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第3回 チェルシー&ウェストミンスター病院

アメニティ(環境)を重視する設計

チェルシー&ウェストミンスター病院
Chelsea and Westminster Hospital

チェルシー&ウェストミンスター病院は、ハイド・パークの南側、チェルシー地区にあるパブリックの病院だ。3年ほど前に建て替えられたばかりというこの病院は、白い壁がなんともおしゃれ。最近、欧米の病院は利用する人たちのことを考えて、アメニティ(環境)を重視する設計になっている。従来のように、消毒の臭いがする味もそっけもない病院のイメージからはほど遠い。
正面玄関を入ると、ビル中央が吹き抜けになっていて、外からの明るい光が差し込んでいる。そこにカラフルで大きなモービルが天井から吊り下げられている。デパートか遊園地のモニュメントのようだ。壁面には巨大なインスタレーションも見える。エレベーターはガラス張り。各階には吹き抜けの両脇に廊下が通ていて、どこからもこの広い贅沢な空間が楽しめる。


さて、産科棟のドアを入ると中央にナース・ステーションがあり、いくつかの分娩室がある。分娩室はすべてLDR方式だ。
LDR方式というのは、陣痛 (labor) 分娩(delivery) 回復 (recovery) をひとつの部屋で過ごす分娩室のこと。これまで入院すると、まず陣痛室で過ごし、分娩第二期に分娩室に移動し、さらに生まれたあとは回復室に移って2時間休み、それから入院室に移動と、産婦はあちこち行ったり来りしなければならなかった。しかし、こうした移動によって産婦はリラックスできなくなってしまう。その緊張が出産の経過にも影響することから、欧米ではLDR方式がとり入れられるようになった。

分娩室に入ると正面に大きな窓。とても明るい雰囲気だ。従来の手術室のような分娩室の重々しいイメージはない。各部屋にバス、トイレが付いていて、部屋の角には観用植物も見える。ゆったりとした間取り。付き添う人用の椅子もあるし、いかにもイギリスらしくティー・セットも用意されている。これなら部屋の中でうろうろしたり、ゆっくりくつろげそうだ。

分娩台は背もたれの角度が自由に変えられる電動式のシングル・ベッド。これは簡単に動かすことができて、ベッドの上での出産を望まない人は、部屋のはしにベッドを寄せ床にマットを敷いて、そこで産むこともできる。
壁には血圧計、酸素吸入器、笑気麻酔用ガス、ライト、連絡用ブザーなど出産時に必要なものがコンパクトにまとまって備えつけられている。

アクティブ・バースが広まってから、欧米では出産のとき、産婦が自由に自分の楽な姿勢で過ごすことが病院の中でも一般的になってきた。そんなことあたりまえ、と思うかもしれないが、実際は病院の管理体制や設計上の都合から、思うように自由にふるまえないことが多いのだ。

入院すると、分娩監視装置をつけ、点滴をした場合にはほとんどベッドの上に釘づけになり、思うように姿勢が変えられない。分娩台の上では、それがもっと顕著で、足台の上に足をのせ、姿勢は仰向けに完全に固定されてしまう。赤ちゃんを産むためにそれが必要なら、多少の時間はしかたないのではないかと思っている人も多いのだけれど、実際は、おなかが一番大きい状態で、陣痛に苦しんでいるときに、仰向けの姿勢に固定されてしまうのはそうとうきつい。それでも、せいぜい10〜20分くらいならまだ我慢できるかもしれないが、場合によっては分娩台にのぼってから1時間、2時間も同じ姿勢でいきまなければならないこともあるのだ。

というわけで、欧米の女性たちの中には、分娩のとき姿勢が自由に変えられるかどうかが出産場所を選ぶひとつの基準にしているという人が多い。こうしたニーズに答えるように、病院でも床にマットを敷いたり、分娩椅子を用意して、産婦が希望する姿勢で出産できる施設が増えてきている。


さて、チェルシー&ウェストミンスター病院のもうひとつの特徴は、分娩室のとなりにお風呂が備えられていることだ。分娩室のドアを開けると、そこには大きめの洋バスがある。産婦は陣痛のあいだ、いつでもお風呂に入ることができる。もちろん、水中での出産も可能だ。

 日本では”水中出産”という言葉が一般的になっているので、水中出産というのはいかにも水の中で赤ちゃんを産むことのように思われているが、欧米ではむしろ『水を使ったお産』というふうに捕えられている。陣痛のあいだ、水を利用することはリラックスにつながり、陣痛の緩和にもなる。そうした効果を考慮して、イギリスではいくつかの病院の分娩室にお風呂が設置されるようになった。

産婦は好きなときに温水につかり、出たくなれば出て、そのまま産みたければ水中で赤ちゃんを産む。驚いたことに、このお風呂にも笑気ガス麻酔用の装置が備えられていた。なんと、笑気ガス麻酔使用の水中出産が可能なのである。実にフレクシブルな病院の対応。結局お産は、なんでもありなのだ。選択肢が多いというのは、本当の意味でこういうことなのではないかと思う。

もちろん分娩ユニットのとなりには手術室もあり、必要な場合には帝王切開がすぐにできるようになっている。さらにこの産婦人科の大きな特徴は、オープン・システムをとっているということだ。オープン・システムというのは、病院に勤めている医療スタッフでなくてもここの分娩室や医療設備を使うことができるというシステムのこと。たとえば、ホーム・バースを希望した人が陣痛の前や最中に何か問題が起こった場合、すぐにこの病院でケアが受けられる。
さらに、ホーム・バースを担当する開業の助産婦がいっしょに分娩室に入院し、その助産婦が出産を介助することができるのだ。こうしたシステムがあれば、産む人も助産婦も安心してホーム・バースを選択することができるだろう。

こんなに整った環境が保障されている病院が、出産費用無料。だれだってこの病院で産みたくなってしまうが、やはりそこは公立。この地域に住んでいる人以外は利用することができない。さらに、チェルシー&ウェストミンスター病院のように環境が整っている施設は少ないらしく、同じパブリック病院でも設備や医師の対応などは施設によって違うようだ。

引用/『お産はっけよい』現代書館1995

 写真/文 きくちさかえ  1996掲載 1997,1999更新


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