅出産では助産を実際に手伝う産婆と、産婦の枕元に座り、呪文をとなえていたトリアゲバアサンがいたという。奄美群島の沖永部島では、産婆をフスアジ(へそ婆)、クッナサシアジ(子どもを産ませてくれる婆)というが、これは、へその緒を切るという大切な役目をする人という意味だ。へその緒を切ることを「クレをくれる」ともいい、このクレは位のことで、運命、人の位、など、宿命を授けるという意味だったという。人の一生の運は、へその緒を切る産婆によって、与えられるものと信じられていた。産婆は、人の運命を左右するほどの霊能者とされていたのである。

 他の地方にも、産婆を呪術者、産育儀礼を司る産の神の司祭者であったことを表わすものが多い。しかし、こうした産婆の力や能力は、現在の病院出産では、一番希薄になってしまった部分であり、助産婦自身も、産婆のかつてのそうした力を知らないことのほうが多い。

参考文献/『日本人の子産み・子育て--いま・むかし』鎌田久子ほか著/勁草書房
文/きくちさかえ 掲載:1996年 更新:1999年



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