アメリカ不妊事情レポート-6
babycom ARCHIVE

ニューヨーク、ボストン、ロスアンジェルスで不妊治療を取材。 2002.12月

代理出産(3)

「代理母を経験した家族」

代理出産に関する法的な問題

代理母、卵ドナーのカウンセリング

代理出産によって赤ちゃんを授かった

代理母を経験した家族

医師の立場から



ブラウンさんが代理母をお願いしたシャナさん一家を、小さな町に訪ねた。

「あるときテレビで代理出産というものがあることとを知って、子どもに恵まれない人のために何か役に立てないかと考えていたんです」
彼女がインターネットのサイトで「代理母になることに興味がある」と掲示したところ、たくさんの人からメールがきたという。中にはゲイのカップルからの申込みもあったとか。その中のひとりがブラウンさんだった。

「キヌコはメールのやり取りがとても誠実だったので、直接会ってみることにしました。彼女はロスから4時間半かけて訪ねてきてくれました。話をしてみて、とても熱心で信頼できると思い決心しました」

ブラウンさんが手配した弁護士やカウンセラー、医師とのやりとりはスムーズに進んだ。契約を交わす中でただ一点、シャナさんが納得できないとした点は、出生前診断に関してだった。もし検査をして、胎児にハンディキャップのあることがわかったら、大変重いハンディキャップである以外は、中絶することはできないと主張したという。それに関してはブラウンさんは夫婦で相談し、結局、出生前診断は受けても仕方がないと思い、受けなかった。

「妊娠経過は順調で、何も問題はありませんでした。上の子たちには『今おなかにいるのはブラウンさんの家の赤ちゃんなのよ』と話ていましたし、3人ともとても喜んでくれました」

出産は3時間という、超安産。
「生まれたとき、赤ちゃんは首にへその緒を巻き付けていて、すぐにNICU に運ばれていったので、胸に抱くことはできませんでした。でも、赤ちゃんが目をぱっちり開けて、きょろきょろあたりを見回しているのが見えました。ほんとうにかわいかった」と笑う。
1週間、赤ちゃんがNICU に入院しているあいだ、先に退院したシャナさんは、毎日病院に通ってミルクを上げたという。
母乳はいっさい飲ませなかった。代理出産後の授乳に関しては、マニュアルがあるわけではなく、人によっては母乳を飲ませたいと思う代理母もいる。

「私の場合は、母乳をあげることはしたくなかった。赤ちゃんに愛情を感じて、気持ちが向かってしまうといけないと思ったのです」

赤ちゃんと離れても、出産後はおっぱいが張ってくる。それが自然に治まるのを待ったが、6ケ月ほどかかったそうだ。
彼女に代理母になった理由を聞くと「小さいときから母親になるのが夢だったんです。子どもに恵まれることがどれほど幸せなことかを知っているので、恵まれない人の手助けになればと思っていました」
夫のライアンさんは、敬けんなモルモン教徒。「教会では、人があなたのために役立つことをしてくれたら、あなたも人の役に立つことをしなさいと教えています。もし、自分たちに子どもがいなかったら、だれかに助けてほしいと望むと思います。私たちはその手助けができると思ったんですね」
しかし家族は、最初からシェナさんが代理母をすることを理解を示したわけではなかったという。周囲でこれまで、代理出産を経験したという女性の話は聞いたことがなかった。けれど、シャナさんは夫の両親や近所の人たちに気持ちを話し、みんなの理解を求めていったのだという。

「ブラウン一家とは家族のようなつき合いです。子どもたちも、赤ちゃんに会うのを楽しみにしています。代理出産をして、家族が増えたようで、とても喜んでいます」



ロスアンジェルスで開業している不妊専門のマイケル・ファインマン医師は、年間150件以上の体外受精と、150件以上の人工授精をおこなっているハンティントン・リプロダクティブ・センターの医師。この施設のIVF の成功率は、20〜29才で60%、31〜39才は50%、40才以降は20%以下と、年齢を平均しても40%ほど。その成功率の高さには定評がある。

「治療をはじめて間もない方にはおすすめしていませんが、これまで長年治療をされてきた方、IVF を2〜3回トライして成功にいたらない方には、治療の結果を見て、エッグドナーや代理母をすすめることもあります」とファインマン医師は言う。

代理出産には、体外受精した卵子と精子を、代理母の子宮に移植するジェステーショナル・サロゲートと、代理母の卵子を使ってクライアントの精子を代理母に人工授精するトラディショナル・サロゲートとがある。この施設では、授精卵を移植するジェステーショナル・サロゲートの場合、クライアントの卵子と精子の受精卵を使ったIVF の成功率は40%、クライアントの精子と卵子提供者の卵子を使ったIVF の成功率は67%とか。

「代理出産は、ほかの治療法の可能性がない場合に、血のつながった親子を生む方法だと考えています。いろいろ問題があるように言われますが、代理母と生物学的な母親が特別な関係を築くことができるという、ポジティブな見方をすることもできます」

しかし、問題は起こらないのだろうか。
「問題視している人は、明るい部分を見ていないのだと思います。出産で何が起こるかわからない、という議論はもちろんあります。しかし、代理母になる女性は過去に出産を体験している女性で、妊娠、出産のリスクが少なかったことを考慮してスクリーニングされます。そうした点で、リスク回避はある程度なされているので、命にかかわるようなことは、確率としてひじょうに少ない。これまで私の知る範囲内では、産婦に生命の危険的な状態が起こったということはありません。問題はむしろ、契約上のことに集約される。しかし、他人に子どもを出産してもらうことへの身体上のリスクについて、今後はもっと法的な議論も必要になってくるでしょう。
 代理母を引き受ける女性は、不妊で子どもをもうけられない人たちの助けになりたいと思っているのです。人の助けになることに喜びを感じている。あまり知られていませんが、そうした献身的な関係を結ぶことができるという点は、考慮されていいポジティブな面ではないでしょうか」 *取材協力/KB Planning
取材:きくちさかえ(2002年12月)


不妊VOICE-babycom-不妊の悩みや体験をシェア
高齢出産VOICE

アメリカ不妊事情レポートINDEX

アメリカ不妊事情レポート、ニュヨーク-babycom

ライン
1.NYの不妊レポート
不妊治療体験報告 in ニューヨーク
ニューヨークの二人の40代女性のケース

ライン
アリス・ドマール教授 2.不妊医療 in ボストン
アリス ドマール教授に聞く

ライン
全米最大の不妊治療センター 3.ボストンIVFセンター
全米最大の不妊治療センター
インタビュー&治療データ

ライン
高齢出産での出生前診断 4.不妊と高齢出産
卵ドナーという選択
高齢出産での出生前診断


ライン
アメリカの家族観 5.アメリカの家族観
養子縁組みという選択
国際養子縁組み

ライン
代理出産レポート 6.代理出産レポート
代理出産に関する法的な問題

ライン
生殖医療と母性 7.生殖医療と母性
不妊治療や医療化した出産について
バーバラ カッツ ロスマン教授



TOP▲