アメリカでの不妊取材の中でも、期待していたことにひとつに、カウンセリング・グループワークを行なっているボストンIVFセンターのアリス・ドマール教授へのインタビューがあった。
ドマール教授は、2002年に「Conquering Infertility」という本を出版したばかり。その本に出会ったとき、日本の不妊治療の中で一番欠けているカウンセリングと、からだのワークについて書かれていたので、ぜひお会いして、インタビューをしたいと感じた。これは、ドマール教授が開発した「Mind/Body」というワークの具体的なメソッドや考え方を解説した本で、日本でも現在、翻訳がすすめられている。
ボストンIVFセンターは、ハーバード大学の関連施設で、市内周辺に3ケ所のブランチをもっている。その中のひとつ、The Waltham のセンターにおじゃました。ボストンIVFセンターでは、年間およそ3000例のIVF 治療を行なっていて、その数は全米最大。
アメリカでもっとも先端的な生殖医療施設の中で、ドマール教授による心理療法が行なわれているのだ。
Mind bodyとは
心理学とカウンセリングの国アメリカでは、不妊はからだだけでなく、心の問題も大きなファクターになっていると考えられている。そのため、不妊治療を行なっている施設には心理療法士や精神科医がいて、カウンセリングが広く行なわれている。とはいえ、エッグドナーの提供者のスクリーニングや、提供を受ける患者への説明などが主な仕事となり、心のカウンセリングまではなかなか手が回らないというカウンセラーも多い。さらに、ヨーガやリラックス法など、からだのワークをとり入れているところはまだまだ少数派。
ドマール教授の「Mind/Body」療法は、彼女が考え出した不妊カウンセリングのメソッド(ひとつの方法)と言える。現在は、「Mind/Body」 療法を学び、各地で教えている心理療法士も増えてきている。
ドマール教授は心理学の博士で、これまでにも癌の患者や心臓病の患者などに、リラックス療法を行なってきた。それを不妊医療の中で生かせないかと考え、1987年に 「Mind/Body」 療法をはじめた。
「Mind/Body」のグループワークは、全部で10回のコース。この中で、カップルで参加する回も3回設けられている。内容は、瞑想やヨーガなどによるからだのリラクセーション、呼吸法、栄養面での指導(アルコール摂取や喫煙の精神状態への影響など)、エクササイズ、認識の再構築、感情のコントロール法、社会的サポートを受ける方法、自己啓発法など、ひじょうにきめ細やかなプログラムだ。
グループの参加者は、治療中または一時休止をしている人たち。IVF の治療を受けている人は全体の半数ほどだとか。
「不妊治療は数多くありますが、IVF による治療が一番ストレスがかかると私は思っています。経済的にも負担は多く、仕事を続けながら治療に通うことは大変です。その中で、いかにリラックスできるか。それが治療を続ける鍵になると思います」
取材:きくちさかえ(2002年12月)