アメリカ不妊事情レポート-6
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ニューヨーク、ボストン、ロスアンジェルスで不妊治療を取材。 2002.12月

代理出産(1)

「代理出産に関する法的な問題」

代理出産に関する法的な問題

代理母、卵ドナーのカウンセリング

代理出産によって赤ちゃんを授かった

代理母を経験した家族

医師の立場から



2003年春、厚労省の生殖補助医療部会は、卵ドナーによる不妊治療を正式に認める報告書をまとめた。一方、法務省は、第三者から卵子の提供を受けて子どもが生まれたさいには、出産した女性を子どもの実母、それを同意した夫を父親とすることを法律に明記する方針を固めている。代理出産については、生まれてくる子への福祉に反する、家族関係を複雑にするなどの理由から、日本産科婦人科学会は、代理出産を会員の医師が行ったり、あっせんすることなどを禁止するとしている。

日本では過去2例ほど、血縁関係間での代理出産が行なわれたとの報告があるが、事実上現在は不可能な状況。アメリカでは、カリフォルニアなど代理出産が法的に守られているいくつかの州があり、日本から渡米するカップルもいる。代理出産についてカリフォルニアで取材した。

日本とアメリカの不妊治療は、技術的なレベルにおいてはそれほど大差はないと言っていい。一番大きな違いは、アメリカでは配偶者間の人工授精で治療ができない場合、卵ドナー、代理出産、養子縁組みなどの選択肢が広がっているということだろう。

アメリカの不妊医療のフィールドの中に、必ず登場するのが弁護士という存在だ。日本では「不妊治療と弁護士」と言ってもあまりピンとこないが、卵ドナーや代理出産、養子縁組という選択肢の中では、医療的なこと以上に親子関係における法的整備と契約が欠かせない問題。そこで弁護士が登場するというわけである。
アメリカは州によって法律が違い、卵ドナーや代理出産についてすべての州で法律が整えられているわけではないのだけれど、カリフォルニアなどいくつかの州では、専門のエージェントや法律事務所があり、こうしたケースを斡旋、サポートしている。

弁護士トーマス・ピンカートン氏
南カリフォルニアで卵ドナーと代理出産を専門に扱っている数少ない弁護士のひとり、トーマス・ピンカートン氏をサンディエゴのオフィスに訪ねた。
ピンカートン氏は、1990年に代理出産によって自らの子どもを授かったという経験をもち、それをきっかけに卵ドナーや代理出産を専門に担当する仕事をはじめた。現在は、エージェンシーを経営している妻と、仕事上でもパートナシップをとっている。

「弁護士の役割は、代理母とクライアント(依頼人)の契約書を作成し、その内容が双方に理解され、同意されたことを確認することです。また、代理母の妊娠が成立したあと州の裁判所に出向いて、代理母から生まれる子どもがクライアントの子どもであることを裁判所に認めさせる手続きをします。カリフォルニアでは、こうした手続きをすることによって、生まれた子どもの出生証明書にクライアントの母の名前が直接記されることになります。州によっては代理出産が違法であったり、また、カリフォルニア州以外のほとんどの州では、代理母が産んだ赤ちゃんは一旦その母親の子どもとして容認され、その後、養子縁組みの手続きをすることになるのですが、カリフォルニアでは誕生後すぐに、クライアントの子どもであることが認められます」

1986年、代理母をつとめた女性が出産後、赤ちゃんは自分の子どもだと主張して、クライアントに赤ちゃんを渡さなかったという有名な「ベビーM事件」が起きている。このケースはトラディショナル・サロゲートであったため、代理母の卵子を使っており、精子だけがクライアントの父親のものだった。裁判がくり返され、結局、クライアントの元で赤ちゃんは育つことになったのだけれど、代理母は法律上の母親であることが認められ、その後の面会も許されたという経緯がある。この裁判は全米各地での法律に影響を与え、代理出産契約を無効としたり、商業ベースでの代理出産利用を罰する法律をつくった州もある一方で、カリフォルニアなどの一部の州では、代理出産を認める法律が整備されていった。
この事件では、代理母になった女性が事前のカウンセリングで、代理母には不適切という診断がくだされていたにもかかわらず、エージェントがそれを無視してその女性に代理母を頼んだことから問題が起こったという意見もある。

「この事件以降、代理母になる女性にはカウンセリングを十分に行ない、スクリーニングすることで問題は回避されるようになった」とピンカートン氏は言う。「現在、カリフォルニアでは、同州で出産した代理母には母親としての権利を認めないという法律ができ、クライアントの権利は守られています」

しかし、こうした法的措置は州によって異なっている。その違いは、それぞれの州の裁判所にもちこまれた過去の判例が、その州の法的な決まりになっていくからだとか。カリフォルニアの場合は、これまで同じような裁判が多くあり、クライアントに有利な法的整備がなされてきた。

「代理出産で起こった問題は少ないのですが、私が扱ったケースではありませんが、クライアントが出産した子どもを引き取らないというケースが2例ありました。クライアントが子どもが生まれる前に離婚したケースですが、2組とも卵子も卵ドナーによるものでした。クライアントたちは、子どもを引き取らないばかりか、養育費の支払いも拒否。しかし、裁判所はクライアントが法的な親であると主張しました。
 また、多胎妊娠になった場合についても、どうするかということを、契約書にきちんと記載します。三つ子のケースでは、母体と胎児の命が危険にさらされるような場合は減数手術を行なうと、契約書では記載することが多いのですが、実際に妊娠してから拒否したケースが、ごくわずかですがありました。妊娠初期のCVSや羊水検査などで、胎児に異常があることがわかった場合についても契約書に記載されます。その場合、それぞれの契約形態によって妊娠を継続するかどうかは異なってきます。出産後にハンディーキャップや病気がわかった場合には、クライアントは親権を拒否することはできません。こうした細かい契約事項に双方が合意した上で契約が行なわれています」

これまでピンカートン氏の事務所を訪れ、依頼した日本人は5組ほど。全クライアントの10%が、日本を含めたアジアやヨーロッパからやってくる海外組だという。

取材:きくちさかえ(2003年10月)

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