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お産の民族学(日本)

世界のお産

文/きくちさかえ 掲載:1996年 更新:1998年 1999年

 何にでも歴史があるように、お産にも当然歴史がある。
しかも、お産の場合、二面的な歴史を抱えている。女性たちの歴史と、途中から男性に塗変えられた歴史だ。
 今日、あたりまえと思われている医療の中での出産は、実は男性によってつくられたほんの一面的な短い歴史でしかないのだ。その遥か昔から、お産は女たちによって、自然に営まれてきたのである。

 とくにヨーロッパでは、お産は宗教に大きく影響づけられてきた。
 まず、アダムとイブからその話は始まるのだから、実に根は深い。
 ユダヤ・キリスト教の神話では、およそこのようなことが語られてきた。
 「昔むかし、あるところにアダムという男とイブという女がいました。そこへ悪い蛇がやってきて、イブをだまして樹の実を食べるように勧めると、イブはすぐにそれを食べてしまいました。なんという欲の張りようなのでしょう。それとも、そうとう賢さに欠けていたのでしょうか。さらにひどいことに、イブはアダムをも誘惑してしまったのです。女とは、なんと淫猥な動物なのでありましょう。その報いとして、女は永遠に出産のとき、産みの苦しみを原罪として味わうようになったのです」
 これを踏まえて、さらにイエス・キリストの誕生につながっていく。
 ご存じのように、イエスは処女マリアから生まれたことになっている。中世の神学者たちは、女性を根本的に不浄なものとみなしていたので、イエスの母マリアは現実的な女性では困る、だから神の母ということで処女にしておいて、セックスをせずに懐妊し、原罪もないということにしておこう、と決めたのである。
 さらにマリアは、助産婦役の女性たちの助けを得ることなく、ひとり孤独に出産したのだ。それは、イエスの誕生をほかと区別するためと、出産のたびに家に出入りする助産婦役の女性に、男性たちが脅威を感じていたからだと言われている。男たちは、お産のたびに、女性たちが集まってワイワイやっているのを、おもしろく思っていなかったらしい。
 この“原罪”というやっかいな呪いに、西洋の女性たちは後々までも苦しめられることになるのだ。
 こうした“女いじめ”の流れは、中世ヨーロッパに始まる魔女狩りへと発展していく。

 男性はまずキリスト教を組織固め、同時期に発展していった学問、科学、医学をもその手中に収めようとした。キリスト教では、神は唯一でそれに反する者は異端とされていた。恵み深い全能の神がいるのに、世の中に飢饉や災害などが起こるのは、それは悪魔のせいなのだということになり、何か不吉なことが起きるたびに、スケーブゴードが用意された。
 そして、悲しいことに原罪をもった女性は、このスケープゴードの対象にされやすかったのだ。
 とくに未亡人や独身者は、魔女狩りの対象にされやすかった。権力を持った女性も対象者になった。そうした活動的で力のある女性を見せしめにしておけば、女性全体をコントロールしやすくなるからだ。
 どれくらいの数の女性たちが殺されたか、その数字はわかっていないが、とにかく大量な数の女性たちが魔女狩りの犠牲にされたのである。

 かつて、医学という学問がまだ世の中で確率していなかった頃。病気を治したりする癒しの仕事は、その多くを女性が担っていたとわれている。女性たちはハーブなどを煎じて処方したり、また祈りや占星術、まじないなどでも治療を施していた。こうしたことは、男女にかかわりなく、今も先住民などに見られることだけれど、かつてのヨーロッパでも家族の健康を管理していた女性にとって、癒しは日常の仕事の一部だったのだろう。
 その中でもとくに出産の介助は、女性の役割だった。お産を互いに助け合い、そうした中から“産婆”が生まれてきた。また、女性ヒーラー(癒しを施す人)の仕事の一部として、出産の介助が含まれていることもあった。

 社会というのは、何か間違ったことが起こったときに、犠牲者を必要とする傾向にあるものだ。赤ちゃんが死んだりすれば社会は『誰のせいだ?』と捜す。誰か、責める対象が必要なわけだから、産婆はとりわけ恐れられて、魔女狩りにすべく告訴されたという。「助産婦は魔女だった」と言われる由縁はそこにある。

文/きくちさかえ 掲載:1996年 更新:1999年


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