アメリカ不妊事情レポート-3
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ニューヨーク、ボストン、ロスアンジェルスで不妊治療を取材。 2002.12月

ボストンIVFセンター(3)

「先端的生殖補助医療のゆくえ」

IVFセンター2000年度 統計表

広がる不妊治療の選択肢

先端的生殖補助医療のゆくえ



このインタビューは、2002年12月上旬に行なわれた。その後、アメリカではクローンンベビーが誕生したと報じられたが、その真意については明らかにされていない。しかし、生殖補助医療の先にはそうしたクローン技術の問題も見えてくる。ハーバード大学医学部をバックグラウンドにもつボストンIVF センターの科学部部長に、先端的医療のゆくえについて聞いた。

Q クローン技術が開発され、それを人間に応用すると発言している医師もいますが、人間への応用についてどのようにお考えでしょうか。

Aクローン技術には、将来の医学分野に新しい光を当てる面もありますし、ひじょうに問題を含んだ面もあると思います。クローンの技術は現在、治療的な目的で研究開発されているものです。それはES細胞と呼ばれるものですが、ある人からとった細胞を培養して、それから臓器をつくります。免疫反応の出ない臓器を人工的につくり、移植につかうという研究は、医学的にはひじょうに大きな発展と言えます。一方、体細胞から同じ遺伝子をもつクローン人間をつくるという発想は、医学的なニーズは考えにくい。
われわれ医師仲間でも話していることですが、イタリアのアンティノリ医師がこれまつくってきたものは、プレスリリースだけではないでしょうか。彼はこれまでも、科学的なエビデンスは何も出していません。私自身は、彼の言う可能性についてはまったく信じていませんね。


Qクローン技術の人間への応用を、アメリカ政府は禁止しているのでしょうか。

Aクローン技術の人間への応用が、法律に違反するのかどうかについては、詳しいことはわかりません。アメリカの大統領は、クローン技術を人へ応用する研究には資金を出さないと言っていますが、それは政府が資金援助をしないということであって、民間からの資金が出ないということではありません。興味のある企業があれば、出資する可能性はあるということです。
しかし、われわれ医師仲間の間では、クローンの人間への応用に積極的な姿勢を見せている医師の話は聞いていません。


Q現在すすめられている胚をつかった研究によって、医学は大きな変換期を向かえているとお感じになりますか。

Aそれはもちろんそうです。クローン技術の研究や、ES細胞の研究は医療にとって大きな変換期と言えるでしょう。こうした研究の成果によっては、人間の細胞が一番はじめにどのようにできていくのか、あるいは授精卵がどのように分裂していくのかがわかるようになるのです。授精の細胞生理学が解明されるということは、非常に重要なことです。
細胞がどのようにしてできるのかがわかってくると、生物学の分野に新しい道を開くことになります。これまで体外受精や顕微授精では、外側からだけしかその成長ぐあいはわかりませんでした。
今後、授精した直後の細胞がどのように分離し、どのように育っていくのがわかってくれば、これまでは外側から見て受精卵が正常か異常かを判断していましたが、これからは内部を検査することによって、その発達がわかるようになるわけです。 現在は、超音波などで外部から形状を判断するしか方法はありませんが、今後は、子宮に授精卵を戻す前に授精卵の診断ができるようになるのです。検査用のマーカーもできるようになるでしょう。
こうした研究は、この研究所で現在すすめられているものです。授精のしくみや、受精卵の発達がくわしくわかるようになると、授精しやすい環境を人工的につくり出すことができるようになり、より生殖補助医療の成功率を高めることができると考えています。

取材:きくちさかえ(2002年12月)

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